大学を強くする「大学経営改革」[46] 教育研究と大学運営のあり方と関連づけて大学図書館のあるべき姿を追求する 吉武博通

構造的かつ急速な環境変化に直面する大学図書館

 改革の必要性が指摘されながら、変わりきれないといわれる大学にあって、大学図書館は近年その姿を大きく変えつつある。

 最大の要因は、図書・雑誌の電子化やネット検索を含む情報ネットワークの高度化である。特に雑誌の電子化は、蔵書スペースの確保に腐心する図書館と利用者の利便性の両面で利点があるものの、毎年の値上がりが大学経営の圧迫要因となり、その費用捻出や学内負担のあり方を巡り、多くの大学が苦慮している。

 このような状況に対処すべく、価格交渉力の強化を狙いとしたコンソーシアムの形成やオープンアクセスの理念に基づく機関リポジトリの構築など、新たな動きも起こっている。

 大学図書館が担う学習の場としての機能を発展・拡充する取り組みも行われている。それを象徴するものがラーニングコモンズである。また、情報リテラシー教育やアカデミックスキルの育成に大学図書館がどう関わるかといった課題もある。

 その一方で、国公私立を問わず大学の経営環境が厳しさを増す中、多くの大学で図書館経費の抑制や削減が行われ、特に人件費削減と業務の外部委託化が急速に進んでいる。

 電子化・ネットワーク化などの構造的変化、教育・学習面での新たな役割の模索、経費削減と外部委託化という、一見すると性格の異なる動きが同時進行する現状とその本質を理解し、施策相互の整合をとりつつ、自校にふさわしい大学図書館の姿を追求していくことが求められている。

 幸いにも、大学図書館については政府統計も整備されており、国内外の動向を紹介し考察した文献も多い。大学図書館の運営を担う職員は、図書館員として大学を超えた繋がりも強く、様々な形で知識・情報が共有されている。

 本稿では、それらの情報を手掛かりに、大学図書館の現状と課題を整理したうえで、これらの課題を図書館という組織・制度の枠組みの中だけに止めず、教育研究や大学運営のあり方と関連づけながら、より広い枠組みの中で捉え直し、今後の方向性を検討するにあたっての視点を提示していきたい。

国公私立とも人件費を中心に図書館運営費を削減

 まず、文部科学省が毎年度実施している「学術情報基盤実態調査」の結果に基づき、大学図書館を巡る問題を客観的なデータで確認しておきたい。

 平成23年度の同調査によると、大学図書館が抱える課題として、組織・運営面では、専門性を有する人材の確保を挙げる大学が84.4% に上るほか、現職職員の育成とキャリア・パスの確保、教員との協働・連携などが上位に挙がっている。

 経費・設備面では、外国雑誌・電子ジャーナル購入に係る経費の確保を挙げる大学が全体の73.5%、以下、図書購入に係る経費の確保、資料収蔵スペース狭隘化の解消などとなっている。また機能面では、利用者サービスの向上を挙げる大学が84.5%、以下、学生の自学自習のための支援(ラーニングコモンズの整備、レファレンス等)、情報リテラシー教育の充実、電子情報の提供・保存環境の整備の順で上位を占めている。

 次に、直近の5年間における運営体制面での変化を確認するため、平成18年度調査との比較を行った。

 専任職員数の変化を見ると、国立大学で11.2%、公立で20.7%、私立で15.2%の減少となっており、18年度には国公私立とも専任と臨時がほぼ同数であったものが、それぞれ臨時が専任を上回る体制に変わってきている。

 次に専任職員に占める司書資格者の比率であるが、23年度において国立73.5%、公立66.6%、私立61.6%となっており、18年度とほぼ同水準である。また、臨時職員に占める司書資格者は国立と私立がほぼ4割、公立は7割近くに上っている。

 5年間で特に大きく変化しているのが外部委託である。全面委託している大学は国立にはないが、館数ベースで公立では4館から6館へ、私立では22館から62館(全館数に対する比率は5.9%)に増加している。一部委託については、目録所在情報データベースの作成や受付・閲覧などの業務において外部委託が拡大している。23年度調査(22年度実績)において受付・閲覧を外部委託している図書館数の比率は、私立大学で25%を占めている。

 図書館を維持するのに必要な経費は、図書館資料費と図書館運営費に大別されるが、その合計額が大学総経費に占める割合は23年度調査(22年度実績)で、国立1.7%、公立2.2%、私立2.8%である。18年度調査(17年度実績)からの変化をみると、図書館経費総額は国立が4.4%減、公立が4.6%減、私立は12.0%の減となっており、私立の削減の大きさが目立つ。

