Vol.67 和菓子屋女将六代目/榊 萌美
【Profile】さかき・もえみ●1995年、埼玉県生まれ。東京成徳大学深谷高校、明星大学教育学部教科専門国語コース中退後、アパレル会社勤務を経て2016年、20歳の時に実家の和菓子店「五穀祭菓 をかの」入社。1年目からヒット商品「葛きゃんでぃ」を開発。2019年、副社長に就任。2021年12月には個人ブランド「萌え木」を設立。六代目女将として奮闘中。
私の実家は埼玉県桶川市で135年続く和菓子屋「をかの」で、現在、その六代目女将として働いています。商品開発、営業、広報、ネット販売、経営周りなど、お菓子作り以外はすべて関わっています。
でも、高校生のころは家業を継ぐ気なんてまったくなかったんですよ。いわゆる見た目が派手なギャルで、毎日遊び呆けていました。将来はぼんやりと人の役に立つ仕事がしたいと考えていました。小さいころから劣等生だったからこそ、自分がしたことで他人が喜んでくれるのがすごく嬉しかったからです。高校卒業後は国語教師を目指して教育学部に入学しました。でも教育実習で教師は向いていないと思ってしまい、アルバイト三昧の生活に。周りの友達と比べて前進できていない自分にモヤモヤしていました。
そんな大学2年の春、店の経営を担っていた母が病気で入院しました。このときも継ごうとは思わなかったですね。こんなポンコツな私がお店の経営なんかできるわけない、誰かが何とかするだろうと思っていました。
|偶然の出会いで人生が激変
そんなとき、たまたま会った小学校の同級生のお母さんに「小学校の卒業式のとき、お店を継ぐって言ってたけど継がないの?」と聞かれました。その記憶がまったくなかったのですぐ家に帰って、卒業式を録画したビデオテープを探して見てみたら、本当にまっすぐ前を見て「私がお店を継ぎます!」って胸を張って言っていたんです。今のダラダラした不甲斐ない自分よりも、そのころの自分の方がかっこよく見えました。同時に、幼いころから商店街の人たちにかわいがってもらったことや、その人たちが大好きだったから私はお店を継ぎたいと言っていたんだということを思い出し、実家を継ごうと、大学を中退しました。その後、20歳のときに「をかの」に入りました。接客や配達から始めて仕事を一通りおぼえた4年目、コロナ禍となり、ただでさえ厳しかった店舗の売上げがさらに激減。そんなとき、テレビ番組で、自社商品の葛きゃんでぃが紹介されました。すると、放送中から注文の電話とメールが殺到。まったく生産が追いつかず、発送ミスも多発し、お客様からは毎日クレームの電話が。そのため、20年以上働いてくれていた和菓子職人を含めて3人の従業員が辞職。残った従業員も、毎日暗い顔をして作業していました。
また、SNSで「どうせこいつの代で潰れる」といった誹謗中傷もたくさん受けました。さらに、父の親友から「バカなお前のせいでお父さんもこんなに疲れてる。これでお父さんが死んで葬式でお前が泣いてたらお前が殺したと言ってやる」ってすごい責められて。人の役に立ちたいと思って働いていたはずなのに、逆に私のせいで多くの人が苦しんでいる。そんな状況に絶望し、毎日泣きながら仕事をしていました。
でもどん底まで落ちた私を救ってくれたのも「人」でした。葛を仕入れている問屋さんや他の和菓子店の経営者から、「葛きゃんでぃがテレビで紹介されたおかげで商品が売れて助かりました。ありがとう」と感謝されたんです。この言葉で私がやったことで喜ぶ人もいたんだと実感。従業員のみんなも幸せにすると覚悟を決め、本気で経営に取り組もうと新商品の開発や経営改革などを実施したことで、お店は黒字化し、健全経営になったのです。
|常に自分の心の声を聞いてほしい
高校生の皆さんに伝えたいのは、自分は何に幸せを感じるのか、常に自分と対話してほしいということです。幸せの形は人それぞれだから人と違っても全然いい。私は人の役に立てているという実感を得られているので、今が一番幸せです。人のために動くことで自分も幸せを感じるから、結局自分のためでもあるんですよね。最初は好きでやり始めたことでも、やっていくうちに、周りの意見に左右されて本来の目的を見失うことがあります。そんなときには自分の心の声に真摯に耳を傾けて、自分が一番幸せだなと思うことを考えてみてください。|Change in myself
子どものころから勉強も運動もできなくて、しかも気が弱かった。
いじめられないために見た目を派手に。つまり、ギャルの格好は自分なりの武装だった。
大ヒットとなった、くず粉を混ぜた棒アイス型の「葛きゃんでぃ」。
子どものころ、ゼリーを凍らせて食べるのが好きだったことから、葛ゼリーをアイスにした。
2021年12月に個人ブランド「萌え木」を設立。
新商品第1号のおしゃれでおいしいひと口羊羹「YOKAN-予感-」は
若い世代を中心に好評を博している。
(取材・文/山下久猛 撮影/竹内弘真)
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「希望の道標」Vol.67 和菓子屋女将六代目/榊 萌美