3カ月の経営職能型長期インターンシップ/甲南大学 経営学部

 甲南大学は1919年の学園創立以来、創立者である平生釟三郎による建学の理念「人物教育の率先」を基本にして教育活動に努めてきた。

 8つの学部(文学部・理工学部・経済学部・法学部・経営学部・知能情報学部・マネジメント創造学部・フロンティアサイエンス学部)、4つの大学院研究科(人文科学研究科、自然科学研究科、社会科学研究科、フロンティアサイエンス研究科)、2つの専門職大学院(法科大学院、会計大学院)で構成される総合大学として歴史を重ね、卒業生は8万人を超える。

 経営学部は1960年4月に設立され、経営学部としては関西の私学では最初の、全国でも4番目に開設された、伝統ある学部である。その伝統を活かし、社会で活躍する卒業生とのつながりも強いが、時代の先端を行く革新的な手法により、社会とのつながりをより一層推し進めている。

 その一例が、ビジネス・リーダー養成プログラムである。中でも、ビジネス・プロフェッション・コースでの経営職能型長期インターンシップは、多方面より大きな関心を集めている。その導入の背景、具体的な取り組み、成果や課題などについて、経営学部将来構想委員会委員長の内藤文雄教授、河野昭三学部長、長坂悦敬教授、平野欽一郎総務部部長にお話をうかがった。ほか、経営職能型長期インターンシップを実際に経験した学生からの話も紹介していく。

パッシブからアクティブ・ラーニングへの転換

 経営学の基本となる「経営学・会計学・商学」の3つのフィールドの理論をしっかり学び、企業経営に関するより深い理解を得られるようにカリキュラムを編成するなど、甲南大学経営学部では、経営学の専門教育にまずは重点をおいている。

 大学の学びは「講義」と「ゼミ」の2本柱だが、実学である経営学を教授しているにもかかわらず、企業の現場と大学の学びが必ずしも直結していないことに課題意識をもっていたという。この課題を解決するために、講義やゼミではできる限りケース研究を取り入れる工夫をするとともに、2006年度より、専門的知識を得たうえで企業の現場での経験を通じ、「経営の課題は何か、その課題に対してどう解決策を提案できるのか」を学生自らが創意工夫する新たな教育プログラムの検討を進めた。

 それが、ビジネス・リーダー養成プログラムである。大学での経営学教育をより実践に近い形で発展させ、「専門知識を得て、自発的な洞察力を有するビジネス・パーソンの育成」という教育目標を高次元で達成し、社会の期待に応えることを狙いとする。いわば、パッシブ・ラーニングからアクティブ・ラーニングへの転換の試みであり、2008年4月入学者から導入している。

意欲のある学生を選抜して育てる

 本プログラムの導入には、学生募集上の期待もあったという。甲南大学経営学部では学生募集に関わるアプローチを積極的に行ってきたが、今後の少子化時代に向け「国立大学や関関同立に対抗する価値」についても、常設の学部内部委員会の一つである将来構想委員会で議論を重ねていた。そこで浮かび上がってきたのが、甲南大学経営学部ならではの「特別な」プログラムの導入であった。

 本プログラム内に3つのコース(ビジネス・プロフェッション・コース(BPコース)、グローバル・ビジネス・コース(GBコース)、アカウンティング・プロフェッション・コース(APコース))を設け、学生が描く将来像に基づき、2年次より履修できるようにした(図表1参照)。コース制として1年次より割り付けるのではなく、甲南の伝統をふまえ、「自ら手を挙げたやる気のある学生に対して、意味のある特別のコース」とした点にその特徴がある。通常の「演習」を履修することも可能とし、それぞれのゼミにおいて、自らの「専門」を十分に研究しながら、さらなる学習として、学生は本プログラムに参加している。

 とはいえ、手を挙げた学生全てを無条件に受け入れているわけではない。BPコースでは、経営職能型長期インターンシップを取り入れ、ビジネスの現場で経営管理の「仕事」を学生に直接体験させている。頭の中に専門知識をつめこんでいるだけで、実際にそれを使いこなせないと意味がない。長期にわたってインターンシップをすることで、企業経営全般の専門知識を「現場」で使いこなすセンスを磨くことを目指している。

