伝統と実績に裏打ちされた学部設置/東海学園大学

 東海学園大学は、大学開学は1995年と比較的新しいが、東海地区で志願者数を着実に伸ばしている大学である。約10年の間に、短期大学の廃止と並行しつつ、時代の要請に応じた新学部・新学科を相次いで設置してきた。女子の四大志向化の中で、短期大学を廃止し、四年制大学の新学部へと「リモデル」する方式は、学部新設の一つの典型的なやり方であるが、東海学園大学は短期大学の資源と伝統を活かしつつ非常にうまく転換を図った好例だ。この秘訣について、袖山榮眞学長と魚住哲彦事務局長にお話を伺った。

5学部 5学科体制へ

 図1には学部学科の変遷をまとめた。1995年に開学し、経営学部を設置した。2000年頃から、相次いで短期大学の学科を廃止し、それを四年制大学の学部・学科へと改組転換を図ってきた。この4月には新たに教育学部とスポーツ健康科学部を設置して、5学部5学科体制になった。結果的にはこの10年ほどでずいぶん大学のイメージが定着してきたようにみえる。大学開学時は入学定員200名の小規模大学としてスタートしたが、現在は約4000名の学生が在籍する規模にまで拡大をした。さらに近年では入試の志願者数はこの3年間で1.65倍に、オープンキャンパスの来場者数は1.8倍へと増加し(図2)、高校生からの支持を確実に集めている。今年のオープンキャンパスの第1回目を7月中旬に実施したが、昨年の同時期開催時と比較するとさらに15%ほど来場者数が伸びたという。

 18歳人口がピークの頃に設立され、私学の経営環境が厳しくなる中で、新設大学である東海学園大学がなぜ着実に学生数、志願者数を伸ばすことが可能だったのか。

図1 学部学科の変遷、図2 高まる高校生からの注目

成功の要因

  • 既存資源の活用──東海学園グループ、短大時代の蓄積
  •  一見、新たな学部学科を相次いで設置しているように見えるが、「大きなイメージチェンジやブランドを考えて、大学を設置、運営してきたという意識は全くない」と学長は言う。既存の資源や蓄積をもとに、教職員がこぞって知恵を出し合い、地道に次の手を打ってきた結果が現在の学部学科構成となってきた。例えば、最初の学部として経営学部を設置したが、これも既存の資源を活かした結果である。大学そのものは新しいが、学校法人東海学園としては120有余年の歴史を持ち、その中には、東海中学・東海高校という地元名古屋では男子進学校として有名な学校を有しており、その卒業生も地元の経済界などで一大勢力である。こうした「東海学園グループ」からの要望や三好という郊外の立地を意識して、男子学生を意識して、経営学部を最初の学部として設置した。

    図3 オープンキャンパスの告知

     また、管理栄養士や養護教諭など、人文学部や健康栄養学部は短期大学時代から地道にやってきたものを土台としている。既存の学科を学部にする形で改組しているので、教員や施設設備などもそのまま次の教育資源として投入できるが、引き継いだのはこうした目に見える資源だけでない。例えば、短期大学時代から養護教諭の養成で周知の実績があり、現場に多くの卒業生を送り出し、東海学園出身の養護教諭のネットワークも構築されている。こうした伝統や歴史をもとに発展させて、教育分野と健康分野の学部として展開を図っていることが、内容の充実、就職先の確保など多方面にわたりうまくいっている大きな要因ではないかという。

     こうした学部以外でも、地元の経営者にOBが多いという東海学園グループの強みを活用したきめ細やかなサポートで短大時代から「就職が確実」というイメージが定着していたが、当然のことながらこうした長所も引き継いでいる。学内の企業説明会では東海学園のOB・OGルートでたくさんの企業が集まり、そこから内定が出ている。

  • 学部の見える化
  •  同時に、学部名称を、教育、スポーツ、健康など、高校生にとって分かりやすくするなどの見え方にも工夫をしてきた。例えば、人文学部発達教育学科を教育学部に名称変更することで、より学部で学べることのイメージを明確に、分かりやすく伝えられる。

