高校トップが語る「明日の学校」

Vol.5 和歌山信愛中学校高校(和歌山・私立) 校長 森田登志子先生

1989年に母校である和歌山信愛中学校高等学校校長に就任して以来、中高一貫教育を行う進学校として実績を築いてきた森田校長。生徒の可能性を信じてひとり一人の力を伸ばす女子校の良さを語る森田校長に、同校が実践している「育成型教育」についてうかがった。


森田登志子先生

【Profile】もりた・としこ●1945年、和歌山県生まれ。1968年、聖心女子大学文学部卒業。71年、大阪信愛女学院着任。82年より和歌山信愛女子短期大学附属高等学校教諭。89年、和歌山信愛中学校高等学校校長に就任。



「2人担任制」で生徒をきめ細やかに指導
生徒に寄り添い育てる「育成型教育」で進学率も向上

 今、欧米では、共学よりも学習効果を高める男女別教育が注目を集めています。これは、脳科学的な見地からも男女では学習方法が違うことなどがわかってきたからで、共学を原則としてきたアメリカの公立校でも女子校が見直されて各地に誕生し、教科別に男女別クラスを設ける学校が増えています。

 男子生徒と女子生徒では発達の時期や感性が違います。同じような教え方や接し方をしていたのでは、それぞれの長所を最大限に伸ばすことはできません。当校の創立以来のモットーは、女子生徒の特徴をつかんだ進路・学習・生活指導であり、お預かりした生徒を大切に育て、全員に光を当てていく教育です。本校の教育の特色である「育成型教育」も、そうした考えの中から生まれました。

 森田登志子先生 「育成型教育」とは、先生が生徒と付かず離れず、寄り添い育てる教育方針です。そのため当校では専任の教職員の人数を増やし、「2人担任制」を導入し、一人一人の生徒に対して細やかな対応ができるようにしています。導入当初は、2人担任では先生同士で意見が食い違わないか、生徒たちが迷ってしまうのではないかなどの意見もありましたが、男性と女性の先生ペア、若い先生とベテランの先生ペアといった幅を持たせた組み合わせにしたことで、先生たちがお互いに学び合い、共同で学級経営に取り組むことができ、今ではとてもリレーションのよい指導ができるようになりました。生徒からも、「うちの先生たちは仲良し」という言葉が出るほどですから、先生の行動が以前にも増して生徒のお手本となっている。これは大変に好ましいことだと思います。

 また、感受性の強い年頃の生徒たちにとっても、2人の担任がいることでどちらかの先生に心を開くことができ、より深い指導ができるようになりました。同時に、この「育成型教育」を取り入れてから、中学高校の6年間で生徒の学力が大きく伸びているのです。

生徒の質問には、教科担当のすべて先生が答えられる“学ぶ環境づくり”

森田登志子先生 当校は宿題が多い学校です。それは、毎日の予習・復習を宿題の形として出しているからです。その宿題の中から、毎日英単語や文法、数学の公式などの小テストを行って確実に学力の定着を図ります。「できない」「覚えていない」を放置せず、合格点に達しない場合は再テストがあります。生徒たちも再テストは受けたくありませんから、放課後の職員室前は質問に来た生徒たちが列をなしています。

 生徒が、質問に行っても先生がいなければ、疑問は解決しません。ですから、職員室内は数学の先生はオレンジ色、英語の先生はピンク色というように教科ごとに座席に色分けがしてあります。これも、当校ならではの生徒のための工夫です。たとえば、高校生が質問に来て数学の先生に声を掛けたら、中学担当の先生であっても答えなければなりません。先生たちも大変ですが、生徒が信頼して、慕ってくれている訳ですから、真摯な姿勢で応えています。また、学年ごとにひとり一人の生徒のことを共有する「成績会議」を行っています。自分のクラスの生徒だけでなく、学年の先生全員で生徒の状況を共有し、いろいろな角度から生徒を支えます。生徒のことを一番に考える教育方針がすべての先生に浸透しているところは、当校の良き伝統であり、誇りだと思っています。

 そうした学習環境をつくっていくためには、校長である私自身が生徒に寄り添っていなければなりません。現在は中学校4クラス、高校が8クラス。中学には「医進コース」「特進コース」「学際コース」があり、高校は「特進コース」と「学際コース」で理系・文系に別れます。今よりもう少し生徒数が少ないときは、私も生徒の顔と名前が全て一致していましたが、さすがに今はそうもいきません。そこで、学年主任に一学年の生徒全員の動向を把握してもらい、私もできるだけ授業中に教室を巡回するようにして、もし気になった生徒がいれば、すぐに学年主任に様子を聞くようにしています。

