高大接続を担う入学者選抜改革の最前線

新大学入試の本格導入に向けて

今や耳慣れた感のある「高大接続改革」。2020年にはセンター試験に代わる「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(以下学力評価テスト)の導入を控える中、どうしてもそちらに注目が集まりやすいが、個別大学の入学者選抜も進んでいる。

 高大接続改革自体が国の大きな指針であること、平成28年度国立大学第3期中期目標期間に向けた策定時期だったこともあり、個別入学者選抜に関しては国立が改革を先行し、昨年小誌ではこうした動きを「入学者選抜改革元年」と位置づけた。

 いずれの新入試もうたうのは「学力の3要素」の「多面的・総合的評価」である。言うは易いが、これまでの知識重視型試験では判定できない資質・能力やパフォーマンスをどう評価するのか、頭を悩ませる大学は多い。評価に多面性が求められる中、改めて「入学者受け入れの方針(アドミッション・ポリシー)」、「教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)」、「卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)」を明確にし、「入学者に求められるスキル・コンピテンシー」を正しく評価できる入試手法や配点を構築していく必要がある。

 以前からこうした点を重視する入学者選抜を主軸に据えている大学もある。小誌でも以前取り上げたが、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに1990年設置された総合政策学部・環境情報学部では、学部コンセプトに共鳴し学習動機と資質・能力を見極める選抜方法としてAO入試が導入された。国際基督教大学は2015年より一般入試で総合教養ATLASを導入した。もともと入学後のリベラルアーツ教育にマッチングする人材を選抜するために「一般学力能力考査」「リベラルアーツ特性」等の適性試験が課されることで知られていたが、それをさらに磨き込んだかたちだ。

 神田外語大学ではセンター利用入試以外全入試で面接を実施しているが、それは大学として重視する「コミュニケーション能力」を測るために最適な選抜手段が面接であるからだという。
こうした大学に共通しているのは、カリキュラム・ポリシーに足り得るスキルやコンピテンシーを見極め、その最適な評価手段を構築している点だ。知識の量という共通軸を前面に出せなくなった時、「何を=どんな能力を」「どうやって=評価方法」「どのくらい測るか=配点」を決めるのは難しい。だからこそそこに個性が生まれる。その大学は何を重視するのか、スタンスが分かりやすく表れるからだ。

 文部科学省では今年度「大学入学者選抜改革推進委託事業」が公募・選定された。各大学の入学者選抜において「思考力・判断力・表現力」や「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」に関する評価がより重視されることになるよう、複数の大学等がコンソーシアムを組み、各
分野・科目等に関する評価手法の開発に取り組むものだ。人文社会分野・理数分野等、評価を設計すべき主要科目を中心に5件が選定されており、横断的に議論が進むものと期待される。

 そうした動きも背景に、私立大学の改革が進んでいる。今年度導入すれば、新入試で入学した学生が、学力評価テストの導入に当たる2020年に卒業することになる。従来と異なる基準で入学した層が、在学中にどう成長し、どう就職するのか、1つのサイクルを構築することができるわけだ。新体制を迎える前にPDCAを回すには最後のチャンスである。
 学力の3要素を測る目的で今年度入学者選抜を改革する私立大学をピックアップし、お話をうかがった。

従来のAO入試の課題を克服する
(鎌倉女子大学)

 鎌倉女子大学では従来からプレゼンテーション型のAO入試を実施していたが、「高校までの実績アピールに終始しやすく、志望理由や入学後のビジョンを語れない学生が多い」という課題認識を抱えていた。それは学生の質というよりも、選考のプロセス上の問題だったと河村和宏入試・広報センター長は語る。「それまで頑張った経験やそこから学んだものはある。でもそれを入学後どう生かすのかを話せない。入試プロセスもその抽出を重視したものではなかったので、入学後の教育へのミスマッチが散見された」。

