高校トップが語る「明日の学校」

Vol.10 四條畷学園高校(大阪・私立) 副校長 入江 正康先生

学校教育の変革期と叫ばれる今、伝統保持と、キャリア教育への改革という2つの流れの中で、揺れている高校が多いと言われる。長い歴史を持つ伝統校ほど、そうかもしれない。そんな中、教員たちの意見を取りまとめ、ユニークなキャリア教育をスタートさせたのが、2016年に創立90周年を迎える四條畷学園高校だ。その経緯と新たなカリキュラムについて、入江正康副校長にうかがった。


入江正康先生

【Profile】いりえ・まさみち●1953年、京都府生まれ。皇學館大学文学部国文学科卒業(国語教職免許、神職明階取得)後、四條畷学園高等学校勤務。生徒指導部長、生徒募集部長、学年主任、学園PTA書記、学園後援会書記などを経て、2007年より、副校長・教頭。



建学の精神を大切にしながら、
目的が持てない生徒たちの新たなキャリア教育を考える

 今、日本の学校教育は大きな転換期を迎えています。そうした中においても、私学は建学の精神を大切にしながら、時代にあった教育を模索し、継続していくことが重要だと考えています。

 本学園は1926年(大正15)年に、大阪北河内のこの地で生まれ育った牧田宗太郎、環兄弟によって、「報恩感謝」を建学の精神として創設されました。この建学の精神には、東京帝国大学を卒業されて四條畷中学校の校長を務めた教育者の宗太郎さんと、商社に勤務されて活躍された環さんご兄弟の、お母様への感謝の気持が込められています。その感謝の気持ちを形にするために、「”子供たちを本当に立派な人として育てることのできる力”を身に備えた女性を社会に送り出すこと」を目的に誕生したのが、本学園の前身である四條畷高等女学校です。当初は女子校でしたが、育ててくれた地域を大切にし、地域に貢献できる人材を育成することもまた「報恩感謝」の精神であるという考えから、今では幼稚園から大学まである共学の総合学園に成長し、3400~3500名の生徒がいます。

入江正康先生 中でも、もっとも生徒数が多いのが高校で、1学年約460名。「総合コース」、「保育コース」、「特進文理コース」、中高連携の「6年一貫コース」とさまざまなコースがあり、センター試験を受けて上位大学を目指す生徒もいれば、全国大会などでも活躍している吹奏楽部やダンス部、水泳部などのクラブ活動を目的に入ってくる生徒もいます。ひと言で言えば、生徒の幅が広いのが、本学園の特徴です。

 「特進コース」は、大学進学を目指す生徒が集まります。「保育コース」は、学園の短大に保育科がありますので、高短連携で内部進学する生徒も多い。これらのコースの生徒は目標が定まっていますが、指導が難しいのは、なかなか目標が持てない「総合コース」の生徒たちです。これまでも、キャリア教育の講演や大学の出前授業を行うなど、さまざまな取り組みはしてきましたが、なかなか成果が出ない。「総合コース」の体系的なキャリア教育をどう考えるかは、ここ数年の大きな課題でした。

 しかし、一学年約280人と、もっとも多い「総合コース」のカリキュラムを変えるというのは、教員たちの負担も大きい。また、中堅以上の先生たちは、従来の校風を大切にしたいという思いがあり、キャリア教育に取り組んでいるのは、若い先生が多い。そうした双方の思いを摺り合わせながら、建学の精神に基づいた、生徒の適性に合った教育を提供していくためのプロジェクトを始めたのが、一昨年の夏でした。


中堅と若手教員の意見交換から生まれた
1年生は「知る」、2年生は「感じる」、3年生は「選ぶ」の体系的キャリア教育

 一番大切なことは、「総合コース」の生徒たちに、高校の3年間で何を身につけさせていくか。本当に必要なものは何か。明るさ、元気さ、素直さ、素朴さなど、生徒たちの良い部分を、どう伸ばしていくのかということです。中堅であれ、若手であれ、遠慮をせずに、いろいろな意見を出してもらうことが大切なので、まず、80名の先生たちを5つのグループに分けて、話し合ってもらうことにしました。

 すると、どのグループからも同じような意見が出てきた。社会に出て役立つ力をつける。一般常識、コミュニケーション能力、生活力を身につける。これらが「総合コース」の教育目標にしようと意見がまとまり、ならば何をすべきかと、先生たちの間で意思疎通ができてきたのです。

