教育トピック

教えて!「日本人の学力」

 昨年末に相次いで発表された経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査」(PISA=ピザ)
「国際成人力調査(PIAAC=ピアック)の結果は、国際的な日本人の学力の高さを示すものでした。
ところで学力は「ゆとり教育」によって低下し、「脱ゆとり」によって回復したと説明される向きも多いのですが、本当でしょうか……?

 まず確認しておきたいのは、OECDは別に“世界学力コンテスト”をしているわけではない、ということです。2000年から3年ごとに実施しているPISAにしても今回(11~12年)初めて行ったPIAACにしても、学校で学んだ知識をそのまま確認するのではなく、知識を使って社会で活躍できる力(コンピテンシー)を測ろうとするものです。そうした能力が、その国・地域の経済発展や市民社会に貢献すると考えてのことです。

 さて、PIAACでは「読解力」と「数的思考力」が参加24カ国・地域中1位になりました。対象年齢は16~65歳と幅広いものですから、日本人全体の潜在的な能力の高さを改めて確認するものであり、それが今日の経済大国を支えてきたことは間違いないでしょう。

 いろいろ話題になるのがPISAです。2003年の結果は「学力低下」の根拠とされ、06年の低迷期を経て「ゆとり教育」の見直しによって09年に回復傾向を見せ、今回の2012年では再びトップに立った――と報道などでは解説されることが多かったようですが、本当でしょうか。12年の数学的リテラシーは「03年の水準まで回復した」というのがOECDの評価です。03年は学力が低下した年ではありませんでしたっけ? 12年結果は3分野(読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー)でOECD加盟国中1~2位になったことで「トップクラスに返り咲いた」と喜ぶ向きもあるようですが、参加国・地域の順位は4位か7位です。なぜマスコミは「依然としてトップクラスではない」と言わないのでしょう?

 そもそも国際順位は参加国・地域の増減によって変わるもので、平均点も1点2点の差にあるわけではなく、事実OECDでは統計的有意差があるかないかで学力グループを判別しています。

 注意したいのは、12年の調査対象となった日本の15歳、すなわち高校1年生は03年度に小学校に入学し、「ゆとり教育」と批判された旧学習指導要領(小・中学校は02年度から全面実施)で最初から学んだ学年です。もちろん文部科学省が02年当初から学力向上路線にかじを切り、03年末に指導要領の一部改正を行ったことで各地域・学校で学力向上対策に取り組んだことや、とりわけ07年度から始まった全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の影響が大きかったことも事実でしょう。ただし全国学力テストは国語と算数・数学でA(主に知識)、B(主に活用)の2種類の問題が出題されており、このうちB問題は「PISA型学力」を意識したものです。今では学校教育法や新指導要領に「思考力・判断力・表現力」として位置付けられていることは周知の通りです。

 だいたい指導要領の実施から1年や2年ですぐ学力が上がったり下がったりするというのも、おかしな話です。ジャーナリストの池上彰さんが指摘しているように(朝日新聞13年12月20日「新聞ななめ読み」)、国内での主なPISAの結果の受け止め方は、必要な情報を取り出して読み取る「PISA型学力」に欠けるように思えてなりません。

 PISA2012では「問題解決能力」の試行も行われており(結果は3月発表予定。本格実施は15年)、18年には「グローバル・コンピテンシー」の測定ができないか検討中だといいます。国境のボーダレス化が進む中、文化や宗教の違う多様な人たちとも協調しながら仕事をし、新しい価値を生み出す能力が今後の世界で求められる、というのがOECDの認識です。そんな時に、マスコミを始めとした1点刻みの知識を競うような旧態依然の学力観でいいのでしょうか? 今後の大学入試改革にも共通する課題であり、次期指導要領改訂の焦点であるとも言えるでしょう。

 

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/


(初出日:2014.2.18) ※肩書等はすべて初出時のもの