“学ぶ”と“働く”をつなぐⅡ(カレッジマネジメント Vol.196 Jan.-Feb.2016)

日本では、バブル崩壊後、失われた20年といわれる中で、2000年頃の就職氷河期、2008年のリーマンショックと、新卒学生の就職を取り巻く環境は、厳しい時代が続いた。新卒の無業者増加が社会問題となり、2011年には、文部科学省も「社会的・職業的自立」という観点から、内定を獲る力ではなく、就職後社会で活躍できる力を“就業力”と定義し、大学設置基準を改正した。

そこには、「学生が社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を培うことができるよう、大学は、組織間の有機的な連携を図り、適切な体制を整えることを制度化」(大学設置基準等を2010年2月に改正、2011年4月より施行)すると記されている。つまり、キャリアセンターや就職課だけが取り組むのではなく、大学全体として「組織間の有機的な連携を図り」、自立できる学生を育成して、社会に送り出すことを求めたのである。

 これに対し、カレッジマネジメントでは、2010年に「就業力育成に関する学長調査」を実施し、165号(2010年11月発行)166号(2011年1月発行)2号連続で、「大学で身につける就業力とは」という特集を行った。調査によって、就業力育成に関する大学の取り組み状況と、学生のニーズのギャップを明らかにしたうえで、その後「就業力を育成する」という連載を通じて、個別大学の取り組み事例を4年にわたってリポートしてきた。また、大学と企業との接続について、その間の距離感をどうにかできないかとの思いから、180号(2013年5月発行)では「“学ぶ”と“働く”をつなぐ」の特集を企画した。

 そして2015年、大学生の就活の早期化・長期化を是正し、学修時間の確保、留学の促進を目指すことを狙いとして、政府主導によって就職活動の開始時期の後ろ倒しが行われた。しかし、この時期変更は採用する企業、送り出す大学、就活する学生、いずれからも厳しい評価を受ける結果となり、わずか1年での見直しが決定した。景気が好転し、企業の採用意欲も高まる中で、実態としてはさらなる早期化の懸念も燻る。

 大学は就職予備校ではない。しかし、大学生の8割以上が企業に就職しているのが実情である。“学ぶ”と“働く”をつなぐことは、単に就職するということにとどまらず、大学卒業後の長い人生をどう生きていくか、そのために何を学び、どのような能力を身につけていくのか、を考えることに等しい。今回の特集は「“学ぶ”と“働く”をつなぐ」の続編として、大学の取り組み、企業側の視点の両方から構成した。就活時期の変更に惑うことなく、大学はいかに本来の目的である学生に高い学力と豊かな人間性を身につけた卒業生を社会に送り出し、社会的な自立につなげていくのか。そうしたことを考える機会になれば幸いである。

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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