入江正康先生 やがて形になったのが、1年生は「知る」、2年生は「感じる」、3年生は「選ぶ」という体系的なキャリア教育です。

 1年生の「知る」では、将来の目標を決める前に、視野を広げさせることが目的です。年間10回キャリア教育の時間を設け、うち6回は外部の力をお借りすることにしました。

 まず、外部から来ていただく先生に対するマナー教育など基本的なキャリア教育をクラス担任の先生が行い、その後夏休みをはさんで3回ずつ、教育系、美容系、医療系など6系統の職業について、全員が外部講師から授業を受けます。授業を受けた生徒たちにはレポートを出してもらい、担任は、そのレポートに「いい質問をしていた」などのコメントをつけて返すのです。また、1年の終わりには、各生徒がこれらの授業を受けての自分の進路に関する気持ちを表現する1分スピーチをします。インプットだけでなく必ずアウトプットをさせることで、生徒たちの意識は、1年でかなり変わってきます。

 2年生の「感じる」は体験です。まず、4月の始めに専門学校の力をお借りして、職業体験をします。その後、短大、大学まである本総合学園のメリットを活かし、短大では介護士、保育士、幼稚園教諭になるための授業を体験します。大学にはリハビリテーション学部(理学療法学専攻・作業療法学専攻)があり、2015年からは看護学部も新設されますので、こうした授業を体験できます。また、他校へも、サービス系の授業などを自分で選択して体験をしに行きます。こういった活動を、夏休みをはさんで、生徒それぞれが内部の学校、外部の学校、各2回ずつ行うのです。「特進コース」では、すでに他大学の経済学部などの授業を受ける体験学習を行っており、その反応を大学側に戻すことで相互にいい効果が生まれています。「総合コース」でも、同じようにいい相乗効果を築いていきたいですね。

 3年生の「選ぶ」は、これまでの体験を踏まえて、自らが考え、納得したうえで将来の進路を選ぶ、という意味です。進路指導の時間を多く取るようにしていますが、8月になると内部入試が始まり、推薦など合格が早く決まる生徒が出てきます。昨年の実績では、「総合コース」の半数弱の130名ほどが内部の短大に進んでいますから、卒業まで時間を持て余してしまう生徒も多いわけです。

 それではいけないので、卒業まで学習意識を持続するよう、高短連携で、入学してから役立つ勉強をさせておきたいと考えています。これは、今後の課題です。


「介護職員初任者研修」、「サービス接遇検定」を取り入れ、
一般常識、コミュニケーション能力、生活力を育む

 また、「総合コース」に特化したキャリア教育を考えて行く中で、地域に貢献できる人材の育成を目指す本学園らしいカリキュラムも生まれました。それが、「介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)」の資格取得講座です。

 「特進コース」と「保育コース」は、平日は20時ごろまで自習を行い、土曜日も特別授業を行っています。一方「総合コース」は、平日の放課後も土曜日も授業はありません。その代わり、クラブ活動を存分にやってもらい、団結力やあきらめない力、上下関係のマナーなどを養ってもらおうと考えてきました。

入江正康先生 問題は、クラブ活動をしていない生徒たちです。高校生活で何も身に付かないのでは困るので、土曜日に介護の初任者研修を受けてもらうようにしたところ、保護者の方々からも「とてもいいことだ」と理解をいただき、現在、80名ほどが受けてくれています。

 介護の勉強をし、介護施設や訪問介護の実習にも行くので、生徒にとっては、いい社会勉強です。ただし、問題はコミュニケーション。年齢が離れている高齢者の方々との会話ができないんですね。「おはようございます」、「ありがとうございました」、「さようなら」の3つでいいから言いなさいと教えても、それが言えない。だからマナーを注意されることもある。生徒たちは、先生に叱られるより、ずっと身に染みるようです。

 とはいえ、正しい言葉遣いやマナーができないままではいけませんから、こうした課題への取り組みとして、本年の1年生から「サービス接遇検定」を実施することにしました。外部で授業を受けるときも、マナーや授業態度は問題になります。それに対して口だけで注意するだけでなく、生徒全員のボトムアップを図ろうというわけです。授業として時間を設けるのは難しいので、これまでもミニテストなどを行ってきた終礼の10分学習で継続して学ばせ、1年生の11月に試験を受けさせるということになりました。

 「サービス接遇検定」は、キャリア教育を担当している若い先生2名が外部研修に行き、発案してくれたものです。教員というのは慎重な人が多いですから、耳新しいことには足踏みをする傾向が強い。また、漢字検定や英語検定のほうが有益ではないかという意見も出てくる。

 しかし、「総合コース」に関しては、一般常識、コミュニケーション能力、生活力を身につけることが教育目標であると決めたのですから、そこでブレずに、全員に理解を求めながら引っ張って行く。それが、私の仕事です。