 一方で2020年以降の共通テスト体制に備え、新たな枠組みでも選ばれる大学になるために準備しておく必要もあった。自校にフィットする多面的評価を見いだし検証する必要性である。
そこで導入されたのが「AO入試(高大接続重視型)」である。家政学部管理栄養学科以外の全学部学科で実施され、募集定員は全体の1割程度。事前相談の後、書類提出と審査があり、試験初日は集団討論とプレゼンテーション、2日目に小論文と面接を課す。各選抜においては学科ごとのアドミッション・ポリシーに関連したテーマを設定し、学科の学びに対する理解度も同時に問う。各選抜方法の内容については高校の意見も多く取り入れているという。「高大接続と言うからには、高校が何を求めているのかをベースにしないといけない。大学教育と高校教育をつなげる入試として試行錯誤しながら創っている」。

 また各評価手法で何をどのくらい評価するのか、パーセンテージで事前に明示されているのが大きな特徴だ。
 評価の比率は手法別に見ると集団討論の比率が40点と高いが、それは集団討論という評価手
法がカバーする、測りたい能力の幅が広いからであるという。こうしたルーブリック評価の配点まで公表している大学は必ずしも多くないが、「ルーブリックに客観性を持たせるには、情報を公開する必要がある。公表することで、本学が何を重視するのか、高校へのメッセージが明確になる。他大の動向に揃えることよりも高校の声に配慮するスタンス」だという。

入試を含めた募集プロセスを
Web上で完結させる(東洋大学)

 東洋大学は2017年度より、新設する情報連携学部と国際学部の2学部を対象に、「Web体験授業型入試」を導入する。事前課題をWebで視聴し、レポート提出、プレゼンや質疑応答、面接までを、全てWeb上で受験することができる(大学での受験も可)。単にWebというツールを活用するだけではなく、評価方法も学力の3要素を多面的・総合的に測る内容となっている。

 設計上主軸となるのはTOYO Web Styleという入試情報サイトだ。入試に関わる情報全てが集約されており、その中で各学部学科の20分前後の模擬講義を視聴することができる。2016年8月現在144もの講義が網羅されているが、特筆すべきはそのクオリティーの高さだ。単に正面からの撮影だけではなく、複数アングルを多用し、テーマも高校生に身近なものを厳選し、受講生のリアクション等も丁寧に構成されている。ベースになったのは、以前から取り組んできた高校1・2年生向けの「学びLIVE」というイベントだ。終日大学の授業を無料で受けられるもので、年2回開催されている。「学びLIVEからの出願率は高く、早期から志願者を獲得するためのベースとなっています」と加藤建二入試部長は語る。「大学のコアである教授陣の授業による高大接続です。入学前に教授のファンになってもらいたい」。それがアーカイブとして結実したのがTOYO Web Styleというわけだ。

 Web入試の構想はサイト設計段階からあったが、実現したのは地方の高校訪問での声があったからである。入学者の2割が関東以外の地方出身という東洋大学では、都市部と地方の経済格差・情報格差を是正しなければとの思いがある。それは入学後の奨学金等経済措置だけではない。「オープンキャンパスに来る交通費も数万円単位、入試で宿泊もすればそれ以上。入学以前ですら、親御さんに掛かる負担は決して軽くない。それを理由に進路を諦めてしまう学生さんもいます」。

 東洋大学には13 学部46学科の学びがあり、幅広い進路に応えられる自負 があるが、そこまで行き着かない学生が多いのもまた事 実なのだ。意志はあるが経済的理由で進学できない学生 の負担を少しでも減らすために、Webは非常に有効な ツールというわけである。前例のないチャレンジのため 成果は予測できないが、こうしたシステムを活用し、海外 からの留学生獲得等も実践し始めているという。

建学の精神に立ち返る (東京女子大学)

 同様に地方学生の獲得が起点でも、採った方法が異な る大学もある。東京女子大学が開始するのは「知のかけはし入試」。現状でも志願者全体の3割が地方から集まる 同学で、意欲があり優秀でありながら経済的理由で同学 に進学できない高校生向けに開設される、新たな入試だ。

