教育トピック

教えて!「総合的な探究の時間」

 来年度から移行措置が始まる高校の新学習指導要領では、これまでの総合的な学習の時間(総合学習)を「総合的な探究の時間」(総合探究)として実施することになります。「探究」は、各教科でも「古典探究」「日本史探究」などの科目が設けられるなど、今回の改訂で重視されているものでもあります。今後の総合探究を、どう考えればいいのでしょうか。


教えて!「総合的な探究の時間」


 日本の指導要領とは違いますが、参考になると思われる事例を紹介しましょう。世界中の大学に入学資格を付与する国際バカロレア(IB)のディプロマ・プログラム(DP)です。DPでは教科だけでなく「コア」と呼ばれる三つの活動が必修となっており、そのうち「知の理論(TOK)」は、知識の本質について考え、主張を分析し、知識の構築に関する問いを探究する最低100時間の学習を通して、批判的思考を培い、生徒が自分なりのものの見方や他人との違いを自覚できるよう促すことを目指すものです。

 今月14日に行われた「文部科学省IB教育推進コンソーシアム」のシンポジウムで、国公立のIB認定校の先駆けである東京学芸大学附属国際中等教育学校の杉本紀子主幹教諭は「IBと日本の目指してきた学びは、そう変わらない」としながらも、両者の違いは「教科を超えること」だと指摘しました。実際、DPを初めて2カ月ほどたつと、教科の授業でも生徒たちが口々に「TOKではこうした」と言い出すようになる、というのです。生徒がさまざまな意見に耳を傾け、議論を楽しみながら自分なりの知識を形成する中で、教科の学びについても積極的に、他教科や自分との関わりを見出していこうとするようになるわけです。

 これからの総合探究を構想するに当たって、他のコア活動である「課題論文(EE)」や「創造性・活動・奉仕(CAS)」も含めたDPの在り方は、大いに示唆を与えてくれる気がしてなりません。

 新指導要領では、各教科等で育成する資質・能力を相互に関連付け、実社会・実生活での活用や、各教科等を超えた学習の基盤となる資質・能力の育成を重視しています。総合学習・総合探究は教科横断的なカリキュラム・マネジメント(カリマネ)の軸とされ、その目標は各学校の教育目標を踏まえて設定すべきことが明示されました。

 「社会に開かれた教育課程」を実現するには、教科の学びを教科内だけにとどめていてはいけません。生徒自身が教科等で獲得した見方・考え力を総動員しながら、主体的に課題に向き合い、解決していく資質・能力にまで高めなければなりません。まさにそのカギを、総合学習・総合探究が握っているのです。

 高大接続に関しては、上級学校に進学しない層はもとより、大学卒業後も見据えた「高大社接続」が必要だとも指摘されています。新指導要領では小学校からキャリア教育が明記されるなど、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けさせていくことが、ますます求められます。そのためにも総合学習・総合探究の充実が不可欠です。

 高大接続改革の下の大学入学者選抜改革では、学力の3要素をバランスよく評価した多面的・総合的選抜が求められます。総合探究の成果は、受験生の思考力・判断力・表現力等や主体性・多様性・協働性を具体的に評価する手立てとなることでしょう。新教育課程に対応した大学入学共通テストで、探究の課題を理数系に特化した「理数探究」が出題される見通しであることも、それを象徴しています。

 IBは海外だけでなく、既に54大学でDP取得者を対象とした入試が実施されるなど国内でも注目されています。一方、総合学習をはじめとした日本の指導要領は、21世紀型のコンピテンシー(資質・能力)を育成するカリキュラムとして、経済協力開発機構(OECD)からも評価されてきました。総合探究を今後、IBにも負けない日本の教育課程を支える時間として、ますます重視していくことが期待されます。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/