入試は受験生へのメッセージ/国際基督教大学(ICU)

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図表1 総合教養「ATLAS」3つの指標

一般入試にATLAS導入

 国際基督教大学(ICU)は、2015年の一般入試においてATLASという新たな方式を導入した。これはAptitudeTest for Liberal ArtSの略であり「総合教養」と呼称される。もともとICUでは長らく「一般学習能力考査」や「リベラルアーツ適性」という適性試験を課してきたが、それに代わるものとして開発・導入された。

 高校の個別教科に囚われない学際的な問題を、持てる知識を総合し解くという点は、「リベラルアーツ適性」と共通しているが、新たな点は、まずあるトピックについての講義を「聴く」ことにある。その後に関連する設問を解く。図表1にみるように、「学際性」「洞察力」の測定に加えて、「聴く」という要素を導入して「判断力」を測定することに、ATLASの狙いはある。

ATLAS問題の総合性

図表2 「ATLAS」サンプル問題抜粋

 では、このATLASの問題を具体的にみていこう。ATLASの試験時間は約80分であり、80点が配点されている。まず15分程度、何も見ずにあるトピックについての講義を傾聴する。その間にメモをとることは許されている。その後の残り時間65分程度で、講義に関する多肢選択のマークセンス方式の設問40〜45問に解答する。この設問は学際・人文科学・社会科学・自然科学の4つのパートから構成されており、人文科学・社会科学・自然科学については、それぞれの観点からの論述があり、それに関する設問に解答する仕組みとなっている。

 ICUのWebにはサンプル問題がいくつか掲載されており、そこからの抜粋を図表2としてまとめよう(http://www.icu.ac.jp/admissions/april/general/atlas.html)。

 図表2の上部の文章は、講義の出だしを書き起こしたものであり、このような語り口が15分間続く。下部の設問のうちPart Iは学際に関する設問であり、設問1ではケープとケープタウンとの関係は、マッサリアとa~dのどれの関係と同じかを選択する。Part IIは人文科学の設問であり、論述を読んで4択の設問群に解答していく。例えば設問12にあるヘシオドスの名は、世界史の教科書に出ていたかもしれないが、『仕事と日』の内容まで知っている高校生はまずいないだろう。Part IVは自然科学の設問であり、設問31では文中の( )に該当する語句の組み合せを選択する。ブドウが被子植物か裸子植物か、生物の教科書にそこまでは掲載されていないだろう。

 このように高校の教科書を暗記しただけでは太刀打ちできない問題であることは明白であり、これまでの学習を総合して類推を重ね考えて解答を導くという、高度な思考作業が求められる。まさに人文科学・社会科学・自然科学から構成されているリベラルアーツを測定する試験なのである。

「聴く」+「考える」力の重要性

伊東辰彦教養学部長

 今回の改革において、なぜ「聴く」という要素を導入したのだろう。ATLAS導入を担ってこられた伊東辰彦教養学部長は、次のように説明される。

 「もともとICUの入試は、大学入学以前に獲得した各種の知識を組み合せ、考え、判断する力をみる入試でした。その『リベラルアーツ適性』も長くやっていると次第にパターン化するところが出てきました。加えて、近年の大学生の学習行動をみるに、『聴く力』の重要性を思うに至りました。というのは、書かれたものは繰り返し読むことができますが、授業の音声は1回限りで消えてしまいます。その授業から、集中して重要な情報を聞き分ける、あるいは、聞き漏らさずすくいとる、そうした力は社会で生きていくうえで不可欠です。そのように考えてこのATLASを導入したのです」。

 入学者の学力は、通常、問題文を「読む」+解答を「書く」という技能でもって測定されている。そこに「聴く」という要素を加味し、学習に必要な力をこれまで以上に総合的に判断しようとしたのが、ATLASなのだ。伊東学部長は「できればここに『話す』力も加えたいところです。そうすることで、学習に必要な4つの技能を総合的にみることができます。しかし、今のところ物理的な限界があって面接は実施することができず残念です」と話される。

