専門学校トップインタビュー

辻調理師専門学校 校長 辻 芳樹氏

(2015年6月15日更新)

2016年、3年制学科新設。
学生一人ひとりが研究テーマをもち
テーマやコンセプトを調理技術で表現できる力を養う。

「考える力」を育てる「高度調理技術マネジメント学科」

 いま、料理の世界的な潮流が劇的に変化しています。フランスを中心としてガストロノミーの構図がヨーロッパからアメリカ大陸まで、世界いたるところに飛び火して、価値の多様化が起こっています。その流れに呼応するように、技術革新や技術交流のスピードがかつてないほど加速し、先進的な料理人たちが、自身のレシピや調理技術を動画も駆使してネット上で惜しげもなく公開するなど、世界規模で料理人同士の交流が活発に行われるようになっています。

 現状のレシピにとどまることを前提としない、新しい料理の潮流を生み出そうとする革新的な料理人の登場によって、調理技術は飛躍的に高度化し、新しいモードの料理が生まれてきています。世界規模で見たとき、注目すべきは、単に斬新なスタイルの料理が登場しているということではなく、自身が取り組むべきテーマやコンセプト、哲学を持って、他分野の専門職と協働して新しい価値観を発信していこうとする動きが、あちこちで始まっているということです。こうした時代の中に人材を輩出していくためには、指示されたことを再現できる技術力だけではなく、「考える力」を持った学生を育てることが不可欠だと考えます。

 完成されたクラシックな料理は非の打ち所のないものです。しかし、それを再現しなぞるだけでは、新しいものを創造していくことや自分自身の料理哲学を創出することはできません。そこで我々は、旧来の「おいしい」と評価される定番の料理を再現するだけにとどまらず、「テーマ」「コンセプト」「哲学」を自ら考え、それを調理技術によって具体的な料理に落とし込める人材を育てることを決意しました。それが「高度調理技術マネジメント学科」設置を計画している背景です。

 学科の開設に合わせて新校舎の建設も進めています。西洋・日本・中国料理、それぞれの専門設備を備えたシミュレーション実習室やアクティブラーニングに対応したICT 機器を備えた教室、研究型調理実習室のほか、学生同士、学生と教職員が議論できるスペースも設置します。

学生一人ひとりのテーマに合わせた学外での実習先・実習内容を構築する「キャリア形成実習」

 本校は現在1 年制の「調理師本科」および2 年制の「調理技術マネジメント学科」 を設置しています。時間的な制約もあり、1 年制・2 年制では実施できないことも3年制で試み、その成果を間違いのない形で1 年制・2 年制にフィードバックすることも視野に入れています。

 単に年数を積み上げるのではなく、3 年間をトータルにとらえたディプロマポリシーを整え、新しいカリキュラムを構築していきます。定員は 40 名。全員が一人ひとりの研究テーマを携えて学ぶことになります。

 3 年間のステップは、前半の1 年半で徹底した技術・理論教育を行うとともに、学生が自ら進む料理分野を決定。2 年生の後期からそれぞれのテーマに基づき、半年間のフィールドワーク「キャリア形成実習」に出向きます。この期間の学習の場は学外です。異なる三カ所の企業・施設での実務経験を通じて学ぶと同時に、それぞれのインターバルで実習成果を振り返る機会を設けます。将来目標を実現するためのプラン構築と、最良の就職選択に有効な実習となるでしょう。その間のカリキュラムは、受け入れ先企業・施設と一緒につくっていくことになります。半年間にわたって、学校の中だけでは体感できないリアルな現場体験をして、自分自身の技術レベルの評価を客観的に知る。それを踏まえて、多様な現場で料理人に求められている課題を実感し、さらに最終学年の1年間では、実習の成果を踏まえて「総合演習」に取り組むという流れです。

 研究テーマについては、教員の側から学生に提示して一定の方向に誘導していくことはありません。調理技術に最終的に関連付けられるものであれば、学生自身がありとあらゆるジャンルから自ら研究テーマを打ち立て、深く掘り下げていく。それが学科の一番の目的です。研究テーマによっては、実習先はレストランやホテルといった飲食業ばかりではなく、例えば食料品メーカー、食と農の連携を実践している飲食施設、病院調理、介護福祉施設、リゾート関連施設など多岐にわたることも考えられます。仮に精進料理をテーマにしたいという学生が出た場合、禅寺で研修させることになるかもしれません。いずれにせよ、主体的に研究テーマを見いだせる学生を育てることも我々の教育力だと考えています。

