高校トップが語る「明日の学校」

Vol.7 札幌光星高校(北海道・私立) 校長 市瀬幸一先生

2008年より中学、高校とも男子校から共学になった札幌光星高校。もともと進学校であったが、2011年の学校改革でカリキュラムを一新し、難関大学への進学率をさらに大きく伸ばしている。カトリックのミッション校として道徳心を育てる「徳育」をモットーとしながら、学力向上のもと全人教育を目指す同校の改革について、市瀬幸一校長にうかがった。


市瀬幸一先生

【Profile】いちせ・こういち●1954年、8月生まれ。99年、ROMA GREGORIAN(ローマ・グレゴリアン)大学大学院卒業。80年、マリア会を母体とする学校法人・大阪明星学園にて教師生活をスタート。海星学園(長崎)、暁星学園(東京)を経て、2002年、札幌光星学園に副校長として着任。09年、10月より、同校理事長、校長に就任。



グローバルな時代を生き抜いていくためには、
他人を受け入れる力が必要。
建学の精神に基づいた教育、人間性を育む徳育こそ大切になる

 これからの学校の役割を考えたとき、グローバル社会を生き抜いていくための学力の定着という大きな問題があります。しかしその前に、高校の3年間、あるいは中高一貫の6年間で、どんな生徒をつくりたいのかという建学の精神も、非常に大切なことだと思っています。

市瀬幸一先生 当校は、200年近い歴史をもつカトリック教育修道会「マリア会」を母体としています。マリア会がフランスで学校を始めたのは、フランス革命が終わり、聖職者や弱者を迫害するような荒廃した時代でした。そうした時代にあって一番大切なことは、未来をつくる子どもたちの教育です。アリア会は寄宿舎に子どもたちを受け入れて居場所をつくり、人のためになる働きをする生徒を育て、ひいてはその家庭までも教育することで、社会を良くしていこうと考えたのです。その伝統は今も受け継がれ、当校でも人間的に素晴らしい子どもを育てていく「徳育」に力を注いでします。

 そうした教育を行うために必要なことは、ご家庭で親が子に接するように、教員が生徒一人ひとりに親身に接していくことです。マリア会では、それを「家庭の精神」と呼んでいます。生徒が1500人にもなると、エネルギーが必要ですが、当校の先生たちは本当に頑張ってくれています。そして私自身も、宗教の授業を担当し、毎朝正門に立って声を掛けますし、高校3年生のすべての生徒と校長面談を行うことで、「家庭の精神」を実践しています。

 今年の校長面談は420名。一人10分程度の面接でも、5月から10月ぐらいまでかかります。生徒に質問することは決まっていて、まず「いい名前だね。誰がつけてくれたの?」と名前の由来を聞きます。それから「兄妹は?」「お父さん、お母さんとの会話はある?」「出身中学はどうだった?」「高校生活はどこが違った?」と聞き、「教養、つまり人に借りられないものは、今のうちに身につけようね」と話します。

 校長面談を行うのは、本校を選んでくれた理由と、入学して“自分の居場所があったか”を知りたいからです。中学時代は100日も欠席したという生徒が、「高校に入学したら自分に合う友だちができて楽しかった。3年間は無欠席です」と答えてくれるなど、ほとんどの生徒が「学園生活が楽しかった」と言ってくれるのは、とてもうれしいことです。勉強とは違う指導ですが、グローバルな時代を生き抜いていくためには、他人を受け入れる力がないと難しい。そうしたときにこそ、人間性、道徳心を育てる「徳育」という普遍的なことが大切になってくるのではないでしょうか。

  

2011年の学校改革で、6時間目以降の放課後講習に
アクティブラーニングを導入。
4年間で、国公立大学合格者が2倍に

 グローバル社会を生き抜いていくためには、「徳育」に加えて、将来、海外で活躍できる道筋をつける学習指導も大切です。また、当校のように大学付属ではない高校は、魅力あるカリキュラムをもつ進学校にして定員を確保していかなければ、これからの時代を生き抜いていけません。実を言うと2011年に大幅な学校改革に踏み切った背景には、2008年に男子校から共学にして550名が集まったものの、翌年は300名に生徒数が落ち込むという厳しい現実がありました。

市瀬幸一先生 改革前の進路指導は、生徒が北大に入りたいと言えば、「それなら勉強しろ、こんな資料があるよ」とアドバイスをする程度。いわば、生徒任せでした。そうした指導方法を根本的に見直すために、教師の中から座長を選び、座長がテーマを出して、会議を行う。次はテーマを絞り込んで会議をするということを、かなり長期に渡って行いました。

 そして2011年、中学には中高一貫の全人教育として「ルクスプログラム」を導入。これは、国語はディベートを取り入れ、理科は実験や観察を中心、サマースクールやスキーキャンプも英語で行うという真の学びを追究したコースです。

 高校には、従来からの「特進コース」「文理コース」に加えて、東大や京大などの難関大学や医学部志望の生徒を対象にした「ステラコース」を開設しました。それまでは7時間授業で土曜授業もありましたが、新カリキュラムでは平日は6時間、土曜は4時間授業にして、「ステラコース」は放課後講習は必修、「特進コース」「文理コース」は放課後講習を選択制としました。そして、「ステラコース」は、たとえ入学者が3名、5名であっても、クラスとして成立させるという決断をした。この決断が大きかったですね。1500名も生徒がいると、生徒のためになるとわかっていても、学校側の都合で実行に移せないことがあります。しかしこの改革に関しては、「実行していただきたい」と、厳しく申し上げました。このときから、先生たちの意識がひとつになったと思います。