     また、2011年3月以降の募集広告から「2012年4月、東海学園大学が生まれ変わります。」を宣言し、従来の女子短大を彷彿させるパンフレットのイメージを一新し、グリーンの新キービジュアルを決め、大学案内や交通広告等においてイメージの統一も図り(図3)、5学部5学科になるので予算規模も含めて広報も増やしたという。

     こうした2つの要因によって、オープンキャンパスの動員数が伸びるなどのプラスの要因につながったのではないかという。

総力戦で学生の面倒を見る

 短大時代から学部学科の中身だけでなく、教職員の風土も引き継いだ点が東海学園大学の魅力につながっている。東海学園大学の学生は「伸びしろがある」と評価をされることが多いそうだ。その一例として、TOEICⓇの点数を在学中に300点台から855点に伸ばした学生、在学中に中小企業診断士の国家試験第一次試験に合格した学生の話などをしてもらった。教員採用試験の合格者も多く、そのための教職センターでのサポート体制を整備、あるいは全学生を対象としたキャリア・就職サポートの整備などのカリキュラム上の工夫ももちろん行っているが、それだけでなく、やりたいという学生に対して熱心にきめ細やかにサポートする先生が非常に多いことの好影響だという。大学1年生から全学生をゼミに所属させ、ゼミの教員は学生が休めば電話するなど、コミュニケーションを密にとっている。教員に対して特にそうした態度を強要したり、採用時に意識して面接でたずねたりしているわけでもないが、ほとんどの教員が学生の方を向いているし、そうあらねばならないという意識が学内の常識としてなんとなく共有されているそうだ。管理栄養士の合格率もほぼ100%だが、ゼミの先生だけでなく、他の先生もサポートするなど、教職員をあげてよくやってくれていると言う。また、学生と教員だけでなく、学生と事務職員の距離も近いのも同大学の特徴で、例えば日常の会話の中で事務職員が「先生へ気兼ねなく相談するように」といったアドバイスを学生にしているといったエピソードも出た。「短大の頃からの伝統」だと普通のことのように話してくれたが、このように学生と事務職員の密な関係を構築している大学は少ないのではないか。取材の中で、同席した事務職員の方々から「こういう学生さんがいた」という具体例が次々に飛び出すことにも驚かされた。

 また、学生参加型のプログラムも多く、目的意識がはっきりしている学生にもそうではない学生にもモチベーションの向上などの良い効果を上げている。例えば、三好キャンパスの学生有志による防犯パトロール、名古屋市と提携した高齢者向けの健康運動倶楽部の企画・運営などで、学生の関心も高く、抽選で参加者を決めているとのことだが、こうしたプログラムも大学側からの要請というよりも、様々な形で仕掛けてくれる教員と参加する学生集団が整備されているようだ。また、教職の区別なしに、こうした活動をやっているという。他大学の人から「教員と職員の仲が良い大学」と言われることが多く、これも「短大時代からの貴重な財産ではないか」と取材に同席した職員が口を揃えていっているのが印象的だった。毎年、FD・SD研修会も合同で開催し、特に強要しなくてもほとんどの教職員が参加しているという。

 学長は「短大の創設者が唱えた『愛と寛容』という浄土宗の思想を教職員には必ずどこかに出してもらいたい」と話しているが、「こうした思想が実際に色々な場面で面倒見の良さとして表れていることに最初は驚いた」という。熱心な教員が多いので新任の教員もそれを見て同じようにやってくれるし、例えば研究成果のノルマを課すなどをしない自由度の高い雰囲気がエゴ丸出しの教員を少なくさせているのではないかという。東海学園大学の建学の理念は「勤倹誠実(何事にも誠実に精一杯の力で取り組む姿勢を持つ人間教育)」と校是の「共ともいき生(周囲の人たちとお互いに啓発し合い、補い合って前進すること)」であるが、この理念を教職員に浸透させることを通じて、学生にそれを身につけさせるよう目指しているようにみえる。

