(家庭)知識や価値観を教師が教えるのではなく、体験やグループワークから生徒が学びとる

松戸高校(千葉・市立)
石川 瑛子 先生

教員歴8年。顧問を務める家庭科部は、地域のプロフェッショナルに料理技術を学んだり、公共施設で作品を発表するなど校外でも活発に活動。キャリア教育と学びを考える会「松ラボ」代表。

意思決定力を鍛え、自分らしい生活スタイルを創造してほしい。

<どんな授業なのか>

身近な教材から社会を考え行動や意思決定の力を育む

左が家事分担について、右が理想の結婚年齢・第一子誕生年齢・子どもの人数についてのワークシート。

旬の食材をテーマにした授業。グループワークでは「なぜ旬の野菜を食べたいと思うのか」について話し合い、「美味しいから」「新鮮だから」などの意見を出した。

県の名産の野菜・果物が地図で見られるJAの資料や、県内の主産地が入った野菜の旬の時期カレンダーを使用。身近にある旬の野菜について考えた。

 石川瑛子先生が家庭科の授業で目指していることの一つは、周りの人や社会の誰かのために行動する意識・態度を育むことだ。

「例えば、調理実習をして『美味しかった』と自己満足するだけでなく、学んだ知識や技術を家族や仲間のために生かそうとしてほしい。それが、ひいては困っている人や社会の課題のための行動につながればと考えています」(石川先生・以下同)

 家庭科では男女共同参画や高齢化など社会的なテーマも扱うが、生徒にとってはやや遠い話になりがちだ。そこで石川先生は、リアリティがもてる身近な話題や教材から授業を展開するよう工夫している。

 例えば旬の食材をテーマにした授業は、地球環境に配慮した食材選びにつなげたいが、いきなり食糧自給率のような数値から入っても生徒は自分自身の問題として考えにくい。そこで、まずは近隣のJAで入手した資料を用い、今が旬の千葉県産の野菜・果物について確認。そんな旬の野菜を積極的に食べたいと思う理由についてグループワークを行う。あがってきた「美味しいから」「安いから」などの意見に対し、その背景に輸送コストや環境負荷があることに気付かせる。

「美味しいものを選ぶことが環境負荷を低減し地域の振興にもなると知ることで、肩肘張らずに地元の旬のものを買う行動につながるのではないでしょうか」

 もう一つ石川先生が目指すのは、意思決定の力を鍛えることだ。

「教科書に載っているのは、平均的な生活です。でも実際は食事ひとつとっても、手作りにこだわる人もいれば、忙しさのなかで効率を優先する人もいて、人それぞれ。そうした多様な価値観があるなか、教師が『こうあるべき』とひとつの価値観を教えるのではなく、生徒自身が自分はどう考え何を選ぶか意思決定することで、自分なりの生活スタイルを創造していってほしいのです」

 そのため、授業では統計情報で社会的な平均を伝える他、グループワークを取り入れて様々な価値観に触れさせている。例えば、結婚と出産をテーマにした授業では、まずプリントを使って自分の希望する結婚年齢と第一子誕生時の年齢を挙げさせる。それを班で共有し、合計特殊出生率の統計や新聞記事も参照しながら、早婚と晩婚それぞれのメリット・デメリットについても話し合う。

「自分と隣の生徒の違いや、クラスの平均と社会の平均の差など様々な発見があり、授業は盛り上がります。そこから、自分は他の人と違っても良いということを印象づけられたらと思います」

<生徒はどう変わったか>

グループワークで高まる授業テーマへの関心

 昨年度、石川先生は家庭科の授業に対する生徒アンケートを実施した。印象に残っている授業の上位にあがったのは実習系の授業だったが、その次は「出生率のシミュレーション」や「ちばの旬について」などグループワークを組み込んだものだった。また、人の意見を聞くことについては、過半数が「好き」と回答。

その理由は「新しい考えを得られる」「たくさん学ぶことができる」などだ。グループワークで人の意見を聞くことで、授業テーマに対する関心が高まり思考が深まったことが推測される。

 卒業生に石川先生の授業について振り返ってもらっても、やはりグループワークの話し合いが多く話題にのぼった(左コラム)。大学や就職先では高校生の時よりも自分で意思決定し行動することが求められるなか、ある卒業生は「高校時代に言われた意思決定の力の大切さを今ようやく実感できている」と語った。これから先の人生で、家庭科の学びが発揮される機会はさらに増えそうだ。

<今後行いたい授業>

地域の人を授業に招きより多様な価値観を伝えたい

 石川先生が実践する授業は、生徒が身近に感じられるリアリティと、多様な価値観との出合いがポイントだ。その効果的な授業を行うには、「教員一人の経験で十分とはいえない」と石川先生。今後は地域の人に参加してもらう授業も計画している。

 例えば、高齢者疑似体験実習の後、生徒は歳をとることにネガティブな雰囲気になりがちだ。そこで、80歳を目前にしホノルルマラソンに出場した県内在住の知人を招き、その姿や前向きな話から高齢者の明るい面も伝えていきたいという。

「外部の方の力も借りて、少しでもこれからの人生に希望がもてるような授業を行っていきたいですね」

(取材・文/藤崎雅子)