 そのためにも、「甲南大学経営学部の看板を背負ってビジネス現場に出向くにふさわしい」学生の選抜を数回にわたって行っている(図表2参照)。1年次の10月および12月に説明会を行い、1月にBPコース選抜試験(1年次の成績(総論2科目以上+語学5科目)と応募書類・面接内容による選考)を実施している。合格者には2年次に特別授業を行い、成績および筆記・面接試験に基づき、インターンシップ候補生として1月にさらに選抜していく。インターンシップ候補生には、インターンシップ参加の意思確認をしたうえで、インターンシップに関わる特別演習や授業の受講資格を与え、3年次前期には、インターンシップ生決定のための試験・選考を行い、インターンシップ先を決定する。

 こうした長期にわたるきめ細かなプロセスを経て、3年次の9~11月に、意欲と専門知識を兼ね備えた15名の学生を「甲南大学経営学部の代表として」企業に派遣している。

図表1 ビジネス・リーダー養成プログラム

3カ月の長期インターンシップ

 経営職能型長期インターンシップの実施には、大学側の労力もさることながら、企業側の協力が欠かせない。企業には、本社の管理部門を中心とした3カ月フルタイムのインターンシップの受け入れとともに、18単位の授業単位(卒業必要単位の約15%)の評価・付与も依頼している。

 インターンシップ終了後の3年次1月には、学生による研究成果報告会を実施しており、経営学部OBや甲南大学学内他部局関係者等とともに、企業の担当者にも参加していただき、講評をお願いしている(図表2参照)。

 現在では、アシックス商事(株)・加藤産業(株)・神戸信用金庫・(株)神戸ポートピアホテル・(株)シマブンコーポレーション・トーホーグループ・阪急阪神ホールディングス(株)・三ツ星ベルト(株)の8社と経営管理インターンシップの協定を締結しているが、協力企業の開拓は容易ではなかったという。当初、経営学部長、本プログラム担当教員(将来構想委員会委員長)、経営企画室長の3名で、阪神間に本社のある有力上場企業等に足を運んだが、「我々は何をすればいいのか」といった反応が続いたという。それでも、BPコースの趣旨やそこでのインターンシップの意義等を伝え続けていくことで、初年度から7社の協力を得ることができた。なかなかよい返事を得られなくとも、「1・2週間だけでは「お客さん」で終わってしまう」といった懸念も強くあり、「3カ月」という体験期間は譲らなかったという。

 協力企業との関係を継続し、強化するための工夫は、企業側との信頼関係につきるという。企業には少なくとも年3回程度訪問し、実施に関するお願いと情報交換を行っている(図表2参照)。インターンシップ期間に入る前には、インターンシップ・プログラムについての共有化と実施上の問題点を検討するために、企業側との会合をもっている。ほか、経営学部アドバイザリーボードにも参加していただき、経営学部の教育の取り組み全般に対する意見も得ている。また、インターンシップ期間中に行う担当教員への報告・相談会(毎週土曜日に実施)での指導結果については、企業の担当者にメールで報告し、そこで出た課題については、インターンシップ期間の終了を待たずに改善を図っている。

 手探りの状態からスタートした取り組みであるが、現在では企業側からも、「より若い学生と接することで、自社の若手社員の教育となっている」「社内の常識やルーティンを疑う素人目線が入ることで、有意義な提案や業務改善につながっている」「経営に関する専門知識が入ることにより刺激を受ける」といった高い評価を得ている。

図表2 2014年度ビジネス・プロフェッション・コース(BPコース)行事

学生に対するインターンシップの教育効果

 こうした取り組みは、当事者である学生に対していかなる影響を与えているのだろうか。

 第一に、就職活動への影響である。インターンシップ期間が就職活動の準備期間と重なっており、両者をうまく進めることに困難さを抱える学生もいる。しかし2014年4月下旬時点で、BPコースでインターンシップを経験した学生の2/3はすでに内々定を得ている。

