進学ブランド力調査2017(カレッジマネジメント Vol.206 Sep.-Oct.2017)

  2008年から発表してきたリクルート「進学ブランド力調査」も、今回で10回目を迎えた。この調査は、「知名度」「興味度」「志願度」、そして50項目にもわたるイメージを高校生に聞いている。では、ブランドとは何なのであろうか。ブランドの語源は、放牧される牛に分かりやすく識別するための「焼印=burned」だと言われている。つまり、他ときちんと識別できるかどうかがブランドの価値となる。現在では、ブランドと「活動全般を通じて、構築されるイメージの総和」だといわれている(図1)。つまり、大学のイメージは、様々な活動や事実、経験によって構築されるのである。広報活動はもちろん、学部・学科のラインアップ、教育・研究活動、在学生や卒業生の活躍、教職員の活動、クラブ活動、地域貢献活動、キャンパスの立地、歴史、教育の理念、学風等、高校生が接する全てが大学のブランドを構築する要素である。だから、世代によって大学のブランド価値は大きく異なる。例えば、親の世代と現在の高校生では、各大学のイメージは全く違っているのである。

 では、なぜ大学のブランド力が注目を集めるようになったのだろうか。それには、いくつかの背景があると考えている。(1)偏差値が信頼できない。以前は絶対的な価値であった偏差値も、私学におけるAO・推薦入試での入学者が半数を超えてくると、絶対的なものではなくなってきた。「偏差値って操作できるんですよね」これは、私が驚かされた女子高校生の言葉である。(2)大学数の増加、学部名称の多様化。保護者の世代が大学生であった1990年と比較すると、大学数は507校から、780校(2017年)と5割も増加している。しかも、当時29種類しかなかった学部名称は、現在700種類を超えているといわれている(注)。(3)学修成果が見えづらい。資格取得や研究成果が見えやすい学部と比較すると、特に文系学部において、何ができるようになったのかの学修成果が見えづらい。正課・正課外を含めて、卒業時にどうなれるのか、をどのように伝えていくかは、今後の大きな課題である。(4)情報公開が浸透しない。大学ポートレートによって、大学が情報公開を進めていく基盤は整ったが、残念ながらほとんど活用されていない。認証評価制度も、大学の質保証には寄与しているものの、社会的に浸透しているとは言い難く、高校生の進路選択には、ほとんど影響を及ぼしていない。様々な情報をどのように活用していくのかを、その使い方を含めて考えていく必要があるのではないだろうか。

 一方、大学側から見ると、大学のブランド力は学生募集の源泉に成り得るものである。各大学が、様々な活動(ファクト)を通じて発信している理念やメッセージは、しっかりと高校生に伝わっているのか。図2のように、大学のブランド力は、学生募集を好循環のサイクルを回す基盤となる強力な“財産”である。

 これまでの進学ブランド力調査の結果を分析してみると、大きく3つのことが分かってきた。

 まず1つは、景気等の社会環境の変化である。景気が悪くなると、学費の安い国公立のランキングが高まる。そして、資格取得が仕事に直結する学部や、不況時に就職に強いといわれる理工学系を持つ大学のランキングが上昇する。高校生は、家計の状況や就職状況に敏感だ。今回、関東で志願度トップに返り咲いた早稲田大学は、第3志望以下の志願度が上昇している。つまり、景気が良くなってくるなかで、ちょっと無理目の“憧れ校”も志願したいという高校生の思考の変化が感じられる。

 2つ目は、中長期で改革を進めている大学のランキングが上昇する傾向にあるということである。単発の改革ではなく、中長期的に改革を推進し、“ならではの価値”を継続的に向上させていることが重要なポイントとなっている。今回、関西で初めて志願度同率トップとなった近畿大学や、東海の名城大学は、キャンパスの整備、学部・学科の新設、グローバル化への対応等、継続的な改革を続けている。

 3つ目は、その改革や価値・個性が高校生に伝わっているかどうか、である。いくら改革をしていても、大学の中だけで伝わっていても意味がない。志願度ランキングは、「改革をした時ではなく、改革が高校生自身にどのような影響があるかが伝わった時に上昇する」ということが分かってきた。例えば近畿大学は、ここ数年、志願する高校生のフリーコメントを見ると、関東や関西の大手総合大学にありがちな、「MARCHや関関同立だから」といった受験産業がつけたグルーピングを支持するコメントは一つもなく、「マグロの研究がすごい」「英語村」「国際学部」といった具体的な内容や、「今一番勢いのある大学」「これから発展しそう」といったコメントが多くみられた。改革の推進と、それを高校生自身にどのように伝えていくのかという戦略も、ブランド力の向上に当たっては重要なポイントとなる。前述したように、偏差値という絶対的な基準が弱まってきたなかで、どのように各大学の個性=“ならではの価値”を伝えていくか。今後は、より良い大学づくりに向けて改革を推進する一方で、対象となる高校生への伝え方も大切になってくるであろう。

注) 学士の学位に付記する専攻分野名称の数。2014.7日本学術会議
「学士の学位に付記する専攻分野の名称の在り方について」より

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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