教育トピック

教えて!「高校の必修科目のゆくえ」

 下村博文文部科学相は1月7日の会見で、高校学習指導要領の次期改訂で日本史を必修化するとともに、新教科「公共」を導入したい考えを表明しました。高校の必修科目は今後どうなるのでしょうか。

 学習指導要領の改訂に関して下村文科相は既に、小学校英語や小・中学校の道徳の教科化などについて課題を整理した上で、中央教育審議会に諮問する考えを明らかにしていました。改訂時期について明言はしていないのですが、東京オリンピック・パラリンピックの開催年である2020年度からの本格実施を想定してスケジュールを考えているようです。そして現段階で高校について挙がっている課題が、日本史と「公共」です。

 日本史には関しては、横浜市教育委員会が10年度から「横浜市立高校版学習指導要領」で日本史A ・Bのいずれかを必履修科目に指定したことを皮切りに、12年度から東京都教委(独自科目「江戸から東京へ」を含む)と神奈川県教委(同「郷土史かながわ」「近現代と神奈川」を含む)も必修化に踏み切りました。下村文科相は会見で「グローバル化が進む中で、英語教育とともに日本人としてのアイデンティティーを育てるための日本の歴史や文化に対する教養を備える人材育成が必要。東京や神奈川で実績が出ていることを検証し、全国でそのような形に持っていくのが望ましい」と述べていました。

 また、「公共」は政権を奪回した2012年末の衆院選の総合政策集「J-ファイル2012」と13年夏の参院選の「J-ファイル2013」にも、高校で規範意識や社会のルール・マナーを学ぶ新科目「公共」を設置することを盛り込んでいました。高校の道徳を独自に教科化する例には、茨城県教委の「道徳」と東京都教委の「奉仕」(いずれも07年度から)があります。

 高校の必履修科目といえば、13年度から本格実施が始まった新指導要領で、国語や数学、英語に共通必履修科目が設定されています。これは、選択必履修を原則とした旧指導要領の考え方を改め、「共通性と多様性のバランス」を重視する考え方によるものでした。

 高校の新指導要領は小・中学校に比べ、十分な検討を加える余裕がなかったという反省が省内にはあります。しかも履修科目による共通性と多様性は、それ以前からの課題だったといいます。教育課程行政に詳しい元文部科学事務次官の銭谷眞美・東京国立博物館長は昨年11月の講演で、現代社会を例に「教育課程は1年生で共通性を持たせて義務教育の総復習をし、2・3年生で高校独自の付加価値を付けていくというのが長い間の考えだったが、なかなかうまくいかなかった。日本史も必修にしておけばよかった」との見方を示していました。

 授業料無償化を契機に発足した中教審高校教育部会でも「全ての生徒に共通に身に付けさせる資質・能力(『コア』)」とは何かが論議され、昨年1月の審議経過報告では「社会・職業への円滑な移行に必要な力」と「市民性」を重視した上で、これらの一部を構成する「批判的に考える力」「説明する力・議論する力」「創造力」「人間関係形成力」「主体的行動力」「自己理解・自己管理力」「職業観・勤労観等」「公共心」「社会奉仕の精神」「他者への思いやり」「健康の保持増進のための実践力」をコアの要素として提案していました。指導要領が示す必履修教科・科目は、こうした高校教育のコアを全ての生徒に身に付けさせるための枠組みだ、と位置付けています。

 中教審の指導要領改訂論議ではキャリア教育やシチズンシップ(市民性)教育も含め、何が高校教育のコアで、そのための教科・科目の在り方はどうあるべきかの、突っ込んだ議論が期待されます。

 決して日本史や道徳の話だけではないのです。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2014.1.21) ※肩書等はすべて初出時のもの