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杏林大学学長 長澤俊彦氏


(2007年10月17日更新)

実際に役立つ力をつける、コミュニケーション能力を磨く
それを通じて信頼に足る人を育てていきたい

<「正しい大学」のあり方を模索していく意気込みをPR>

 杏林大学は医学部、保健学部、総合政策学部、外国語学部からなる総合大学です。昭和45年に医学部を設置した当初より、総合大学を目指し、昭和63年以降、現在のような4学部体制で歩んできました。
 今年から「正しい大学」という言葉でPRを始め、反響を呼んでいます。設立時から「眞・善・美の探究」という教育理念を受け継いでいますが、「杏林に入ったら眞・善・美の探究ができます」といっても、哲学的なこの言葉が今の時代の若い人にはストレートに響かないのではないかと懸念し、この教育理念を受験者の目線で捉え直して表現できないだろうかと議論を重ねました。結果、全学が共有する精神は、「正しく王道を歩んでいこう」ということではないかという考えに行き着きました。「正しい大学を目指し、正しい道を模索しながらたゆみなく努力します。一緒に頑張っていきましょう」というメッセージを、真正面から伝えていきたいと思っています。

<国家試験100%合格は大前提。さらに付加価値をつける>

 4学部の中で入学希望者が最も多いのは医学部と、保健学部の臨床検査技術学科と看護学科です。今日、資格をもって専門的な仕事をしたいという人が増えていますから、それが人気につながっていると受け止めています。大学としてその期待に応えるためには、医学部と保健学部で学ぶ全ての学生が国家試験に合格できるよう指導することではないかと考えています。医学部で担任制を導入しているのは、全員合格が単なる目標ではなく、当たり前の姿として実現させるためです。また保健学部では、複数の国家資格取得へのルートを設けたカリキュラムを設定して、資格取得をバックアップしています。
 ただし資格取得は医療従事者としては前提でしかなく、それだけでは不十分です。学生にはさらにプラスアルファの力を身につけてもらい、送り出したいと考えています。その一例として医学部には医学英語の必修授業やクリニカルクラークシップという自分で選んだ国内外の病院で研修できる制度があります。一方、保健学部でも他学部の科目の履修が可能であり、幅広い教養を学ぶことができます。こうしたことは、本学が総合大学であるからこそできることなのだと思います。
 また医療を学ぶ学生の質を高いレベルで維持するために本学医学部では、十数年前から推薦入試を廃止しています。近代社会において医師を目指す人は、従来以上に高度で膨大な知識と技能が求められています。本当に実力のある人、本気で取り組める人でなければ、医師になるのは難しい時代になっているのです。そのため、推薦枠を設けずに純粋に実力勝負の入試を行っています。同じような理由から寄付金制度も廃止しており、入試・入学制度においても公明公正な「正しい大学」づくりを目指しています。

<外国語学部は実地で役立つ語学とホスピタリティがテーマ>

 外国語学部が教育の柱としているのは、現実社会で役立つ「プラクティカルな語学力」です。そのためTOEICや中国語検定など、具体的な検定試験を目標とする独自のプログラムを開発しており、「使える・話せる」実践的な語学力の確実な修得を目的とした教育を行っています。国内外での語学研修や留学を必修で行っているのも、さらに実践力を伸ばすためです。
 もう一つの柱が、人をもてなし、癒し、憩わせる「ホスピタリティ」の精神を身につけることです。かつての国際関係においては政府や企業が大きな位置を占めていましたが、今は人と人とのつながりが重要性を増しています。その中で大切なのがホスピタリティの精神だと考え「語学をホスピタリティに役立てる」ことを学部全体の指針としています。
 観光業界を目指す人を対象とした観光文化コースでも、ホスピタリティという広い視野から観光を考えています。サービス業のノウハウを一流ホテルや航空会社での勤務経験のある外部講師から学ぶ「ホスピタリティ実習」のように、観光業界の職業を意識した授業を行う一方で、地元八王子市と共同で八王子の観光資源の調査研究等も行っています。

