高校トップが語る「明日の学校」

Vol.1 花咲徳栄(はなさきとくはる)高校(埼玉・私立) 校長 小林清木先生

混乱が続いていた埼玉県立福岡高校と所沢高校に赴任し、奇跡的な回復を果たしてきた小林清木校長。2校を去るときは、生徒、教職員、保護者に涙で見送られたという逸話をもつ学校改革のエキスパートである。2013年4月からは、学校法人佐藤栄学園 花咲徳栄高校の校長として新たな改革に取り組んでいる。その目指すところをうかがった。


小林清木先生

【Profile】こばやし・きよき●三重県生まれ。早稲田大学教育学部理学科卒業。専攻は数学 関数解析。1974年に埼玉県立熊谷高等学校教諭となり、以後、県立高校8校で34年間勤務。うち、教頭として2校5年間に続き、埼玉県立福岡高校と埼玉県立所沢高校の校長として6年間在職。08年に学校法人佐藤栄学園埼玉栄高校教頭を1年勤めた後、目白大学、埼玉県の高校で数学の教鞭を執り、13年4月より現職。



生徒・教職員と徹底的に向き合い、ビジョンを示していくこと。
建学の精神に立ち返ること。それが、学校改革の勝利の方程式

 学校というのは、校長のリーダーシップがないから混乱をするんだということが言われますが、私はそうした考えに反対です。校長が独断で決めたことで、かえって混乱が増してしまうケースもこれまで多く見てきました。私が公立高校2校の学校改革を行ったときは、1300人ほどの生徒と教職員を体育館に集めて徹底的に向き合い、話を聞いて、一人で2〜3時間マイクを握って説得するということを何度も行いました。専門が数学なので論理の脆弱性は見抜けますから、「ここまではいいけれど、この考え方は違うよ」というように、会話をしながら説得していくわけです。きわめて論理的に、合理的な理由をもって説得すれば、納得感がでてくる。それが大切だと思っています。精神力と体力が必要になるので大変ですが、数学の世界では問題が解けないことなど日常茶飯事です。ある方法でやってダメなら、発想を変えて考える。成功するまで延々やる。その過程が楽しいというタイプだから、学校改革も楽しめるのかもしれません。

 また、学校の改革に取り組む上では、建学の精神に立ち戻ることも大切です。公立の学校には建学の精神がありません。ただし、埼玉県にはもともと私学的な学校として設立され公立になった学校が3〜4校あります。所沢高校がそのひとつでした。そのなかにあっては、「こういう建学の精神があるんだから」という説得ができる。学校を一つにまとめていくには、やはりビジョンが必要なのです。

難関大合格だけが、明日の日本を支えるのではない。
知性、社会常識、健全性を兼ね備えた中堅を育てることこそ大切

小林清木先生

初代校長・佐藤照子先生の銅像

 花咲徳栄高校に赴任したときも、私がまず着手したのは、初代校長の故・佐藤照子先生の思いを発掘することでした。建学の精神は「人間是宝(にんげんこれたから)」。これは、人は生きた資本資産であるということです。校訓は「今日(こんにち)学べ」。この言葉は、非常に深い意味をもっています。過去の成功例というのは今の自分を支え、自信を与えてくれるものではあるけれど、未来を保証するものでも、担保するものでもありません。自分は未来にどうありたいか、未来のためにどうするべきかを考え、ロールモデルをきちんと作って、それに近づけていくために今、成すべきことを成す。これが「今日学べ」ということだと私は解釈しました。つまり、キャリア教育を実践せよということなのです。

 こうした建学の精神と校訓を受けて、新たな改革のビジョンとして打ち出したのが、「知性、社会常識、健全性を兼ね備えた日本を支える中堅を育てる」ということです。日本では今、どの高校も入学生の偏差値を上げることと、難関大学に入れることを教育の大きな尺度にしているように見受けられます。今春、高校を卒業した高校生は全国で109万人。東京大学の合格者は3109人。全体から見れば、わずか約0.3%です。天才もいなくては困ります。しかし、この国はわずかな上位校合格者だけで成り立っているわけではありません。あとの、圧倒的多数の子たちをどうするのか。今、日本の高校はそこを考えて生徒の育成ビジョン、育成プログラムを考えて行くべきではないでしょうか。

