学びのみちしるべ【第17回】/食マネジメント学

大学での学びの中身と、その学問が社会でどう役立つのかを大学の先生が解説。
進路選択のみちしるべとなるよう、高校での学びがその学問にどうつながるのかもお聞きしました。

立命館大学 食マネジメント学部 田中浩子教授


 この学問の内容、面白さは? 

「食」というものを知識として体系的に学び、
広い視点でとらえ社会へ貢献するための学問

 これまで「食」というと栄養学、農学からのアプローチが多かったのですが、それだけでは解決できない課題が数多くあります。そこで、「食」を科学やビジネス、社会とのつながりから多面的にとらえ、総合的に学ぶのが食マネジメント学です。
 私の専門は食品流通、マーケティングです。食品スーパー、コンビニエンスストア、外食・中食産業を研究フィールドとして、「経営」と「栄養」という2方向から「食」に関わるさまざまな課題を解決するための研究を進めています。
 今、日本の人口減少は著しく、過疎化によって食品スーパーが撤退してしまう地域も多く、そこで暮らす人々の食生活に大きな影響を与えています。かといって新しいスーパーができたら良いわけではありません。その土地の人々のライフスタイルに合った食品の購入方法、買い物に行く交通手段を考えてまちづくりを推進する必要があります。また、労働力不足に対応するため、省人化が進められています。
 その成功例のひとつが回転寿司と言えるでしょう。新型コロナウイルス感染拡大前のデータになってしまいますが、高級寿司、持ち帰り寿司、宅配寿司の市場規模は縮小していましたが、回転寿司だけは年々増加していました。
 ただ、スーパーのセルフレジや無人コンビニなども確かに増えつつありますが、一方で生産者と消費者がつながるマルシェや軽トラ市が開催されるなど、人間味あふれるサービスも支持されています。どんなに省人化が進んでも、私たちには人間味の感じられるカジュアルコミュニケーションも必要だというわけです。
「食」は体の健康維持のためのものでもありますが、人間の心を潤すためのものだと私は思います。栄養学だけでは解決できない課題の数々を経済流通、食文化などの側面から日々研究し、最終的には食生活・健康を主軸とした総合的なまちづくりをしたいと考えています。


 社会でどのように役立つ? 

幅広い視点や物事を多面的にとらえる力が
社会課題の解決に役立つ

 誰もが健康になりたいと願っていますが、実際には生活習慣病は増えています。「栄養バランスの良い食事を食べなさい」と言われても、個人レベルでそれを実行するのはなかなか難しいものです。そこである会社の社員食堂で「定食のサラダは1回盛り放題」という “仕掛け”をしたところ、サラダバーの購入量が、グラム売りに比べて約1.5倍も増えました。品揃えや出し方にひと工夫を加えることで人の行動を変えることができたわけです。このように限られたやり方、限られた情報のなかで判断するとこぼれ落ちてしまう課題がたくさんあります。それらを解決するために必要な新たな視点、新たな発想での“仕掛け”力を、食マネジメント学での学びを通して身につけることができます。また、食マネジメント学で培った幅広い視点や物事を多面的にとらえる力は食の分野だけでなく、ありとあらゆる社会課題の解決にも役立ちます。


 高校の科目とのつながりは? 

高校で学んだこと、経験したことすべてがつながる。
「たられば」を避けて何でも経験しておこう。

 「人生にいらないピースはひとつもない」が私の持論です。高校で学んだこと、経験したこ とがすべてつながっていきます。ですから何でも経験しておいてください。「あの時、やっていたら」「やっておけば」という「たられば」が一番良くありません。ダメならダメでいいので、やりたいと思ったことはやって、答えを出すことを心がけてください。
 逆から物事を考えるのもおすすめです。「病気になってもなぜ薬を飲むと治るんだろう」とか、疑問をもつとおのずと学びたくなると思いますよ。それと、食マネジメント学を学ぶなら、食べることが好きなことも必要条件ですね。


 オススメBOOK 

RANGE

『RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる』
(デイビッド・エプスタイン著・日経BP社)。

超専門家になるよりも、知識の幅の広いことが食マネジメント学には大切。


(取材・文/いのうえりえ)



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学びのみちしるべ【第17回】食マネジメント学

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