教育トピック

教えて!「『ポートフォリオ』はこれから!?」

 大学入学者選抜で「主体性等」を評価するために開発された高大接続ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」(Je P)について、文部科学省が8月7日付で、運営主体である一般財団法人教育情報管理機構の運営許可を取り消しました。主体性等の評価は、いったいどうなるのでしょうか。

教えて!「『ポートフォリオ』はこれから!?」

 JePの許可取り消しについて、文科省はホームページ(HP)で、以下のように説明しています。
「委託事業期間中は文部科学省の委託研究事業としての試行的な取組でしたが、運営許可後は同機構が主体となって事業運営を行っていくこととなったため、文部科学省としても委託事業において参画していた大学に対し引き続きの利用を求める形をとらず、ゼロベースでの事業運営としたことから、運営当初からの一定規模の大学数を確保できず、事業運営に制約がありました。また、文部科学省も特段、大学数の増加に係る促進策を講じなかったことから、大学においても『JAPAN e-Portfolio』を入試で活用することの理解が進まず、このことも、事業運営に影響を与えたものと考えます」。

 説明にもある通り、JePはもともと文科省の「大学入学者選抜改革推進委託事業」の一つとして検討が始まったものでした。高大接続改革の一環としての大学入学者選抜改革では、各大学が学力の3要素すべてを多面的・総合的に評価して、入学者を選抜することが求められます。しかし、個別大学で「思考力・判断力・表現力」や、「主体的に学習に取り組む態度」を高大接続用に言い換えた「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」をどのように評価すればいいのか、大学側にも戸惑いがあったのも事実です。そこで文科省は2017~18年度、「思考力等」「主体性等」をどう把握・評価するか、五つの大学コンソーシアム(共同事業体)に、それぞれ①人文社会分野(国語科)②同(地歴・公民科)③理数分野 ④情報分野 ⑤主体性等分野――の調査研究や開発を委託しました。

 ⑤について、関西学院大学を代表とする9大学のコンソーシアムが開発したのがJePです。18年度の試行には、最終的に113大学が参加。高校生の利用も3286校の17万5000人余りに上りました。ほとんどの大学は入学後の追跡調査など教育に生かすためでしたが、10大学が19年度入試に活用しました。文科省は19年度、主体性等評価だけ委託事業を継続。その結果、コンソーシアムが母体となって立ち上げる財団が、文科省の運営許可を得てJePを運営する、という枠組みができたのです。

 しかし、先のHPのような理由により、19年度の参加大学は30大学にも届きませんでした。会費収入を主に運営する財団が債務超過に陥っては、事業継続は難しいと判断されたわけです。なお、生徒が登録した情報は、システムが完全に停止する9月11日までに、生徒自身か高校が保存しなければなりません。

 運営の枠組みがこれでよかったのか、許可取り消しの判断は妥当だったのかなど、疑問に思う点は数々あります。しかし見逃してはならないのは、JePが主体性等評価に受験生本人の「振り返り」を重視したことです。

 学習評価としてのポートフォリオ(原義は「紙挟み」)は、単に学習履歴や学習成果をためればいいというものではありません。高校時代のさまざまな活動を振り返って、どう大学での学びにつなげられるのか。それこそが主体性等評価の意義だったはずです。

 20年度からキャリア教育の一環として、学びのプロセスを記述し振り返ることのできるポートフォリオ的な教材として、「キャリア・パスポート」の活用が小、中、高校で一斉に始まりました。実際には新型コロナウイルス感染症による休校続きで、それどころではない学校も少なくないことでしょう。一方で、最長3カ月にわたる休校中は、生徒にも自律的な学習が求められました。新学習指導要領で「主体的に学習に取り組む態度」の評価として挙げられた、①粘り強く学習に取り組む態度 ②自ら学習を調整しようとする態度――の側面、とりわけ②の重要性がクローズアップされたともいえます。

 大学入試で課されるかどうかはともかく、上級学校への進学後、さらには社会に出てからも学び続けるためには、自ら学習を振り返って、主体的に学びに向かう力が欠かせません。そうした力は、ポストコロナ時代にますます求められることでしょう。そのためのポートフォリオ評価の意義は、決して薄れることはありません。



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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/