 やってみて、課題が出てきたら、また全員で考えればいい。まずはやらなければ、目標は達成できないのですから。


学校の評価とはつまり「教員」
生徒たちに手間をかける伝統を守りながら キャリア教育の今後を見届けたい

 昔は地域で教わることがたくさんありました。年齢に応じた一般常識やマナー教育が、学校でなくてもできていたんですね。私自身も、京都の神社の次男坊として生まれ、小さいころから人の出入りが多かったので、「人には丁寧に接しなさい」とやかましく言われて育ちました。今でも母の言葉で覚えているのは、「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ」という故事。何事も経験してみなくては分からないのだから、やりもしないで批判してはいけないということですが、そんなことも、自分の中心にあるのかもしれません。兄が家業を継がないと言うので、私が、神官になるために伊勢の大学に行きましたが、結局は兄が15代として家を継ぎ、私は教師になりました。

入江正康先生
  大学の4年間は、月一回の伊勢神宮参りといった行事もあり、保守的な学校であるうえに寮生活でしたから忍耐力が養われ、同僚の有り難さも身に染みて感じました。鍛えられましたね。いろんな人がいて意見が違うこともありますが、つながりをつくっていくことが必要と思います。

 それは社会に出ても同じこと。人の意見はさまざまです。しかし、意見が合わないからやらない、では済まない。リーダーが知恵を絞ってそれぞれの人たちの適性や能力を発見し、適材適所で活躍してもらわなければなりません。

 学校の評価というのは、進学実績とか、コースの多様性とか、建物や設備とかいろいろあるでしょうけれど、最後は人=教員だと思っています。本学園の評価としてよく言われる言葉に、「面倒見がいい学校」というものがあります。どの生徒に対しても面倒見がいいというのは、すごく手間がかかることです。しかし、うちの先生たちは、嫌な顔ひとつせずにやってくれています。カリキュラムには新しいものを取り入れても、生徒に手間をかける気持ち、地域に貢献する気持ちというのは、伝統として守っていきたいことですね。

 今は、全国的に学力低下をしているから、キャリア教育をやらなければいけないという。でもそれは、勘違いではないでしょうか。あるとき、長い間「特進コース」の担任をしていた先生が、「進学率を目標としていたけれど、その子のやりたいことを見つけさせることのほうがずっと難しい」と話してくれたことがありました。本来、キャリア教育とはそういうことなのだと思います。一般常識やコミュニケーション能力、生活力、あるいは授業や物事に取り組ませる姿勢をつくるとか、そういうことの方がずっと時間がかかり、難しいのです。

 2020年から大学入試が変わります。暗記した知識の量を重視するのではなく、思考や判断など、知識の活用力を問うものになるというのは、大変良いことです。従来のように先生の考え方ばかりをインプットする授業をしていたのでは、短時間で自分の意見を表現することなどは難しい。「サービス接遇検定」を実施するのは、今の日本の高校の課題である言語活動を強め、新しい大学入試に対応する前準備という意味合いもあります。

 3年間で何かを体系的にやったら、あとは先生たちも、生徒たちも道が見えてくるのではないでしょうか。

 どこの学校でも同じですが、私たちの世代が教職を退いたあとは、教員の平均年齢がぐっと若くなる。その意味では、私たちの世代が、良き伝統を残し、新しい教育を繋ぐ役割を果たさなければいけません。手間をかけながら、本当に地域に役立つ人材を育成するキャリア教育の第一歩が、何らかの形になるところまで見届けられたらと思っています。

Personal file

入江正康先生●趣味/ゴルフ(何年もやっていますが初心者程度です)、畑仕事(家内のお手伝い程度です)
●モットー/人とのつながりを大切にする。
●感銘を受けた人/近年お会いした中では、大阪府の私学高校の研究会で講演をしていただいたシンクロナイズドスイミング日本代表コーチの井村雅代先生。中学校の保健体育の教諭からコーチになられ、多くのオリンピック選手を育ててきたその指導法はスパルタ式といわれますが、実は心を育てる指導法。何事も具体的な目標を持って取り組む。叱るときは厳しく叱るが、子どもたちを追いつめていると感じたときは、すぐに手を差し伸べる。そして、壁にぶつかったときもあきらめず、もっと頑張ろうと素直に思える「心の才能」を磨くことの大切さについてのお話には、本当に引きつけられました。今は教師をしている私の娘が、小学校から高校卒業まで井村先生のクラブに楽しく通っていたこともあり、どんな指導法をされているのかと講演をお願いしたのですが、人を動かす魅力的な指導者とは、こういう人だという感慨がありました。



四條畷学園高校

【School Data】
普通科 男女共学
URL   http://www.shijonawate-gakuen.ac.jp/hs/index.html
大阪府大東市学園町6番45号


(初出日:2015.3.10)取材/キャリアガイダンス編集顧問 角田浩子・まとめ/丸山佳子・撮影/塩谷広志
※肩書等はすべて初出時のもの