高校トップが語る「明日の学校」

Vol.3 国際情報高校(新潟・県立) 前校長 平田正樹先生

新潟県立柏崎工業高校と新潟江南高校教頭を経て、県教育庁で高校のグローバル化構想に取り組み、新潟県立国際情報高校校長に就任。2013年より同校に「海外大学進学コース」を設置。高校教育のグローバル化を目指すという平田校長に、その教育方針についてうかがった。


平田正樹先生

【Profile】ひらた・まさき●1957年、新潟県生まれ。1979年、新潟大学理学部卒業。新潟県立小千谷高校定時制着任。燕高校、三条高校、柏崎工業高校教頭、新潟江南高校教頭を経て、県教育庁高等学校教育課管理主事。2011年度より国際情報高校校長。2014年4月より新潟江南高校校長



グローバル社会で通用する人材の育成は、高校教育の大きな課題。
「海外大学進学コース」でまず志をもたせるところから

 多様な価値観が共存するグローバル社会を生き抜いて行く人間をどう育成するか……。これは、現在の高校教育の大きな課題です。

 人口が減少して国内の市場規模が縮小していく日本は、海外に出ていかないと経済が立ち行かない。また、労働人口が極端に減って単純労働をする人が不足するため、移民を受け入れないと経済規模を一定に保てないという課題も抱えています。海外に出るにしても国内にいるにしても、外国人と共存しなければならない未来は、あっという間にやってきます。そのときに必要不可欠なのが、自分の考えをわかりやすく英語で話す力、そして、さまざまな国の多様な価値観を理解し受け入れる寛容の力です。さらに発展的な仕事をしたい人は、課題発見、課題解決の力がないと、企業の意思決定をするポジションでは働けない。

 こうした力を養うためには、海外の大学に進み、他国の学生がいる寮に入ってディスカッションをし、視野を広げ豊かな経験をすることが最も有効な方法です。

 そこで本校では、2013年度から「海外大学進学コース」をスタートさせ、高校教育のグローバル化に向けて本格的に舵を切りました。このコースは、1年時に希望者を募ってアメリカの大学を訪問するキャンパスツアーを実施し、その後コース選択を行って、2年時から海外大学進学を目指したカリキュラムに取り組んでいくものです。

 10月にハーバード大学、MIT、ブラウン大学などボストンを中心に6つの大学を訪問してきた1年生たち12人は、全員が「海外大学進学コース」を選んだわけではありません(コース選択者は6人)。しかし全員が、「将来は必ず海外の大学に進みたい」という志を持ってくれました。

 また、「大学というのは、仕事を得るために行くのかと思っていたけれど、自分の人生を豊かにするために行くのだとわかりました」といった声もありました。わずか9日間でも、アメリカの大学を肌で感じたことは、生徒たちにとって人生観を変えるような経験になったはずです。

 教育で大切なことは、まず生徒に志をもたせること。そのうえで学力を伸ばし、進路希望達成をする。この3つの流れを大きな柱にしています。

これからの時代に必要になる課題発見・設定・解決を地域をテーマに学習。
いずれは地元に貢献する人間に

平田正樹先生

 では、「海外大学進学コース」に進んだ生徒たちの学力をどう伸ばしていくか。2年、3年時は、「グローバルスタディーズ」という新たな科目を設定し、まずTOEFLiBTの勉強や、グループワーク、英語でのディベートを通して、自分の考えを英語でわかりやすく、論理的に話す力を伸ばしていくことを考えています。

 そしてもうひとつは、これからの時代に必ず必要になる課題発見、課題設定、課題解決力の育成です。

 例えば、新潟には伝統のお祭りがたくさんあります。スキー場や温泉などの観光資源も豊富で、おいしいお米もお酒もある。それらをグローバルな視点で発信していくには何が課題でどう解決すればいいのか。地元をテーマにしただけでもさまざまなことが考えられます。

 ただしこれは、生徒たちだけできないので、現在、文部科学省が応募しているSGH(スーパーグローバルハイスクール)に申請を出し、南魚沼市の観光課や同じ新潟県の国際大学などと提携してやることにしています。通れば大きな予算がつきますが、通らなくてもぜひやりたい。できれば全校生徒にやらせたい。というのは、隠れた狙いがあるからです。

 新潟県は人口流出県。若い人たちが地元の仕事を知らないので、地元に戻ってこないという問題を抱えています。そこで、高校生のうちから地域の課題や魅力を理解し、大学に行って学びたいことを見つけてもらい、Uターンに結びつけたい。できれば、志も持って海外で勉強し、戻ってきて起業して貢献してもらうのが理想です。