 そうした目的に加え、「これからの時代を見据え、より 多様な人材を受け入れる必要がある」と、これまでにない 評価基準を打ち出した。課されるのは書類審査・講義ノー ト・小論文・ディスカッション・面接。問われるのは意欲・ 個性・学力・資質・論理的思考力・情報整理分析力・課題発 見力・リーダーシップと多岐にわたる。高校までの学習成 果や人物像を丁寧に見極めると同時に、大学での学びを 社会につなげ活躍できる素養を、あらゆる角度から多角 的に評価するのが目的だ。まさに高校と大学の「かけは し」、大学と社会の「かけはし」の両軸を担うものである。

  「ネーミングは、本学の創立者である新渡戸 稲造が帝 国大学入試の際に『太平洋の橋になりたい』と発言したと される逸話に因みました」と、入試設計責任者の篠崎晃一 教授は語る。「本学の場合、あるレベルまでの基礎学力は 大前提ですが、ペーパーテストのみで測れる能力は限定 的なのもまた事実です。特に本学が志向するリーダー シップ等の要件は、なかなかペーパーでは測れない」。評価方法の1つである面接は推薦入試等でも実施している が、「きちんと答えを準備してくる優等生が多く、逆に言 うと人材の多様性が確保しづらい」ところ、知のかけはし入試では面接前に受けさせた講義に基づき、その場で思 考しながら臨機応変に対応する能力も見るようにする 等、人材要件に合わせたプロセスに変更したという。 

 面接は導入する大学も多い一方、受験生が対策を講じるあ まり、金太郎飴のように似たような人材ばかりになりや すいとの声も聞かれるが、前後のプロセスや「面接で明ら かにしたいのは何か」を明確に規定することで、多面的評 価の一端を担うものに進化させることができるようだ。

 こうした選抜方法の設計に際しては、まずワーキング グループで叩き台を作成し、運営委員会で検討したもの を入試委員会に掛け、教授会で決議される流れをとった。 検討開始から学内外への広報に至るまでは約4カ月と短 い期間であったが、各専攻で取りまとめのハブとなる教 員で委員会を構成する等、ガバナンス上も工夫して取り組んだという。

アクティビティから総合力を見いだす (北陸大学)

 地方にもユニークな取り組みを行う大学がある。北陸大学では今年度から「21世紀型スキル育成AO入試」を開 始した。考案者でもある山本啓一学長補佐によると、21 世紀に必要とされる課題解決力とは2つに分けられる。1 つは知識や情報を基に課題を発見し、仮説を立て解決策 を考える力(リテラシー)。もう1つは、現場で協働しなが ら行動することで実際に課題を解決する力(コンピテン シー)だ。「リテラシーだけが強いと時に実践不足な評論 家的思考に陥り、コンピテンシーだけが強いと理論不足 の経験主義になりやすい。社会に出る前に両方をバラン ス良く育む必要があります。そのため、高校までに蓄積 されたスキル特性と学部の目標人材がマッチする学生に 入学してもらいたい」。

 今回入試を導入したのは2学部だ が、経済経営学部は高校時代にスポーツ等を通じて行動力を培ってきた人材が、国際コミュニケーション学部で は英語を中心に勉強する習慣のついている人材が多いと いう特徴があった。そのため、それぞれで評価方法を別 に設計した。 経済経営学部の入試はコンピテンシー評価が軸である。 受験生は屋外体験学習「プロジェクト・アドベンチャー」にて、課題解決型アクティビティに6時間かけてチームで取 り組み、教員による観察評価と面談で、主体性・協働性・課 題解決力を3段階で評価する。自己評価もこれに加わるの が特徴だ。「コンピテンシー育成に大事なのは、観察評価で はなく、自己評価を促す仕組みです。入試時点がどうであ れ、4年間通じて客観的な自己評価をできるようになるこ とが目標で、入試をきっかけにそうしたスキルが大事と気 づける学生が欲しい」と山本学長補佐は話す。