教育の軸は「技術」。研究はそこからの広がり

 強調しておきたいのは、あくまで主軸は「調理技術」に置いているということです。料理人はお客様を相手にする仕事という原点から離れることはありません。ビジネスとして持続可能な飲食業の担い手であることは大前提になりますが、その上で、この業界にイノベーションをもたらすことのできる力を備えた料理人を育てたい。そのために技術教育に加えて、学生が自ら課題を設定・解決する研究という広がりを持たせたいのです。研究という言葉を一人歩きさせることなく、現実社会で必要とされる技術とのリンクを図っていくことも極めて重要です。

 卒業生の例をあげますと、1990 年卒業の「NARISAWA」(東京・青山)の成澤由浩氏は、「自然保護と再生」をテーマとした料理が世界中から評価され、2010 年のマドリッドフュージョンで「世界で最も影響力のあるシェフ」に選ばれました。1996 年卒業の「Hagi フランス料理店」(福島・いわき)の萩春朋氏は、震災後さまざまな出会いを経て、地元食材を使い 1 日 1 組をおもてなしするフランス料理店をスタートさせ農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ2014」を受賞されました。彼らは「テーマ」「コンセプト」「哲学」から独自の料理世界を作り多くのお客様を惹きつけるレストランを実現されています。この二人の卒業生に共通しているのは、「技術」を持っているということです。

 本校は 54 年間にわたって技術教育の体系化を図ってきました。そのことには絶対の自信を持っています。体系化された技術教育を礎にして、その上に学生の考える力を養うためのカリキュラムを積み上げたことに、3 年制の学科を立ち上げる意義があります。学生たちによる研究テーマは多種多様になるでしょうが、その研究のゴールをどう調理技術に落とし込むか、教員は誘導して行く必要があります。学生たちが提出してきた研究テーマに対して、どんな指導を行うのか教員間でも綿密な話し合いを行います。そこではいかに技術を伴わせるかについての議論になります。したがって、ファシリテーターとしての教員の役割は、常に学生に実践を意識させることであり、あくまで研究は「調理技術」を軸にした広がりという位置づけです。

あらゆる研究テーマに対して、教育力で応えていく

 プロの料理人は、手(技術)と頭(理解)と味覚が一体となっている人たちです。しかし、その3 つが関連性を持ってくるまでには通常では、相応の時間を要します。「高度調理技術マネジメント学科」の3 年間で、できるだけ自分の手と頭と味覚が連携した形で自分のテーマを料理で表現できる、そのための考える力を身につける、というところまでの教育はやり遂げたいと思います。この学科を選ぶ学生諸君が果たしてどのような分野の研究テーマに取り組むのか。それが一番の楽しみでもあります。想定できないテーマも現れるかもしれませんが、我々としては学生の可能性をできるだけ広げてやりながらも、その研究が現実の技術にどう結びつくのか——我々の「教育力」が問われてくると思います。その部分は、しっかりと学生を支える体制を作り上げていきます。

辻 芳樹氏

【Profile】

辻 芳樹(つじ・よしき)氏
辻調グループ代表。1964 年10 月大阪府生まれ。欧米の食の最前線を調査研究し、その成果をプロの調理教育に活かしている。2000 年、主要国首脳会議(九州・沖縄サミット)にて首脳晩餐会料理監修。2004年、内閣官房長官知的財産戦略本部コンテンツ専門調査委員に就任。日本の食文化の海外発信にも積極的に取り組み、2010 年、アメリカで開催された「国際料理会議」では組織委員を務め、「日本料理における多様性~伝統と革新~」というテーマで基調講演を行った。著書に『すごい! 日本の食の底力』(光文社)、『和食の知られざる世界』(新潮社)、『美食のテクノロジー』(文藝春秋)、『美食進化論』(共著、晶文社)、『辻調 感動和食の味わい種明かし帖』(監修、小学館)ほか。

※《辻》の正しい表記は一点しんにょうとなります。

 

辻調理師専門学校

専門学校トップインタビューに戻る