高校トップが語る「明日の学校」

Vol.2 愛知教育大学附属高校(愛知・国立) 副校長 神谷政和先生

愛知県の県立高校で30年間教鞭を執り、2012年10月より愛知教育大学附属高校の副校長に就任。その任は、7年前より進めてきた学校改革を加速させることだと言う。県立でも私立でもない国立附属高校のあり方とは何か? 原点を模索しながら進める新たな取り組みについてうかがった。


神谷政和先生

【Profile】かみや・まさかず●1959年、愛知県生まれ。早稲田大学教育学部英語英文科卒業。1983年、愛知県立安城高校着任。90~2010年まで愛知県立豊田南高校に勤務。うち、03~09年教務主任。10~12年9月まで愛知県立豊田北高校教頭。12年10月より現職。



地域から見放されたら学校は立ち行かない。
過去の低迷経験を教訓に、新しい国立附属のあり方を考えていく

 現在、国立大学の附属高校は全国に21校あります。「附属」と言えばおしなべて有名進学校ですが、本校はそうではありません。今年で創立41年目を迎えますが、十数年ほど前には大学進学率が下がり、生徒指導に苦労するという低迷期がありました。当時、愛知県の西三河地区内の公立高校は補習や週末課題、朝の小テストなどを取り入れて進学率を上げていました。一方、本校はもともと自由な校風があり、そこまで進学指導を徹底していなかった。また、先生たちは生徒の心への訴えかけを熱心にしていたが、自由な校風をはき違える生徒も出てきた。次第に「附属に行くと大学には行けないよ」という評判が立ってしまったのです。

 国立附属という名前があっても、やはり学校は地域の中で信頼を得なければ立ち行かない。地域に見放されたら終わりです。そこで、7年前から高大連携の研究を目的に愛知教育大学との「高大連携特別選抜入試」をスタートさせ、制服も変えるなど本格的な学校改革に乗り出しました。愛知教育大学に毎年何名かが進学できるということで教員志望の生徒が集まるようになり、ここ数年でようやく学校のイメージが上がってきた。今は”新生附属”としてこの改革を維持発展させていくことが、本校の課題です。

 とはいえ、進学実績が上がればいいと考えているわけではありません。「あたたかい人間になろう たくましい人間になろう おおらかな人間になろう」という教育目標を掲げているように、人間力の育成を大切に考えています。特にこれからの時代は、社会や地域に貢献できる「共生の心」「折れないたくましい心」「多面的なものの見方」というものが必要になってくるのではないでしょうか。国立附属の最大の特色は、大学との連携です。常に大学生がそばにいて、大学の先生からも情報が入ってくる。このアカデミックな環境を生かし、国立附属のあり方とは何かを模索しながら、いい学校を作っていきたい。それは、国立附属のエリート校ではないからこそできる夢のあるチャレンジだと思っています。

溢れる情報のなかで選択を迫られる難しい時代。
自主性をもって生き抜く力を付けるために、さまざまな経験の機会を

神谷政和先生

 人生とは選択の連続です。今の子どもたちは溢れる情報のなかから、自分に必要なものを選択していかなければいけない。これは、とても大変なことです。そうしたなかで物事を見極める目をもち取捨選択していくためには、生徒たちにさまざまな経験を積ませてあげることが一番だと思っています。

 愛知教育大学との高大連携の取り組みとして2年生では「スクール」があります。これは、生徒全員が対象ではありませんが、夏・冬・春の長期休みのときに大学で学びについての講義を受け、自分の志望を固めていくプログラムです。3年生になると高大連携入試の候補者が大学で専門的な授業を受け、その学習内容を発表していく「チャレンジ」を行い、そのレポートや発表から総合的に判断し、大学が合否の選抜をします。合格が決定した3年生の3学期からは入学前指導をします。

 附属小学校や附属特別支援学校での授業見学や実習、仲間を生徒に見立てて「チャレンジ」で学んだことを行う実践演習、連携入試で大学に合格した先輩との懇談会など、生徒たちの目的意識を高めるためにさまざまな工夫をしています。

神谷政和先生 また、それ以外にも、他大学や地域との連携で分野別説明会という名称の出前授業を行ってきていますし、11年間SPP(サイエンス・パートナーシップ・プログラム)の採択を受け、大学や研究所の先生方、延べ90人近くと連携しながら、さまざまな取り組みを続け、進路意識を育てています。