 インターンシップを経験することにより、「社会に出て自分はどのようになっていくか」具体的なイメージを持つことが可能になり、就職活動への取り組みも積極的になっているようだ。インターンシップを実際に経験した学生達は、「企業で働くこと」のイメージが変化したと口を揃えて語る。「勤務時間の8時間も何をしているのだろうか」と思っていた学生は、インターンシップを経験することで、「8時間という限られた時間の中でいかにマネジメントするか、それがいかに大変か」を感じ取ることもできたという。

 長期間のインターンシップのため、総務、経理、営業、倉庫…と複数の部署で就業体験をしたことで、多方面から働き手の想いを感じ取ることができ、それが就職活動にも役立ったという学生もいた。

 第二に、大学での「学び」に対する影響である。普段の授業の中で、教員から示される経営上の課題も、学生は就業経験がないだけにその必要性を実感することが難しい。インターンシップ先での経験から、課題を想定しやすくなり、インターンシップ終了後の授業におけるモチベーションを維持することができるようになった学生も多いという。

 事前にインターンシップ候補先企業およびその業界研究を実施したうえで、実際に企業でインターンシップを実施し、机上の検討との差異を体験することで、企業風土や現場の重要性を学ぶこともできる。授業で学ぶ財務分析が、実際の企業でどのように使われているかを実感したという学生もいた。

 また、インターンシップでは、業務には定型業務だけではなく、業務そのものを改善や改革することがあるということが分かったという学生もいた。課題抽出から課題の分析、解決方法を考えて提案し、企業メンバーの前でプレゼンテーションを行うという経験は、大学での学びにも大きな変化を与えているという。

 第三に、学生自身の「人間的成長」に与える影響である。通常の学生の場合、同年代とのつきあいが多いため、自分の考えをさほど自覚せずに過ごしていることが多い。しかし、インターンシップでは、世代の異なる社員とのコミュニケーションを求められることにより、教員の立場からみても一歩成長したように感じられる学生も多いという。社会人としての責任感や人間関係を学び、人に配慮し思いやることができるようになった学生もみられるようだ。

 また生活上の規律という点でも成長がみられる。社員と同じリズムでの生活を経験することで、チーム作業での個人の責任の重要さ、時間の大切さを実感し、インターンシップ後のゼミや授業での態度に変化がみられた学生もいたという。

 インターンシップ先は、原則、各企業男女1名ずつの受け入れとなっているため、学生の希望通りになるとは限らない。希望する企業に行けない場合、学生のモチベーションが下がってしまうこともあるが、ビジネス・プロフェッション運営委員会にはこうした事例も蓄積されており、「どの企業でも経験できることに差はない。与えられた課題に十分に対応できるかどうかである」と自信を持って指導している。自身の希望とは異なっても、それに対応できる心構えを習得することは、学生にとっての「成長」に他ならないだろう。

受け入れ先企業拡大が今後の課題

 筆者自身もインターンシップ科目を担当しているので痛感しているが、こうした取り組みは非常に骨の折れるものである。「インターンシップ」としての形を整えるだけでも労力を必要とするが、それを「学生のためになるように」行うためには、さらなる労力と工夫が求められる。

 今回取材をした学生はみな、「後輩にも勧めたい」と語っていたが、「このプログラムがあるから、国公立大学ではなく甲南大学への入学を決めた」という声も最近では聞かれるようだ。たとえ入学時には不本意入学であったとしても、数々の「選抜」をクリアすることで自己肯定感を高め、また、インターンシップによる発見や経験を重ねていくことにより、学生自身が大きく成長し、十分納得のできる就職先にすすむ者も少なくないという。

 甲南大学経営学部では、教職員が抱く課題をもとに、今後も、ボトムアップでインターンシップを推進していくという。具体的には、「BPコースでのインターンシップならではの長所を維持・継続すること」「受け入れ先企業をさらに開拓し、在学生の10%程度の参加を実現すること」「BPコース修了者の経営大学院での学びの接続」といった点が、今後の方向性として挙げられている。「ヒトを動かすのはヒト」と改めて感じさせられた本取り組みのさらなる発展を大いに期待したい。


(望月由起 お茶の水女子大学 学生・キャリア支援センター 准教授)


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