 改革後からは、先生たちが模試のデータを分析し、「この部分をもっと頑張って」と、細やかな進路指導をするようになりました。また、放課後講習では、1コマ50分~90分までのさまざまな時間配分で、生徒に必要な教科を行い、質問を受ける時間を設けたり、ディスカッション形式にするなど、アクティブラーニングの手法を取り入れた実験的な授業を模索してくれています。カナダとイギリス出身の英語の先生がいますので、「ステラコース」では授業だけでなく、ホームルームも英語です。中学の「ルクスプログラム」では、先生と生徒がイングリッシュランチをし、昼休みも英語を話してくれるので、高校生たちも中学生のクラスに潜入してネイティブの英語に触れようと頑張っている。生徒たちが勉強を楽しむようになったことが、うれしいですね。

 こうした授業の調整役は進路指導部が行うことが多いと思いますが、進路指導部主導では数字を出すという観点から見てしまうため、当校では学力をどう伸ばすのかに重点を置き、教務にやらせています。この点も、改革が成功した理由の1つではないかと思います。

市瀬幸一先生 「ステラコース」の1期生は20名。そのうち、17名が国公立に現役合格しました。部活もやりたい生徒は「特進コース」に残しましたので、その子たちが特進を引っ張る。「文理コース」でも、特進に行きたい子がコースを引っ張るということで、全体を底上げしていった。その結果、4年前に比べ、国公立合格者が2倍にまで増え134名となりました。

 また、改革後は、中学の修学旅行をローマ、パリ、ロンドンの3都市にしてマリア会の姉妹校を訪ねるようにしました。高校でもパリ、ロンドンの語学研修を行いますが、姉妹校に行くということで壁がなくなり、世界がぐっと近くなる。カトリックのミッション校だからこそできるこうした語学教育も、今回の学校改革の大きな柱の1つ。生徒たちの将来を拓く、道筋をつけられたかなと思っています。

  

試験は個人戦ですが、勉強は団体戦。教え合ってこそ楽しい。
生徒の居場所と魅力ある学びの場をつくり、
「学校は楽しいところ」と実感してもらうことが、校長の役割

 私は教師になってから4つの学校を経験してきました。いずれもマリア会の学校で、大阪明星、長崎の海星、東京の暁星が2回、そして札幌光星。札幌光星が共学になるまでは男子校で、宗教の授業をやりながら、同時に生徒指導も行ってきました。担当してきたのは、高校2年、3年になって私立文系、理系と分けていくと、一番最後に残るクラス。ある意味で問題はあるけれど、生きる力は一番持っている生徒たちが集まるクラスです。

市瀬幸一先生 この夏休み、23年ぶりに私から会いに行った生徒がいました。高校時代は学校にも、家族にも迷惑をかけました。その生徒が退学する時にバラの花を1本持って挨拶にきた、素敵なお母さんがいました。そのお母さんを今も泣かせていないだろうかと、私はずっと気になっていたんです。立派に成長したその子は、「自分が札幌光星の何期生だと言えないもどかしさがあった。言っていいか」と聞いてくれました。母校を誇りに思ってくれるというのは、本当にうれしいですね。卒業しても気になる生徒を訪ねることは度々ありますし、また、卒業した生徒が集まってくれることもあります。私が校長になったとき、36人のクラスで20数人以上が来てくれました。「あのとき、先生はこう言ったけれど、それはどうしてだったのか?」生徒が問う。私は、「お前のことが大事だったからだ」と言って、うち解ける。そういう瞬間は、教師として何よりの喜びです。

 教師としても原動力は、聖書の教えであり、弱者に寄り添うという思いです。校長になれば忙しさは並大抵ではありませんが、生徒の居場所づくりには、常に心を砕いています。そのためには、生徒の声を吸い上げていく透明性が大切です。中学からであれ、高校からであれ、入学してきてくれた生徒には建学の精神を伝えて卒業させたい。いつも、学校説明会で話すのは、「学校は楽しいところです」ということです。入試は個人戦ですが、勉強は団体戦です。教え合って楽しい。部活も団体戦ですから教え合って楽しい。「学校は楽しいところ」と実感してもらうことが、校長の役割だと考えています。



Personal file

市瀬幸一先生●趣味/植物栽培
●好きな言葉/あなたがたは「地の塩」である。あなたがたは「世の光」である (人の心の腐敗をとどめる塩のような、暗い世にあっても人々の心を明るくする光のような人であれ、という聖書の言葉)。
●モットー/学校は楽しいところ
●人生の師/私はカトリックの司祭(神父)です。当然、人生の師はイエス=キリストです。
●座右の書/『聖書』



札幌光星高校

【School Data】
普通科 男女共学
URL   http://www.sapporokosei.ac.jp/
北海道札幌市東区北13条9-1-1


(初出日:2014.9.22)取材/キャリアガイダンス編集長 山下真司・まとめ/丸山佳子・撮影/小牧寿里
※肩書等はすべて初出時のもの