高校の教科書を超える入試

 ICUの一般入試が高校の教科書の記述に対応するものでないことは、ATLASに限ったことではない。一般入試のA・B方式にATLASが含まれるが、A方式ではそれ以外に「人文・社会科学」「自然科学」のどちらかを選択する試験と「英語」の試験がある。2014年度までは、「人文科学」を全員が受験し、「社会科学」「自然科学」はいずれかを選択する方式であったが、人文科学と社会科学とを統一し、自然科学との選択制になった。80分で80点が配点されている。英語は約90分で90点が配点されているが、リスニングが30分、リーディングが60分となっており、リスニングの比重が高いことが注目される。

 高校の教科書を超えている例として「人文・社会科学」をみると、「文学・哲学・芸術・宗教・政治・経済・歴史・社会等の分野」から出題されるとある。まるで大学で開講されている科目が列挙されているようである。「英語」では、「通常の日本の大学入試に多く見られる英文和訳・和文英訳のような問題とは異なり、英語でものを考え、理解し、分析する能力を図ることを目的とします」と明記されている。

 これについて伊東学部長は、「細かな知識に縛られることなく、知らない問いに対しても、持てる知識・経験を自分で総合して自分で解答を見いだす。ICUの入試はこの考え方にもとづき設計されています。こうした知的活動は実社会において求められる能力であり、今後の大学教育において一層求められる役割だと考えています」と話される。

 ICUの募集人員620名のうち、このA方式の募集人員は290名である。それ以外の主な入試と募集人員は、一般入試B方式10名(一次にATLASと英語外部試験、二次に面接)、指定校推薦180名、AO入試約40名、9月入学書類選考が90名である。多様な方式を採用しつつも、A方式に比重が置かれているのが分かる。

 では、ATLAS導入の結果をどのように評価するか。「それはまだ何とも言えません。4年間のICUの教育の成果として、このA方式の効用を考える必要があり、これからデータの蓄積をせねばなりません」と、伊東学部長が話されるのはもっともである。入試と教育とは切り離されるものではないのだ。

コアファン獲得に成功した志願者の動向

図表3 志願者数及び志願倍率の推移

 ATLASの導入は、志願者の増加という点では確実な効果をもたらしたようだ。図表3にみるように、一般入試とセンター入試を合わせた募集人員に対して8~9倍を維持していた志願倍率は、2014年の大学入試センター試験の利用停止によって大きく低下したが、ATLASを導入した2015年入試では再び6倍を超えている。

 ただ、2013年までの志願倍率が9倍前後であったことをみると、回復とは言えないようにもみえる。しかし、ここにはいくつかの数字のからくりがあることを指摘せねばならない。というのは、一般入試の志願倍率は2014年こそやや低下しているものの、それ以外の年度では6倍を超え、志願者数は2015年が最も多いからである。また、大学入試センター試験利用枠の40名を一般入試に移行したことも、一般入試の志願倍率をやや低下させる結果となった。加えて大学入試センター試験の志願倍率は20倍程度あったため、全体の志願倍率を9倍前後に押し上げていたのである。

 2015年の志願者の増分は、これまでの大学入試センター試験による志願層とは異なる、ICUのアドミッションポリシーに納得した入学希望層とみることができる。なぜなら、大学入試センター試験利用者は国立大学志望者であり、国立大学に合格すればそこへ進学する者が大半だからである。大学入試センター試験を利用停止して国立大学との併願者が減少したが、その後、ATLASが導入されて増加した志願者とは、ICUの教育を求めている者とみることができる。この解釈の適否は、今後の志願者の動向が教えてくれよう。

