リーダーを育てる(カレッジマネジメント Vol.173 Mar.-Apr.2012)

リーダー待望論が高まっている。失われた20年を経て,IT化・グローバル化の急速な進展により,私たちを取り巻く環境は大きく変化している。加えて,昨年の東日本大震災後,現場の臨機応変な対応に対し,リーダー不在が表面化した。欧米をベンチマークしたり,キャッチアップすればよかった時代は終わり,正解のないなかで自ら課題を設定し,チャレンジしていかなければならない時代に入ってきている。


かつて大学は,それぞれ独自の建学の精神に基づき,社会を牽引するエリートやリーダーを育成する機関であった。しかし,大学進学率が50%を超えてユニバーサル(大衆)化が進み,大学は多様な人材を育成する場と変化した。

だからこそ今,改めて大学本来のもつ社会のリーダー育成という役割が社会から求められているのである。これからの社会で求められるのは,座学で知識を詰め込んだ「受動的な人材」ではなく, 「多様な経験を積み,難しい時代にチャレンジできる人材」である。

こうした社会の期待に呼応して,建学の精神に立ち返り,その「志」を具現化する人材を,リーダーとして育成する大学が増えている。学生側にも,ニーズがある。以前の詰込み型学習の時代には,授業についていけない「落ちこぼれ」が問題であった。

しかし,ゆとり教育の進んだ現在では逆に,既存の大衆化した教育システムでは満足できない,志の高い「吹きこぼれ」層の増加が指摘されている。こうした大学と学生の双方の「志」が合致したところに,少数精鋭でリーダーを育成する,幕末の私塾のような『学内志塾』が生まれている。

ひとことでリーダーといっても,大学によってその育成するリーダー像は皆異なっている。また,学部横断の大学全体で実施するもの,学部の中で実施するもの,大学院で実施するもの,形はさまざまである。


しかし,共通するのは,日本の未来に対する危機感だ。折しも,東京大学が秋入学に向けた検討を開始したが,その最終目標は「グローバルで,タフな東大生」の育成である。今回の特集が,各大学の建学の精神(ミッション)を見つめ直し,改めてどのような人材を社会に送り出すのかを考
えるきっかけになれば幸甚である。

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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