 内訳をみると、国公私とも図書と雑誌の購入費を削減しながら電子ジャーナルの費用を捻出している様子が分かる。また、人件費を中心に運営費を削減することで、資料費の削減を最小限に止めながら、総経費を抑制する構図であることが分かる。特に、人件費については国立10.7%、私立28.6%と大幅な減少になっている。

 大学ごとに事情は異なり、図書館以外の経費の変化とも比較しなければ正確な評価はできないが、大学全体の経費抑制の中で、図書館がより厳しい状況に置かれていることが考えられる。


図表 図書館経費の構成比の変化(国公私立合計)


教育改革全体の枠組みの中で図書館を考える

 大学設置基準は第38条において、図書、学術雑誌、視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料を、図書館を中心に系統的に備えるものとしたうえで、図書館はこれらの資料の収集・整理・提供を行うほか、情報の処理・提供のシステムを整備して学術情報の提供、他の大学の図書館等との協力に努めるものとし、これらの機能を十分に発揮させるために必要な専門的職員その他の専任の職員を置くことなどを定めている。

 このことを踏まえたうえで、大きな構造的変化の中で、大学図書館が如何なる役割を果たすべきかについて、教育・学習と学術情報の2つの視点から考えてみたい。

 科学技術・学術審議会の学術情報基盤作業部会は平成22年12月に「大学図書館の整備について(審議のまとめ)-変革する大学にあって求められる大学図書館像-」をとりまとめ、その中で、大学図書館に求められる機能・役割の第一に「学習支援及び教育活動への直接の関与」を挙げている。具体的に示されているのはラーニングコモンズ、レファレンスサービス、情報リテラシー教育である。

 24年8月の中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」においても、主体的な学修を支える図書館の充実や開館時間の延長などが課題に挙げられている。

 このような方向に沿った取り組みとして最も注目されているのがラーニングコモンズである。公立はこだて未来大学や国際基督教大学が早くから同趣旨の取り組みを開始していたことは周知の通りであり、その後、お茶の水女子大学や東京女子大学などでも開設され、次第に広がりを見せつつある。

 学生支援GPにも採択された東京女子大学の「マイライフ・マイライブラリー」は、図書館のフロアを改修してラーニングコモンズにふさわしいハード面の整備と併せて、学生スタッフが学生を支援する学生協働サポート体制、情報リテラシー講習などの学習支援プログラムといったソフト面の整備も行っており、学生からの評価も高く、入館数も大幅に増加しているという。

 これらの先進事例がある一方で、多くの場合、ハード面の整備だけが先行し、機能やコンテンツなどのソフト面が追い付いていないとの指摘もある。自学自習や共同学習に対するサポートシステムの整備に加えて、情報リテラシー教育やアカデミックスキル育成などの機能を充実させていくことで、ラーニングコモンズ導入を契機とした学習の場としての図書館の構築を進めていく必要がある。

 そのためには、新たな状況や要請に対応して図書館をどう変えていくかという図書館を起点とした発想と、教育の質的転換が強く求められる中、全学的な教育の枠組みの中に図書館をどう位置付けるかというもう一方からの議論を十分に噛み合わせることが不可欠である。

 学部数が少ない比較的小規模の大学にラーニングコモンズの先進事例が見られるのもこのことと無関係ではないと思われる。図書館へのアクセスなど利用しやすい物理的環境もあるが、これらの大学はそれぞれに特色ある教育方針を具体的かつ明確に打ち出しており、図書館における取り組みがその方針に沿って整合的に機能・展開していると評価することができる。

 ラーニングコモンズが担うべき機能の重要性が、大学教育において一層増していくことは明らかである。それらの全てを図書館が担う必要はないし、現実的でない場合もあるだろう。重要なことは、ラーニングコモンズの本質が広く理解され、大学における教育改革の議論に図書館が組み込まれることである。そのうえで、大学の規模、学問分野、キャンパスレイアウトなどを踏まえた自校にふさわしい図書館のあり方を描く必要がある。

学術情報流通の構造的課題に如何に対処するか

 電子媒体の普及と情報検索を含むネットワークの高度化により、図書館が担う学術情報の収集・整理・提供などの業務が大きく変わりつつあることは既述の通りだが、図書や雑誌などの紙媒体と電子媒体が併存することで、図書館業務はこれまで以上に複雑かつ高度化している。

 特に、電子ジャーナルの価格上昇により、学内における新たな費用負担方式の確立、多様な契約方式の中からの最適選択、コンソーシアムの形成と強化など、的確な状況把握に基づく戦略的な対応が求められている。研究者にとって必要な電子ジャーナルが読めるかどうかは重要な問題であり、優秀な教員を確保するための要件の一つでもある。

