大学・短大トップインタビュー

湊川短期大学 末本 誠 学長

(2017年4月3日更新)

「キャリア教育」と「ケアの精神と地域社会への貢献」
2つを軸にした独自の教育で
社会的な使命を果たしていく

まもなく法人設立100周年の節目を迎える

 本学は校祖幸田たま女史が神戸市の西部・湊川のほとりに設立した「湊川裁縫女塾」に端を発します。1919年の設立で、まもなく創立100周年を迎えることになります。建学の精神は「不撓不屈」。これまでに1938年の阪神大水害、1940年の火災、1945年の戦災と3度にわたって大きな災害に遭い、そのたびに校舎を失うという苦境に立たされてきました。それでも文字通り「不撓不屈」の精神で再建を遂げてきています。
 現在法人全体としては本学のほかに、三田松聖高等学校、短期大学附属園として5つの幼稚園および2つの保育園・こども園を経営しています。

教員免許、国家資格に結びつく職業教育を展開

 現在の学科構成は「人間生活学科(人間健康専攻・生活福祉専攻)」「幼児教育保育学科」および「専攻科(健康教育専攻・幼児教育専攻)」です。各学科とも養護教諭、幼稚園教諭、保育士、介護福祉士といった教員免許状・国家資格に結びついており、「専攻科」は4年制大学と同等の学位(教育学)が得られる2年課程です。学生の多くは本学のある兵庫県三田市付近からの入学ですが、山陰地方や沖縄県など遠方からの入学者が多いことも特色です。三田市は大阪にそう遠くない、ほどよい規模の街です。親御さんにしてみれば、それほど都会ではない環境がプラスに受け取られているようです。また、キャンパス内に学生寮があり、諸経費以外は寮費がかからない方式を取っていますから遠方出身者にはメリットです。

 私の専門は教育学で、そのなかでも成人教育、社会教育の分野です。端的にいえば大人が学ぶとは何かという研究で、具体的にはライフ・ヒストリーあるいはライフ・ストーリーとして、自らの人生を物語ることを学習のプロセスと位置づける教育方法の研究をしています。人生を物語として捉え直したとき、一貫性があることが自分で理解できるようになります。この方法は、いわゆるキャリア教育にも応用可能なので、本学のキャリア教育にも活かす試みをすでに始めています。

「キャリア教育センター」と「地域連携センター」を新たに開設

 教育の柱に据えた分野は2つです。1つは縦軸としての「キャリア教育」。就職指導とは異なり、学生一人ひとりが働くことの意味づけを行うとともに、人生の展望の中に職業を位置づけるための教育です。自分の親はどう働いてきたのかという家族のストーリーも含めて振り返りながら、働くことの意味を考え、個々の職業観形成につなげようとしています。

 本格的にキャリア教育を推進するための拠点として、2016年度に「キャリア教育センター」を開設しました。ちなみに、センター長を務める山野上 素充常務理事は、キャリア教育という言葉を日本で初めて導入した、この分野における第一人者です。

 もう1つは横軸としての「ケアの精神と地域社会への貢献」です。学科・専攻ごとの教育とは別に、湊川短期大学として共通の目的が必要であり、その意味で横軸です。“ケア”という英語はもともと心づかいという意味ですが、本学の教育分野である教育も福祉も医療も相手は人間。目の前に手助けが必要な人がいたときに、その人を支えることが自分にとって大切であると感じられる心を「ケアの精神」と捉え、この資質をすべての専攻で養っていこうとしています。それに加えて、地域社会に対する関心を育てることも重要です。人間にとって地域社会とは何か。地場産業の発展のために自分には何ができるのか。自分が生まれ育った地域に帰って、自分を育んでくれた人や自然とともに生きていける人材を育てたいと思っています。そのためにキャリア教育センターとともに開設したのが、地域と短大を結ぶ「地域連携センター」です。さらに現在「キャリア創造コース(仮称)」の新設を構想しています。本学は免許・資格を柱にした職業人教育を行っていますが、この新コースでは切り口を変え、地域社会で活躍できる人材に焦点を合わせます。小さな事業所であっても、地元や地域社会で歓迎される人材になれるとすれば、それは素晴らしい人生です。近隣の首長とお話ししていると、若い人材をぜひ戻してほしいというお声を聞きますが、そうした要望にお応えするのも本学の役割です。ケアの精神を備え、地域社会に貢献する意識をもった学生を数多く地域社会に送り出していきたいと思います。

地域社会という現場で学ぶアクション・リサーチ

 地域に目を向ける教育の一環として、全学共通科目の「湊川のあゆみⅡ」という授業を立ち上げました。学生が、地域社会の現実の姿に触れることを目標に地域連携に関するアクション・リサーチを行う科目で、グループごとにテーマに沿った活動を実施します。ユニバーサルデザインをテーマにするグループは街に出て手すりなどの設置状況を調べる。居場所というテーマでは白地図を携えて地域を歩き、広場やたまり場になる場所を調べて記していく。そのうえで、それらの居場所が地域にどんな意味をもたらすかを考察します。ユビキタスのテーマでは、三田でWi-Fiに接続できるエリアをチェックして回り、情報機器の使用環境を調査するといった活動をします。さらに焼き物の産地である隣の立杭では、地場産業の魅力発信にも取り組んでいます。篠山市にある兵庫陶芸美術館で話を伺い、そこから窯元を訪ねて実態を調査し、焼き物の産地である街の魅力を、SNSを活用して発信する試みをしています。また、子供たちの遊び場をテーマにした活動では、本学の校舎の裏山で学生たちが里山の復元に取り組んでいて、子供向けの遊歩道や冒険広場の整備を進めています。

 現実社会というのは複雑であり、わからないことが数多く存在します。アクション・リサーチでは、わかっている知識を教員が分け与えるのではなく、世の中にはわからないことがたくさんあるという前提で、学生自身が現場に入って課題を発見することから始めます。まず現場に足を運んで何かを感じる。その実感を大切にすることから、問題解決の方法を探っていきます。このようなことが、私が学長に就任してから取り組んでいる教育改革です。

短期大学の役割はなくならない

 2019年は法人設立100周年という節目を迎え、本学でもキャンパス整備を進めております。今年度の4月に完成する新校舎のほか、キャンパス内に緑地を設置するなど、より快適な環境に変わります。

 いっとき4年制大学志向の強まりを受け、短大離れが進んだ時期もありましたが、その動きはすでに落ち着きを見せています。私は短期大学の役割はなくならないと考えています。まず、地域に人材を供給するという役割を果たしていますし、いまは経済的に厳しいご家庭が多いなか、高等教育は受けたいが4年間は無理。でも2年間なら進学できるというケースもあるなど、短期大学だから果たせる役割は確実に存在します。これからも「キャリア教育」と「ケアの精神と地域社会への貢献」の2つの軸を徹底し、地域社会にしっかりと人材を送ることで短大経営を進めていきます。



末本 誠氏

【Profile】

末本 誠(すえもと・まこと)氏
1949年福井県生まれ。東京学芸大学卒。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。東京大学助手、神戸大学講師、助教授を経て、神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授。2015年9月より湊川短期大学副学長・教授。2016年4月より現職。神戸大学名誉教授。著書に『沖縄のシマ社会への社会教育的アプローチ―暮らしと学び空間のナラティヴ』(福村出版)などがある。

【湊川短期大学の情報(スタディサプリ進路)】

大学・短大トップインタビューに戻る