 対外的な取り組みとしては地域の清掃などを行う「サタデーボランティア」や愛知教育大学が子どもを対象に毎年開催している「科学・ものづくりフェスタ」に附属高校のブースを作り、本校の生徒たちが実験を小学生に教えるということもやっています。

 ただし、いずれも全校生徒が参加しているわけではありません。できれば経験をしてきた生徒たちが他の生徒に影響を与えてほしいのですが、これがなかなか難しい。教室でうまくリンクさせていく仕組みを考え、生徒たちが自ら一歩踏み出す力を養っていくことも、今後の課題だと考えています。

 理系の取り組みは以前から多かったので、私が副校長になってからは文系にも力を入れ、昨年からは県の埋蔵文化財調査センターと提携した地歴の授業を始めました。過去数年間途切れていた国際交流事業を再開し、来年からオーストラリアに毎年数名を短期留学させることが決定しましたし、修学旅行を長崎から沖縄に変更しました。親元を離れて海外から日本を見る、戦争の傷跡や基地の問題を実際に沖縄に行って見ることで、考える力や人生観を作ってほしい。そして、自主的に学ぶ、自分でいろいろなものを発見していく力をつけてほしいと思っています。

未来の宝を育てるという気概とプライドをもった先生たちと、
新生附属を作っていきたい

 私は教師になることが第一志望だったわけではありませんが、もともと英語が好きだったので、地元に戻ってやりがいのある仕事として、英語教師を選んだのです。しかし、いい生徒たちに囲まれ、未来の宝である子どもを育てることに喜びと夢を感じ、教職こそ天職だと思うようになりました。常に心がけていたのは、今、自分の目の前にいる生徒と接する時間を大切にすること。自分の姿を見せながら生徒と真剣に向き合うということです。教頭になってからも授業はしましたが、担任がない。担任がない教師というのは寂しいですね。

 そんなことを思っていたら、2012年秋に突然の人事異動があり、国立附属の副校長になりました。今度は授業もできません。でも、その代わりに自分の教育ビジョンを具現化することはできます。そして、生徒たちのモチベーションをあげていこうといろいろ企てている教員たちがいる。今は、本当にいい高校に赴任できたと思っています。

 副校長の仕事のなかには人事も含まれます。本校で頑張りたいという先生を見つけ出すことも私の使命。そのためにいろいろな場所で本校のPRに努めています。未来の宝を育てるという気概とプライドをもった先生たちと新生附属を作っていきたい。そして私自身は、生徒のそばにいる副校長でありたいと思っています。生徒には私から積極的に声をかけるようにしています。また教員が長期不在のときは、その担当場所に行って生徒たちと掃除をしています。若い頃、大先輩の先生から「いい先生はいつも子どものそばにいなさい」と言われたことが、教育者としての私のモットーです。

Personal file

神谷政和先生●趣味/映画・読書
●好きな言葉/「向上心」
●人生の師/愛知県の教員の大先輩である芳賀利行先生。「生徒たちが、自ら選んで入ってきた高校に対してプライドを持てるようにすることが、3年間の充実につながる」ということを教えていただきました。芳賀先生は、「生徒たちが自分の高校に対してプライドを持てるかどうかを示すバロメーターの一つが、校歌を大きな声で歌えるかどうか」だとおっしゃっていました。大きな声で校歌を歌える生徒を育てていくことは、以来変わらぬ目標となっています。
●教師をしていてうれしかったこと、辛かったこと/クラス担任をしていた生徒たちが卒業していくときに「先生、ありがとうございました」と言ってくれることが、何よりの喜び。辛いこと、大変なことはたくさんありますが、このひとことが教師を続けてこられた原動力。卒業のときに生徒たちがくれたたくさんの言葉を思い出すと、今でも涙が出ます。



愛知教育大学附属高校

【School Data】
普通科・男女共学
URL   http://www.auehs.aichi-edu.ac.jp/
愛知県刈谷市井ヶ谷町広沢1


取材:キャリアガイダンス編集長 山下真司/まとめ:丸山佳子/撮影:安田慎一(STUDIO SHIN)
(初出日:2014.2.18) ※肩書等はすべて初出時のもの