 商業出版が学術情報流通を支配し、学術的成果の生産と活用に重大な影響を及ぼしているとの批判に対して、商業出版の側にも、学術情報流通を持続可能なシステムとして発展させてきたことや値上げには合理的根拠があることなどの言い分があるだろう。

 それに対して、学術情報流通を商業出版から取り戻すための活動も展開されている。学術研究成果は人類共通の知的資産であり、誰もが無料で制約なく成果にアクセスすることができることを目指したオープンアクセスの推進が国の政策としても打ち出され、それに呼応するように、大学等の機関ごとに機関リポジトリを構築したり、学協会単位で学術雑誌の電子化を推進したりといった取り組みが始まっている。

 これらの取り組みには克服すべき課題も多い。機関リポジトリを例にとると、それを構築し維持・運用するための体制、査読のあり方を含むリポジトリの品質の確保、著作権の問題などが考えられる。大学がグローバル化や教員評価に力を入れるほど、教員の目は世界のトップジャーナルに向くようになり、機関リポジトリへの関心が高まらないといったジレンマも生じている。

 このように、学術情報に関する問題は研究や評価のあり方と密接な関わりを有しており、国や学協会のレベルでさらに議論を深めるとともに、それらの動きと連動させつつ、大学においても図書館を含めた全学的なレベルで検討・推進を図っていく必要がある。

図書館運営の課題は大学運営の縮図

 これまで述べてきた通り、大学図書館が直面する課題は大学の教育や研究の根本に関わるものが多く、多様な学内外の関係者との連携を含めた戦略的な取り組みが従来にも増して強く求められている。

 その一方で、国公私立を超えて大学経営は厳しさを増しており、利用者サービスの維持・向上を図りながら、図書館経費を抑制するための外部委託も拡大し、前述の通り専任職員を中心に人件費削減が進んでおり、この流れが当面続くものと思われる。

 図書館に限らず大学全般にいえることだが、教育研究に直接関わる教員の人件費を維持しながら、職員人件費を削減することで、総人件費抑制を図る傾向が強く、職員中心に運営される図書館にそのことが象徴的に表れていると見ることもできる。また、図書館には運営委員会はあっても学部教授会のような組織はなく、法人理事会や大学執行部が考える施策を実行しやすいという面もある。

 また、図書館業務を受託する企業も増えており、それぞれに能力と実績を蓄積しつつある。これらの企業には司書資格を有する社員も多く、企業間で厳しく競い合っている状況から、外部委託が機能の低下に直ちに繋がるとは考えにくい。その逆に、委託以前に比べて利用者サービスが向上したとの評価もあるという。

 ただ、専任職員が1名や数名で他は全て受託企業社員というケースも増えており、業務委託契約であることから指揮命令もできず、戸惑いを感じている職員もいるものと思われる。外部委託を行う場合、検討段階から図書館職員を参画させるなどして、目的の明確化と共有を図るとともに、業務分担の最適化、委託後の連携のあり方などを十分に詰めておく必要がある。

 大学や図書館の規模などにより状況は異なるが、司書資格の保有にとどまらず、高度な専門性を有し、図書館を巡る国内外の動向にも精通した職員は少なくない。本稿執筆にあたって関連文献を参照したが、執筆者の多くは図書館職員である。

 言うまでもなく、専任職員の意識や知識・スキルには個人差があるが、高度な職務遂行能力を有する職員を、図書館という組織や物理的空間に閉じ込めず、全学的な改革検討の場に参画させ、その能力を大学として最大限に活用すべきである。

 情報リテラシー教育やアカデミックスキル育成を正規科目とし、例えば講師の肩書を付与して図書館職員に担当させてもよい。さらには、教員か職員かという従来の枠組みを超えた新たな職務類型の専門職員制度(例えばadministrative faculty)導入の先駆けとして、新たな図書館員制度を検討することも考えられる。

 大学図書館を巡る問題から、現在の大学教育や学術研究を考える新たな切り口が見えてくる。また、図書館運営の課題は大学運営の縮図でもある。これらの問題を図書館関係者だけにとどめず、法人・大学全体で共有することを願って稿を括りたい。

 なお、本稿執筆にあたり筑波大学附属図書館の関川雅彦副館長に多くの助言や情報をいただいた。また、多くの大学の図書館職員の皆さんからも意見や情報をいただいた。そのことを記して謝辞にかえたい。



(吉武博通 筑波大学 大学研究センター長 ビジネスサイエンス系教授)


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