森田登志子先生 また、私が大切にしていることは先生たちが「生徒のためにやりたい」と言ったことを、すぐにやれるようにすることです。キャリア教育に関しては少し弱かったのですが、「中高一貫教育になり高校入試がないので、職業体験を入れましょう」という意見が先生から出て、即決したプログラムです。一般的には計画を立て、役割分担をして、書類にしてと手順を踏むものですが、実は当校では書類になるまでにやってしまうケースがほとんど。書類はきれいに仕上がったけれど、いざ行動に移るときは思いが変わってしまうということにならないように心がけています。それは、先生が心から「やりたい」と思ったことは、必ず生徒たちにも伝わるからなのです。


社会で活躍する女性を招いて行なわれた
「~search of future~未来のじぶんをみつけよう」イベント

これからは女性の時代。
「社会で活躍できる女性」「賢いお母さん」になる女性を育てるためにも、
女子校の役割は重要なのです

 この学校は、私の母校です。とても大切に育ててもらったという思いがあり、その恩返しがしたいと考えて私は教職に就きました。生徒を大切にするやさしい教師を目指していた私は、卒業する時に、ある生徒から「隣のクラスの先生に担任をしてほしかった」と言われたことがあり、とってもショックを受けました。生徒からすると、やさしいだけでなく、生徒のためを思って厳しく、はっきり目指す道を示してくれる先生を求めていたのです。

森田登志子先生  教師になって10年が経ったところで、この母校に赴任しました。任されたのは学級運営に手の掛かる、いわゆるやんちゃなクラスで、毎日、泣きそうになっていました。そんな中、よくできる生徒がいていつも私を助けてくれていたのです。私もその生徒をとても頼っていたのですが、卒業する前の日に、その生徒から「寂しかった。私も構って欲しかったし、やんちゃして叱られたかった」と言われたのです。聖書には、すべてのものはかけがえのない価値をもっているという譬えのひとつとして、「99匹の羊を残し、見失った1匹の羊を見つけ出せるまで探しに行く」という教えがありますが、私は99匹のために、1匹を失っていたのです。

 こうした苦い経験から、厳しく、はっきり伝える教師でありたい、全員に光を当てられる教師でありたいと心に命じてきました。そのためには全身全霊で生徒と向き合うしかありません。ものをつくる仕事ならば、不出来であれば壊すこともできるでしょう。でも、教育はそうはいきません。

 教育は日本の未来をつくる仕事です。だからこそ、若い先生たちに頑張ってほしい。これからの社会は、「女性の時代」という傾向がますます強くなっていくと考えています。社会で活躍する女性を育てると同時に、母親の子どもに与える影響の大きさを考えると、「賢いお母さん」になれる女性も育てていかなければなりません。そのためには、中学・高校時代に基本的な生活習慣を確立し、コツコツと学習を積み重ね、一生懸命スポーツをし、一つのことをやり遂げる力、忍耐力、謙虚な心、感謝の心を育てていくこと。そして、知性に加えて、相手を尊重する本当の意味での賢さも身につけてほしいと考えています。

 日本では今、共学ブームですが、女子校のよさや、男女別教育のよさをもう一度見直すときにきているのではないでしょうか。



Personal file

森田登志子先生●趣味/シスターなので趣味はありません。和歌山信愛の生徒のために、どうしたらよりよい教育ができるか、生徒に喜んでもらえるのかを考え、それを実践することがすべてです。
●好きな言葉・モットー/「単純、素朴」。
●人生の師/大学時代にお世話になった聖心女子大学の校長先生。
●好きな本/『聖書』。
●教師をしていてうれしかったこと、辛かったこと/毎年の入学式では「確かにお預かりします」、卒業式では、「お返しします」という言葉を意識的に言うようにしています。『聖書』には、預かるということは、2倍にも3倍にも大きく、豊かにして返すことだと説かれていますが、それができたときが、一番の喜びです。



和歌山信愛中学高校

【School Data】
普通科 女子校
URL   http://www.shin-ai.ac.jp/
和歌山市屋形町2丁目23番地


(初出日:2014.4.30)取材/キャリアガイダンス編集長 山下真司・まとめ/丸山佳子・撮影/富永一史
※肩書等はすべて初出時のもの