教育トピック

教えて!「大学入試の記述式と英語4技能はこれから?」

 大学入学共通テストの目玉とされた、記述式問題の出題と、民間の英語4技能試験の活用が、新課程に移行する2025年度以降も行われないことになりました。「大学入試のあり方に関する検討会議」が7月8日にまとめた提言を受けて、文部科学省が近く正式に予告を通知します。新テストの目玉が消えたことで、今後の大学入試はどうなるのでしょうか。

教えて!「大学入試の記述式と英語4技能はこれから?」

 検討会議は、萩生田光一文部科学相が二つの目玉の導入見送りを決めて間もない2020年1月、有識者や大学・大学団体代表者などを集めて発足。「高大接続改革」の経緯の検証や、初の共通テスト(21年1月)の実施状況などもみながら、約1年半にわたって23回の会合を重ねてきました。

 ただ、これら二つの目玉を新課程入試で導入するかどうかの可否に限って言えば、結論は早くから出ていた、とみるべきでしょう。記述式の採点のぶれや、民間試験活用に対する地理的・経済的格差への配慮といった不安が今後も解消される見通しが立たない上に、これらを大学入試センターが独自に実施するには、莫大な費用が掛かって検定料にも響くことは、分かり切っていたからです。

 一方で、検討会議の発足を契機に、各大学の個別試験に関する詳細な実態調査が行われたことは、一つの成果でした。国公立大学では99%、私立大学でも55%の入学者に対して記述式問題が出題されていたことや、英語民間試験を活用した選抜区分で入学した者もそれぞれ9%、16%あったことが、初めて明らかになったからです。今後ますます、共通テストと個別試験とのすみ分けが明確化されることでしょう。

 二つの目玉が問おうとした力が、大学入学後に不可欠なことは、言うまでもありません。生徒の志望校選びに際しても、アドミッション・ポリシー(入学者受け入れの方針、AP)だけでなく、入学後のカリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施の方針、CP)やディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針、DP)までも視野に入れた進路指導を強化することが、いっそう求められます。

 ところで二つの目玉が導入されることが決まったのをきっかけに、この間、思考力・判断力・表現力等や、総合的な英語力の育成を目指す授業改善が進んだことも、事実ではなかったでしょうか。これらは大学入試に課されるか否かを問わず、これからの社会で活躍する生徒たちに必要な資質・能力です。授業が後戻りしていいわけはありませんし、新課程ではなおさらです。その延長線上で、生徒が志望する大学が記述式や英語の総合力を問うているならば、対策に力を入れるよう指導する、という本来の姿に立ち戻ることが求められます。

 共通テストの英語にしても、直接的に問うのは2技能だけですが、実は4技能を総合的に活用した授業を受けていることを前提に出題していることが明らかになったのも、検討会議での議論の成果と言えるかもしれません。高校の授業改善に沿った大学入試を構想する、というのは、高校教育・大学教育・大学入学者選抜を三位一体で改革する「高大接続改革」の一つの狙いでした。

 検討会議ではこの他、地理的・経済的事情や障害のある受験者への更なる配慮を打ち出したことや、入試改革にとどまらず文科省の諸施策の意思決定一般に注文を付けたことも、大きな成果だと言えるでしょう。会合では、不利な状況に置かれた受験生に対するアファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)の必要性を訴える意見もありましたが、その点では踏み込み不足に終わりました。個別大学の対応が期待されます。

 文科省の意思決定という点では、そもそも第2次安倍政権以降の高大接続改革が、2020年度中の実施というスケジュールありきで進められたことや、二つの目玉の導入も見送りも政治判断・政治決断が背景にあったことに対する、十分な検証が行われたとは言い難い面も否定できないでしょう。そこは、大臣決定で設置された検討会議の限界と言えるかもしれません。

 検討会議での論議を契機に5月、大学・高校関係者などの常設的な会議体である「大学入学者選抜協議会」も発足しました。今後は真に高校・大学の教育と受験生のための入試改革論議を期待したいものです。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/