  一方国際コミュニケーション学部の入試は、リテラシー をグループワークで測る評価を用いている。課題に関した 資料を読み込み、議論しながら自分なりの考えをまとめ、 レポートにして教員と面談する。課題内容は「異文化や多言語を学ぶ意欲」を問うものであり、評価項目は、海外への 関心度、思考力・判断力・表現力を3段階で評価する。 こうした設計は高校からも評価が高い一方で、どの程度のレベルが求められているのか分かりにくいとも言われるそうだが、「学生が自己認識を深めるためのプロセス を提供しつつ、本学との相性を見ているものなので、レベ ル感で語るべきものでもない。選抜して落とすための入試ではなく、現状の課題解決力を測り、入学後の学習につ なげるための『接続』入試です。この入試を楽しめる学生はきっと本学の教育に合っているはず」。

 北陸大学は決して志願者倍率が高い大学ではない。こ うした入試は手間が掛かるわりに、志願者数を獲得する のに適しているとは言い難く、往々にして経営的優先順位が上がりにくい。しかしIR的観点から伸びる人材像を規定し、必要となる力を大学教育に接続する入試設計を することで、中長期で見て大学を支え得る人材を獲得するという方針には迷いがない。苦しい時こそ何を選ぶべきか、参考になる事例である。

グローバル化に対応した人材像を模索する (武蔵大学)

 英語の4技能を測るために外部試験を取り入れる大学も増えている。4技能型の入試を設計することは、高校で行われる英語教育の評価として妥当性が高く、また大学内のリソースで作問を行う以外に、既に存在する4 技能型外部試験の活用でそれを充当することが可能なこともあり、今年一気にその導入が進んでいる印象だ。 武蔵大学もその1つである。

 2017年度より、一般入試「全学部統一グローバル型」を導入する。4技能型の外部試験スコアを活用し、外国語以外の試験の得点(1教科)で合 否を判定する入試だ。 同大学がグローバル化を加速させるきっかけとなった のは、2015年度より経済学部で始まった、ロンドン大学とのパラレル・ディグリー・プログラム(PDP)である。海外 研修等を通して語学力を強化しつつ、武蔵大学教員が英語で講義するロンドン大学のプログラムを履修し、規定の試験に合格すれば、日本にいながら4年1カ月で両大学の2つの学士号を取得できる。定員は約30名。全世界共 通基準の成績評価を行うロンドン大学のプログラムで、 世界に通用する力を身につけたい学生を対象とする。 PDPがあるから武蔵大学を選んだという学生もいるとい う。

 「志向性の高い人材を選抜し、牽引人材として鍛えあげることで、周囲への波及効果を狙っています」と、光野 正幸副学長は話す。そうした選抜プログラムに所属したい受験生を対象として「特別選抜入試PDPパスポート型」 を設ける等、整備を進めてきた。 そうした流れを受けて、2017年度より人文学部でグローバル・スタディーズコース(GSC)を、社会学部でグローバル・データサイエンスコース(GDS)を設置する。 GSCは国際的な事象を研究対象の軸とし、語学を徹底 的に強化する多言語プログラムだ。特に英語プログラム では専門科目やゼミも英語で授業が行われる。こちらも PDP同様牽引人材選抜コースであり、その人材要件に合う形で設計された入試が「全学部統一グローバル型」というわけだ。

 このようにまず教育プログラムの設計があり、 その教育に適合し得る人材を入試で選抜するための評価方法を設計することで、全体の軸がぶれない制度設計となっているのである。こうした動きは、高校までに培った英語4 技能や学力を正当に評価するものとして、進路 指導の現場からの評価も高いという。同時に、国際的なプログラムを活用することで、国内の偏差値序列に一石を投じる効果もあろう。

まとめ

 見てきたように、大学により多面的選抜方法は様々だ。 設計に当たっては、学力の3要素を学内の現状と照らして 落とし込み、「この大学にとっての思考力とは何をどこま で考えられることを指すのか」「それはどうしたシーンで 現れやすいのか」といった細部までイメージし、それが共通認識として学内で共有されている必要がある。単に手 法を真似るだけでは、高校生に刺さるメッセージは生まれない。一方で特に私学では経営的観点から、適切な志願者数を確保することも求められている。数を追えば質 が落ちるというわけではないものの、経営基盤が安定した状態でなければ、機能する多面的選抜を導入するのは 難しいのも現実だろう。数と質のバランスをどうとるのか、大学の軸やスタンスが問われている。 (本誌 鹿島 梓)