教育トピック

教えて!「教育×ITはどう進む?」

 IT(情報技術)は、今や日常生活に欠かせません。新しい学習指導要領でも、情報活用能力が言語能力などと並ぶ「学習の基盤となる資質・能力」に位置付けられました。政府の「総合イノベーション戦略」でも、2032年度までに初等中等教育を終えた全生徒がITリテラシーを獲得することを目標に掲げました。これからの教育とITとの関係は、どう進んでいくのでしょうか。

教えて!「教育×ITはどう進む?」


 最近、「EdTech」という言葉が注目を浴びています。EducationとTechnologyを組み合わせた造語で、人工知能(AI)やビッグデータなどのさまざまな技術を活用して教育に変革をもたらすサービスや技法を指します。

 経済産業省は「『未来の教室』とEdTech研究会」を設け、6月末に第1次提言をまとめています。そこでは、課題先進国である日本では社会システムの再構築が必要であり、誰もが「創造的な課題発見・解決力」を手にするために、学習者が学び方をデザインする「学びの社会システム」を打ち出しています。そうした教育の革新を実現するものがEdTechだ、というわけです。

 そこでは、たとえ離島や山間部に住んでいようと、学校のみならず自宅でも学習塾にいても、どんな家庭環境に育っても、あるいは何歳になっても、自分に合った方法で学べる「学習者中心」の未来を描いています。「教科(系統)主義と経験主義の壁」だけでなく「民間教育と公教育の壁」「教育と社会の壁」までもが溶けていく――というのですから、無視できません。

 しかし高校現場では、既にEdTechの広がりを実感しているのではないでしょうか。例えばITをフル活用して社会課題や先端研究課題に触れ、文理融合の探究プロジェクトに取り組むことなどは、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)やスーパーグローバルハイスクール(SGH)で実践が積み重ねられてきました。また、リクルートの「スタディサプリ」は近年、大学入試対策としても導入する高校が増えていますが、こうした講義動画も立派なEdTechです。高等教育では世界的にMOOCs(大規模公開オンライン講座)が普及し、国境や学歴を問わず広範な人々に最先端の講義を提供しています。

 第1次提言では、「今」を前提としない「未来の教室」の可能性として、▽学習者が「自分に最適な、世界水準のプログラム」と「自分に合う先生」を幅広く選べる ▽常識・ルール・通説・教科書の記述等への「挑戦」を、(失敗も含めて)「学び」と呼ぶようになる  ▽「教科学習」は個別最適化され、「もっと短時間で効率化された学び方」が可能になる ▽「学力」「教科」「学年」「時間数」「単位」「卒業」等の概念は希釈化され、学びの自由度が増す ▽「先生」の役割は多様化する(教える先生、教えずに「思考の補助線」を引く先生、寄り添う先生)――といったイメージを示しています。「なぜ学ぶかはさておき、まず勉強」「基礎を固めてはじめて応用ができる」といった旧来の姿勢は、もう通用しなくなることでしょう。

 こうした提言は、決して教育界の外からのものに限りません。文部科学省も6月初めに省内タスクフォース(特別作業班、TF)の報告書「Society5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」をまとめており、EdTechとビッグデータを活用して、①「公正に個別最適化された学び」を実現する多様な学習の機会と場の提供 ②基礎的読解力、数学的思考力などの基盤的な学力や情報活用能力をすべての児童生徒が習得 ③文理分断からの脱却――を目指すとしています。

 そうした教育の実現には、ICT(情報通信技術)環境整備が不可欠であることは言うまでもありません。新指導要領の下、教育界はもとより国・自治体・民間を挙げてEdTechの取り組みを推進することが期待されます。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/