具体的な改革目標は、アクティブラーニングへの転換、
マナー教育と文武両道の推進

 知性を育てるためには、学問第一。そのためには7限授業や土曜授業、長期休暇中の補習講座などの量的増加だけでなく、質的改善が大切です。具体的には、従来の一斉授業から生徒主体型のアクティブラーニングへの転換です。私自身、大学で教鞭を取っていたときにアクティブラーニングを実施して効果をあげた経験があるため方向転換に迷いはありませんでした。ただし、組織的に行うには教員の研修に時間がかかることが問題です。そこで本校では、現河合塾、元埼玉県越谷高校教諭(物理)の小林昭文先生の指導のもと、今年度から年間4回、1回当り4〜8時間の全体研修を行い、外部研修に教員を派遣するなどして、授業研究を本格化させています。秋には2週間程度かけて公開授業も行いました。授業には誰が乱入してもいいことになっているので、私も数学の授業に乱入しました(笑)。120人の教員がいるので、120通りのアクティブラーニングがあっていい。どう変わっていくか、今、とても楽しみです。

 また、アクティブラーニングは現象面で見ると授業中のマナーがないようにとらえてしまう危険性もありますから、同時にマナー教育を重視しています。初代校長によって確立された行動目標のひとつに「あいさつ」があり、きちんと立ち止まって挨拶することが全てのマナーに通ずるという考えが徹底されてきたため、来校される方は一様に評価をしてくださいます。しかし、さらにマナー育成を強化するため、今年度は校内に流すチャイムを校歌に変更しました。吹奏楽部の生徒たちがチャイム楽器を演奏する3パターンを作り、その中から1つを選んで採用したのです。自分たちが作ったチャイムだと、やる気が出る。規律を守る気になる。こうした取り組みも、生徒と教職員がひとつになり、学校を変えていくという意識につながるのではないでしょうか。

 そして、中堅育成ビジョンの最後は、健全性の育成。これは健全な心を育成したいということです。そのためには、文武両道が高校生のあるべき姿だと考えています。現在、部活動加入率は1年生78%、2年生72%、3年生60%。かなり高いと思います。国公立大学合格者は今春25人。結果はともかく、改革を進めるからには文武両道日本一を目指し、生徒たちに生き生きと活発な高校時代を過ごさせたいですね。

「生徒の幸せのために」という使命感だけが私の行動基準。
そのためには、教師も「今日学べ」の精神をもち続けよ

小林清木先生

「高校生に読ませたい本です!」

 私が教師になったのは、家庭環境が大きかったと思います。父が僻村の医師で、「人の幸せのために」という考え方が、第一のベクトルでした。私は数学が大好きで、研究者の道もあったのかもしれませんが、アルバイトで家庭教師をやったら、おもしろくておもしろくて、教師を選んだ。以来、私のベクトルは「生徒の幸せのために」。それだけです。たったひとつでいい、自分の信念、使命感があれば、いろんなことがあっても乗り越えられる。改革もなし遂げられるのではないでしょうか。

 そのためには、やはり教師も「今日学べ」です。未来を想定して、ロールモデルをしっかり作って、それに向かってたゆまず、楽しんで学び続ける。ロールモデルはカッコいいものである必要も、他人と同じである必要もありません。私のロールモデルは、90歳まで現役で医師として人のために尽くした父親です。父よりも1年でも長く生き、1年でも長く人の役に立ちたい。だから、疲れていても生徒と一緒に、毎朝校庭を走る。そうすると、やる気がわいてくる。教員たちが疲れた顔をしているとき、私は「スキップしながら教室に行ってる?」と聞くんです(笑)。教師が楽しんで授業をしていれば、生徒もついてきてくれる。私はそう信じています。

Personal file

小林清木先生●趣味/筋トレ(毎朝、生徒と2キロのランニング。ストレッチ、腕立て、腹筋、スクワット、懸垂をして8時から会議に臨む)、スポーツ(89年度まで埼玉県高等学校テニス専門部専門委員。最近はテニスからゴルフに)
●好きな言葉/「学問に王道なし」
●人生の師/父(僻村を元気にしたいと三重県尾鷲で90歳まで現役医師として仕事を続け、97歳で鬼籍に入る。毎日ランニングと体操を日課にし、最晩年まで元気に生きた)。学問の師/日本を代表する数学者、宮寺功先生(解析学・関数解析)。学校経営・改革の師/学校法人佐藤栄学園の故・佐藤栄太郎初代理事長、故・佐藤照子初代校長。
●座右の書/座右の書はありませんが、最近は高校生に読ませたい本の発掘に夢中。
●教師をしていてうれしかったこと、辛かったこと/授業がウケたときは、いつもうれしい。逆に悲しいのは授業がダメだったとき。


学校長挨拶

http://www.hanasakitokuharu-h.info/guidance


花咲徳栄高校

【School Data】
普通科・食物科学科(食育実践科に改称予定)・男女共学
URL   http://www.hanasakitokuharu-h.info/
埼玉県加須市花崎江橋519


(初出日:2013.11.20)取材/キャリアガイダンス編集顧問 角田浩子・まとめ/丸山佳子
※肩書等はすべて初出時のもの