 ATLAS導入の成否は、それによって入学した学生のアウトカムにおいても、志願者の動向においても、今後に委ねられている。

アドミッションポリシーを体現する入学者選抜

 今や、どの大学もアドミッションポリシー・カリキュラムポリシー・ディプロマポリシーを定めている。しかしながら、それら3つのポリシーが相互に連関して大学教育を貫通しているかどうかは、何とも言い難いところがある。その原因の1つは、どのような資質を持った学生が欲しいのか、そのためにはどのような入学者選抜を実施すればよいか、その両者の関係が突き詰められていないことにあるように思う。

 ICUの場合、アドミッションポリシーとして「文系・理系に囚われない広い領域への知的好奇心と想像力」、「的確な判断力と論理的で批判的な思考力」、「多様な文化との対話ができるグローバルなコミュニケーション能力」、「主体的に問題を発見し、果敢に問題を解決してゆく強靭な精神力と実行力」を掲げている。このポリシーそのものは格別に珍しいものではない。しかしATLASをはじめとする入試の方法を検討すると、アドミッションポリシーがそこに体現されていることがわかる。また、こうした選抜方式により、ICUが目指す教育に適性がある入学者を採れてきたというこれまでの経験が、このポリシーに表れているように思えてならない。

 アドミッションポリシーと入学者選抜方式との明確な関連があるからこそ、2014年には大学入試センター試験の利用停止に至ったのかもしれない。背後には、大学入試センター試験はICUにとってデメリットのほうが大きいという判断があった。そのデメリットとは、1つには、当初想定していた地方からの志願者が増加しなかったことがある。もう1つには、ICUの卒論の提出2月1日の半月ほど前にセンター入試が実施され、そのための学内入構禁止や図書館利用の停止という措置が、追い込みの時期にある卒論生に不利益をもたらすことである。さらには、センター入試への対応が、教職員にとって負担になっていることも指摘できる。

 これらのデメリットは、大学入試センター試験の利用によって志願者を獲得できるというメリットよりも大きいということであり、さらに言えば大学入試センター試験でなくても適性のある入学者が採れるということであろう。入学者に求める資質の明確さ、それを具現するための入学者選抜方式があってこそ、こうした選択がなされるのであろう。

入学者選抜は大学教育の一部

 伊東学部長は面白いことを言われる。「受験生が、面白かった、役に立つことを学んだ、と言ってくれるような入試にしたい」。

 多くの受験生にとってみれば、合格か不合格かの岐路にある入試が「面白い」「役に立つ」等と思うような余裕はほぼない。だが、ATLASでは、ワインのトピックの問題からも分かるように、講義で聴いた情報と自分の持てる知識との相互作用によって解答を選択していく、その思考力が試されている。こうした知的な思考回路をまわすことを「面白い」と思う受験生に入学してほしいという意味と考えれば、入試を面白くしたいと表現されることは理解できる。

 続けて伊東学部長は、「入試は教育の一部にすべきと考えています」とも言われる。確かに、その大学の教育への適性を見極めるのが入試ならば、選抜した学生に対しては適切な教育がなされなければならない。

 その観点から、ICUでは一般教育を重視し、4年間かけて学習することを推奨している。この一般教育とは、既に日本の大学ではほとんど死語となっている、専攻の専門科目(Major)に対する一般教育(General Education)を意味する。これを専門の導入や基礎とはせずに、分野横断的に構成された内容とし、学生の視野を広げて思考力を高めるものと位置付けている。そして、全教員が一般教育を担当する。シラバスとは別に、その科目において学生に何を学んでほしいかをまとめた『一般教育ハンドブック』からは、知的好奇心を持って入学した学生がさらに好奇心を高められるようにという、教員からのメッセージが伝わってくる。入試と教育とはこのようにして接合しているのである。

 入試も教育の一部とすると、入試とはその大学がどのような大学か、どのような教育を行うのか、学生をどのように成長させるのかを端的に語っているものであり、受験生に対する大学からの最大のメッセージということができる。その大学からのメッセージに賛同し受け止めることができた者が、合格の切符を手にする。ICUの入試には、そのような仕掛けが組み込まれているように思う。

(吉田 文 早稲田大学教授)



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