大学運営の工夫

 上述のように、教職一体の大学運営が当然のものとして定着しているようで、他大学の経営者から見たら非常に羨ましい話にちがいない。元気の良い大学に訪問すると、学長と事務局長、それを支えるスタッフ間で自由に意見を言い合い、協力している印象を受けることが多いが、今回の事例もまさにそうした印象を抱いた。相次ぐ学部学科の新設も、社会情勢を見ながらこうしたメンバーを中心に構想を練って、決まれば学長のもと教職一体のチームを作り、みんなが強みを活かして動き、実現させてきた。そのため、意思決定やその執行のスピードはかなり早かったという。

 なぜ教職員が当事者意識を持って大学の運営に関わるのか。学校法人東海学園はいわば浄土宗が作った法人でオーナーがおらず、これが「自分たちで学園を作っていかないと」という良い形での当事者意識を芽生えさせているのではないかとのことであった。

 オーナーがいないということは、場合によっては教授会だけの意見に集約されがちで、大学としての意思統一ができなくなる恐れもある。そこで、合議制をとりつつ、学部の新設などの大学としての方針・意思をたてて運営していくための工夫もしている。例えば、人事計画の方針(分野など)については大学運営会議がたてて、具体的な人事は学部教授会が行うなど、役割分担を明確にするなどである。5学部体制になったこの4月からは、これまで明文化されていなかった各会議の役割を下記のように明確化して、意思決定と執行のあり方の再確認を行った。私立大学の運営においては、理事会と大学の対立、あるいは大学内でトップと教授会の対立などの難しい問題を抱える法人もあるが、東海学園の場合、いずれの問題もない。上記の会議の規則化についても学部教授会等から特に反対はでなかったという。

  • 大学運営会議
  • 企画立案、学内調整、執行機関。大学の理事に学部長らを加えた機関。原則として月1回の開催。

  • 大学評議会
  • 大学としての意思決定に係る審議機関。各学部から選出された委員と管理職がメンバー。原則として月1回の開催。

  • 学内理事会
  • 大学の理事(学長、副学長、事務局長、学監)を中心とする学園理事会への提言と調整を行う機関。

 相次ぐ学部学科の新設や規模の拡大をした際に、学内の意思決定・執行のルールを長らく見直してこなかったために、後々、大学全体としての意思を持ちづらくなってしまった例(例えば、学部長理事制を採用しており、理事の数が増えすぎて収拾がつかなくなった等)を聞くこともあるが、同大学では大学の規模や組織構造を変えるのに合わせて、同時に規則も変更し、学内で方針を再確認しており、この点も非常に参考になる。

大学運営の工夫

 今後の課題についても尋ねた。将来的には5000名規模の大学にできればと学部学科の新増設をしてきたが、キャンパスのキャパシティの問題もあり、現在は約4000名規模である。学部学科の新設は一段落したが、さらなる展開も構想しているという。キャンパス整備については、三好キャンパスは昨年、スポーツ実験実習棟や学生駐車場の整備などを行い、名古屋キャンパスは総合図書館とスポーツ施設についてそれぞれ3年計画のプロジェクトもスタートさせた。むしろこれからは拡大よりも、中身の点検や充実に力を入れていく予定だ。学生のための福利厚生や学習環境をさらに充実させて、学生が一日中いたくなるような大学を作っていく。これまで教職一体で取り組んできたが、今後はさらに学生も巻き込んで大学づくりを目指すという。学生にオープンキャンパスへの参加をはじめ、地域社会との連携プログラム実施への参画など、大学と地域の関わりをさらに増やし、教育効果も狙っていく。

 また、高校生については志願者数を伸ばしているが、東海学園大学について保護者や高校の先生、特に東海中学・東海高校の同窓会メンバーの認知度を高め、「東海学園グループ」の意識を高揚していくことが次のステップとして重要になっているという。短大卒業生の子どもが入学してくるケースを良き前例として、こういうケースの増えていくことも期待している。これまでに行っている雑誌への広告、クラブの先輩や兄弟姉妹を通じた評判、1年次から学生に教育実習等で将来世話になる母校へ挨拶に行くようにといった指導にくわえて、さらに積極的に情報発信し、認知度を高めていきたいという。学部学科を発展的に充実させ、魅力を十分にアピールしてさらに志願者を増やしていけるのか、今後の発展も楽しみだ。


(両角亜希子 東京大学大学院教育学研究科 講師)


【印刷用記事】
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