<総合政策学部はゼネラルな社会基礎力を育む>

 総合政策学部は、幅広く社会を学ぶのが特徴です。社会で役立つスタンダードな基礎知識や社会常識を幅広く学んだ上で専門コースに進みます。法学部や経済学部などのように最初から専門に特化しないことで、幅広い視野で学べるのがメリットです。 こうした教育内容のねらいは、卒業後に実社会で活躍できる力を身につけることです。実際社会では、企業や組織によって仕事で要求される専門知識は異なりますし、時代の変化に合わせて絶えず新しいことを学び取っていかなければなりません。力を発揮していくためには、幅広い知識としっかりした基礎力が必要だと考えます。
 業務や組織全体を鳥瞰的に見渡すことのできるゼネラルな力をつけるという方針にそって、今年度、初年度教育を再構築しました。特に力を入れているのが、文章力やデータ分析力、表現力などの基礎能力を少人数のゼミで鍛える基礎教養科目です。このほか政治、経済、法律分野の一般常識を学び、知識の土台を固めていきます。
 また幅広い社会教育を行う一方で、資格取得も支援しています。通常授業として、公務員や簿記の試験対策講座を開いており、講義科目と実際の問題に取り組む演習科目を通じてトレーニングを重ねていきます。

<信頼に足る人材を送り出す、そのための教員教育>

 大きく括ると、医療系学部は一定レベルの資格をとること、文系学部は社会に直結した力をつけることを教育の軸とする一方で、その根底には、「信頼される人材」を育成するという精神が宿っています。
 医療現場では特に、患者さんとの信頼関係をつくることが、不安を軽減し、治療効果や満足度を上げるうえで不可欠です。確かな技術があることは言うまでもありませんが、それと並んで重要なのがコミュニケーション能力や人間性を備えていることです。 一方一般企業や組織で活躍することを前提とした文系の学生に必要な素養は、「誠意をもって人と接する」「責任感をもって業務を遂行する」「素直な心」「強い倫理感」といったことだと思います。幸い、本学の卒業生はそうした点が高く評価されており、就職率は常に90%を越えています。毎年企業との懇親会を開いていますが、今年もある企業の方から「杏林の卒業生は良い人材です。また採用したい」と言っていただき、信頼にこだわる教育が活きているのを実感しました。卒業生の多くは地元多摩地区に就職するので、良い人材を輩出するという形で、地域貢献ができていると自負しています。
 このような人材を育てられるかは教員の教育力にかかっています。医学部、保健学部で国家試験合格100%を目指すには、教員の指導力と熱意がなければ学生はついてきません。また医療に対する姿勢なども、ことさらに授業を受けて身につくというものではありません。授業の中で折に触れて医療従事者としての心構えを繰り返し問いかけていくことが学生の自覚を強めていきます。つまり日々の授業で接する教員の人間性が学生の意識を形づくっていくのです。一方、文系学部の学生は「ゼミの先生と学生」というフラットで密な環境で過ごします。その中で尊敬できる先生に出会った学生は、人格的に大きな影響を受けます。
 ですから杏林ではFD(ファカルティ・ディベロップメント)を非常に重視しています。取組みの一つとして、外部講師によるFD講座が挙げられます。今年は経済産業省の政策立案担当者や、他大学の教育問題の専門家などをお呼びしました。インパクトのあるお話を聞き、私も含め良い勉強になりました。

<医学部の精神をベースにした総合大学>

 本学は医学部と文系学部が揃っている点で、珍しい私学だといえます。医療系の大学というイメージが強いのですが、他の学部の良さも引き出していき、総合大学としての評価を上げていこうと考えています。
 本学の原点である医療の世界で大切なのは、患者さんを中心に広く信頼される医療従事者であること。誠実、親身にホスピタリティの精神を発揮することです。この医学部の精神は、文系学部を含め、全学に共通して流れています。今後もこの精神を引き継ぎ、正しい教育の王道を進むべく努力を重ね、信頼に足る人材を社会に送り出していきます。 

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【Profile】

長澤俊彦氏
1956年、東京大学医学部医学科卒業。1961年、同大学大学院修了、医学博士取得。1957年、東京大学医学部第三内科入局、西独ビュルツブルグ大学内科留学、東京大学医科学研究所免疫学研究室出向を経て1974年、杏林大学内科教授。同大学医学部長を経て1998年より現職。日本内科学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本リウマチ学会、日本アレルギー学会等にて学会活動を展開。このほか、厚生労働省、環境省、東京都、臓器移植ネットワーク、日本医学教育振興財団、日本私立医科大学協会等の社会活動にも携わる。また環境行政の推進に大きな功績があったということで2005年6月環境保全功労者、翌2006年10月には長年にわたる腎不全の医療に貢献したことにより東京都功労者にも選ばれる。

 

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