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椙山女学園大学 学長 後藤宗理氏

女子大学最多の「知」の総合力を活かし、
卒業後も彼女たちの人生をサポートしたい。


教育理念『人間になろう』の意味
 椙山女学園大学の創設は、今から113年前、1905年(明治38年)に開設された名古屋裁縫女学校にさかのぼります。その後、1949年(昭和24年)に家政学部の単科大学である椙山女学園大学を開設。以来、時代や社会の変化、女子教育のニーズの変化に対応して日本初の人間関係学部を開設するなど、約70年にわたって高い知性と豊かな情操を備えた女性の育成に努めてきました。そして今日、我が国の女子大学としては最多の7学部11学科・4研究科を擁する女子総合大学となりました。
 この歴史の中で本学が取り組んできたのは人間教育でした。その思いは『人間になろう』という教育理念に凝縮されています。この中で私たちが理想とする「人間」とは、人間性を尊重し、ヒューマニズムの精神を創造できる人間、人類の協調・連帯を大事にできる人間です。しかし、この理念にはもう一つ重要な意味があると考えます。
 先日、親戚の子どもが本学のホームページを見て「人間になろうってどういう意味?」と尋ねてきました。私が「人間になるとはどういうことか、自分で考えて答えを出すことだよ」と答えると、彼女は大いに納得した様子でした。つまり、『人間になろう』という言葉には、大学から与えられた人間像を目指すだけでなく、その言葉の意味を自分で考え、答えを常に模索しながら自主的・主体的に行動できる人になってほしいという願いが込められているのだと思います。
 その思いは、日常の教育の中にもさまざまな形で息づいています。
 たとえば、私のキャリア教育の講義では、毎回約100名の学生から数名をランダムに指名し、全員の前で自己紹介をしてもらいます。指名された学生は、自分がどんな人間なのかを自分に問いかけます。何が得意で、何が不得意で、将来何をしたいのか。言い換えれば、それは自分を知ることであり、将来への意志を明確にするきっかけです。ある看護学部の学生が「私は英語か看護かで迷った末に看護を選んだ。だから将来は、国際看護の道を目指したい」と力強く宣言した時、期せずして教室内に拍手がわき起こりました。聴いていた学生も、自分と同じ、あるいは自分と違う価値観に出会い、それを自分自身の成長の糧とすることができる絶好のチャンスです。
 また、同じキャリア教育の授業の最終日には、本学園の椙山女学園高等学校の生徒に向けて応援メッセージを書いてもらうことにしています。「一つやりたいことを決めると良いよ」「親の言いなりになってはダメ」など、彼女たちの言葉は実に自由でユニークです。でも、それらはすべて、彼女たちが自分を振り返りながら導き出した本音です。高校生は、親や先生とは違う、年齢の近い先輩の本音に触れ、将来に対する意識を高めます。これも本学園のめざす人間教育の一環です。

信頼関係によって学生が変わる
 しかし、すべての学生が入学時から全員の前で堂々と発表できるわけではありません。私が学生を指導する中で大切にしているのは、学生と丁寧にコミュニケーションを取りながら信頼関係を築いていくことです。たとえば、講義の中で私は受講生全員にカードを渡し、講義の感想を書いてもらいます。その後、400枚ほどあるカードを1日かけてすべてに目を通して学生の要望を把握し、改善できるところはすぐに改善します。以前、ある学生から「隣の学生数名が私語をしているため、授業に集中できない」という意見をもらった時は、すぐに私語をする学生グループの席替えをしました。すると、集中できないと言っていた学生から「本当に全員のカードを読んでくれているんですね!」という反応がありました。
 こうして私たちが工夫をすることで学生との間に信頼関係が生まれると、彼女たちが授業に取り組む姿勢は明らかに前向きになります。最近、ゼミの学生を学長室に招いて一緒にランチをとるという試みをスタートさせました。周囲からは「そんな取り組みをしている学長は他にいませんよ」などと驚かれます。でも私は普段から学生に混じって学食でランチを食べますから、今に始まったことではありません。こうして学生と話すと私も学生の意見を聞くことができますし、きっと学生たちももっと大学のこと、自分の将来のことを前向きに考えるようになってくれると信じています。この試みを始めてから、ゼミの学生が気軽に学長室を訪ねてくるようになりました。私としては嬉しい限りです。

女性の長い人生をサポートする
 現在、やがて訪れるであろう「人生100年時代」に向けて新たな女性の学びの場を提供するため、本学では「椙山女学園大学改革アクションプラン」を策定し、教育改革に取り組んでいます。最新のプランでは、『人間になろう』という教育理念のさらなる理解の推進や、魅力ある学部・学科・専攻づくりなど9つのテーマを掲げ、全学で教育改革を実践しています。
 中でも最も本学を象徴する取り組みが、文部科学省の「就業力育成支援事業」に採択された「トータルライフデザイン教育」です。
 大学教育というと、入口(入学)から出口(卒業・就職)までの期間で語られがちですが、学生は本学を卒業した後こそが人生の本番です。彼女たちは、仕事と生活との最適なバランスを図りながら生活を営んでいきます。やがて結婚や出産など人生の大きな転機を乗り越えなくてはならないこともあるでしょう。仕事をするうえで新たなスキルを習得する必要が生じたり、人生をより豊かにするために未知の分野に挑戦する日も訪れます。そんな女性の長い人生に対して、7学部11学科・4研究科の総合大学ならではの豊富な「知」の蓄積を提供し、卒業生や社会人の生涯学習を支援し続ける。これが椙山女学園大学の「トータルライフデザイン教育」です。
 たとえば、本学では2005年(平成17年)から年に4回の「人間講座」を開講しています。これは卒業生だけでなく誰でも自由に聴講できる講義で、テーマも「1メートルの長さの決め方」や「美肌づくりの栄養学」など実にバラエティに富み、毎回多くの聴講生を集めています。また、地域自治体の生涯学習センターとの共催講座やオープンカレッジなど、さまざまな学びの機会を用意し、卒業した学生たちの長い人生をサポートしていきます。将来、本学の卒業生だけでなく、その母と子、あるいは祖母と孫が本学の同じ教室で机を並べる日が訪れるかも知れません。
 他にも、これまで学部ごとに実施していた全学共通科目の「人間論」の授業を学部横断的に開講し、そこでも先ほどお話しした「自己紹介」を行ったり、保育園・幼稚園から小学校、中学校・高等学校、大学までをもつ本学園の特性を活かして各教育機関が連携してキャリア教育を行うなど、さまざまな改善を重ねながら、より質の高い人間教育の実現を追求していきます。




後藤宗理氏

【Profile】

後藤宗理(ごとう・もとみち)氏

1948年生まれ。名古屋大学教育学部卒、同大学院教育学研究科修士課程修了、同博士課程単位取得後退学。1979年名古屋市立保育短期大学講師、助教授、教授を経て1996年名古屋市立大学教授、2003年名古屋市立大学大学院教授。2010年から椙山女学園大学看護学部教授。看護学部長、学長補佐を歴任し、2018年4月から椙山女学園大学学長。

【椙山女学園大学の情報(スタディサプリ進路)】

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