 簡単にできることではないと思いますが、学校そのものがミッションをもって教育に取り組まなければ生徒たちは変わっていきません。また、周辺環境も変わっていきません。

 人口流出が激しい県では、いずれもUターンを増やしていくことが大きな課題です。それを解決していくという意味でも、今、高校教育が果たす役割は非常に大きいと思います。

3人のクラス担任による学力向上の徹底的なしかけ。
教員側が高い志をもち、切磋琢磨していくことが重要

 本校の設立は1992年。その背景には、新潟県は大学進学率が全国で最も低いという課題がありました。県立高校でありながら国際文化科2学級80人、情報科学科2学級80人の小規模制で、海外の高校と姉妹校提携をして海外経験を積める高校をつくったのも、生徒たちの進路希望を達成して県全体の進学率を上げるという大きなミッションがあったからです。今では多くの生徒が国公立大学を志願して進学するようになり、学生寮があるため、全国から学生が集まるようになりました。

 そうした実績を築くことができたのも、教師たちが志をもってミッションに取り組み、学力を伸ばせる教育システムを作ってきたからです。

 徹底しているのは、生徒たちに平日4時間、休日6時間の家庭学習時間を保持させること。自学自習だけでは難しいので、毎日4時間学習できる仕掛けをつくって取り組ませています。そのひとつが、毎朝行う10分間の小テストです。ここで合格点の8割は取れない場合は、放課後に補習があります。つまり、8割取れない生徒を放置しておかない。だから生徒たちは、朝の通学時間から必死で勉強をしています。

 もうひとつの仕掛けは、宿題の徹底点検です。宿題と一緒に、毎日、「学習記録表」を生徒に出させ、先生たちがコメントを付けて返すので手間がかかるのですが、生徒の課題や悩みがわかり、学習指導には非常に役立ちます。こうした授業ができるのは、ひとクラスに主任、担任、副担任の3人の先生がいるからです。勉強が厳しくても、先生が3人いることが生徒の支えにもなってます。先生と生徒も合う合わないがありますからね。

平田正樹先生

 ただし、3人いるから先生たちは楽ができるかというと、そんなことはまったくありません。TOEFLiBTなども、自分で点数をとらなければ教えられないので、先生たちも自前で試験を受けています。

 「海外大学進学コース」を開設するにあたっても、本校の先生方がグローバル社会における人材育成の研修や海外視察を行ない、国際経験豊富な講師による講演を実施して新しいコースの必要性を理解したうえで、コース理念を設定するという長い取り組みがありました。生徒たちに志をもたせ、学力を向上させ、進路希望を達成させていくためには、やはり教員側も高い志をもち、切磋琢磨していくことが重要なのだと思います。

学校の中にはさまざまな教育の場がある。
どの場もその生徒の成長の機会となりうるのです

 私は物理を勉強して数学の教員になりました。大学に入った頃に教員になりたいと思い、教育実習に行き、そこで自分は絶対教員になるべきだとさらに感じて教師になりました。生徒に志をもたせ、人として成長させることができるところに、やりがいを感じたからかもしれません。

 まだ私が駆け出しの教師だった頃、生徒会の副会長でちょっと太めで、脚を引きずっていた男の子がいたんです。その子が自分からマラソン大会に出場すると言い出し、人の3倍ぐらいかかって閉会式が終わってからゴールしたことがありました。たぶん彼は、途中で辞めたら自分の脚のことを一生言い訳にしてしまう、一生後悔するかもしれないと考えていたんでしょう。ついにゴールした時、それは満足した顔をしていました。

 その顔を見ながら、学校の中には本当にいろいろな成長の機会が用意されているということに改めて気づかされました。彼はマラソン大会という教育の場をすごく有効に使った。小さなことでも志をもつことで人は成長していける。その場面に立ち会える教師という職業は幸せな仕事なのです。そういうことを、生徒たちから教えられるとともに、生徒たちにはその機会が学校生活のなかにたくさんあることを伝え続けていきたいと考えています。

Personal file

平田正樹先生●趣味/新潟大学時代に邦楽部に入部して以来続けている尺八
●好きな言葉/「努力」「志」
●人生の師/人皆我師。
●教師をしていてうれしかったこと、辛かったこと/卓球なんてできないのに卓球部の顧問になり、15年ほど燃えて指導をしました。その中で一人、インターハイに出場した生徒がいました。出場を決めた試合は今でも鮮明に覚えています。成長する場面に立ち会える、一緒に喜び合えるというのは、どんなに時代が変わっても普遍的な教師の醍醐味だと思います。新米教師として着任した定時制高校は、たくましい生徒たちばかりで一番苦労をした時期。若かったので、生徒がとんがるとこちらもとんがり、3年目に担任になったときは、留年・退学問題が勃発。力が足りずに十二指腸潰瘍になりました。でも、苦労の連続でも担任をやって涙の卒業式を経験すると、3年はもつ。力のなさは時が解決してくれるので、若い先生方も諦めずに続けてほしいと思っています。



国際情報高校

【School Data】
国際文化科・情報科学科 男女共学
URL   http://www.kokusaijouhou-h.nein.ed.jp/index.html
新潟県南魚沼市浦佐5664番地1


(初出日:2014.3.24)取材/キャリアガイダンス編集顧問 角田浩子・まとめ/丸山佳子・撮影/山口典人
※肩書等はすべて初出時のもの