(国語)「自分」と「他者」の違いを考察する授業でものの見方・考え方を鍛えていく

若狭高校(福井・県立)
渡邉 久暢(ひさのぶ) 先生

教員歴25年。母校である若狭高校に初任で着任。藤島高校、福井県の指導主事などを経て2015年から再び若狭高校に。授業実践を通した研究で多数の論文を執筆。全国から見学が後を絶たない。

「読み・書き・話し・聞く(訊く)」を通して、「自立した学習者」になってほしい

<どんな授業なのか>

先生が存在感を消し、生徒が思考を続ける授業

朝の廊下での宿題提出。「ノートを持ってくる生徒の表情で、どれくらい書けているかだいたいわかる」と渡邉先生は語る。

毎年の最初の授業で配布する、授業の年間目標。「なぜ国語を学ぶのか」「どんな力をつけたいのか」という問いとともに、「ノートに『たくさん』メモを取る。『質より量』」と記されている。

 アクティブ・ラーニング=グループワークによる学び合いと思われがちの中、「静かなるアクティブ・ラーニング」を実践しているのが若狭高校の渡邉久暢先生だ。

 先生の授業を受ける生徒たちは、毎朝登校時に、廊下で待ち受ける渡邉先生に前回の授業で出された課題への理解を記したノートを持ってくる。何人かの生徒は、その際声をかけられる。

 渡邉先生は現在3学年の4クラスで、118人の生徒の授業を担当している。現代文と古典を合わせると、どのクラスもほぼ毎日授業があるため、100人前後のノートを毎朝見ていることになる。

 そして、このノートが学びの肝となっている。渡邉先生は、生徒が書き留めるための板書は一切しない。ノートは授業中の課題に対する理解を書くためだけではなく、自分が思ったこと、授業中に仲間の意見で気付いたことなど、生徒自身の思考の変遷を自由に書くメモ帳と位置づけられている。そのノートを毎日確認することで、先生は生徒の頭の中を覗き込み、心の機微を把握し、その日の授業の展開を臨機応変に変えていく。生徒たちが「今」足りないもの、培うべきものに合わせた授業をするためだ。それができるほどの教材を準備している、教材研究力に驚かされる。

 この日は海洋科学科と国際探究科の現代文の授業を見学。クラスによって題材に使用した教材(小説)は異なっていたが、授業の進行は同様で、登場人物の設定や、語り手の心情をつかむ内容だ。その授業の様子は今まで見たことがないものだった。ひとりで課題に向かうときも、仲間と意見をシェアするときも、とにかく生徒たちは猛烈に脳味噌を使っていて、先生はその思考の邪魔をしないよう気配を消している。生徒が自ら学ぼうとして、生徒自身のペースで進んでいる授業だった。

国語という教科学習を通じて、生きて働く高次な学力を培う

 授業デザインについて先生に聞いた。「学習活動を通じて、自身のもつ知識や技能を意図的に使いこなす高い能力=『生きて働く高次の学力』を育てたいと考えています。私の目的は、生涯にわたって学びを続ける『自立した学習者』を育てることです。国語で育む力は『話す』『聞く(訊く)』『書く』『読む』の4(5)技能と定義されている。だから『自立した話し手・聞き(訊き)手・書き手・読み手になろう』と、毎年最初の授業で年間目標を示しています(図1)。その目標を示せば、生徒たちはやるべきことを理解します」

 社会に出れば様々な人々との関わりの中で生きていかなければならない。どんな人と協働しても、相手や場に応じて言葉を選び、自分の考えを伝えることが求められてくる。そこにひとつの正解はない。

 渡邉先生は課題を解かせる際にはペアワークやグループワークをはさんだり、生徒たちのノートのコピーを配布して、自分とは異なる意見に触れさせている。生徒が自ら他者(仲間や文章の作者)との考えの違いに気付き、「なぜ違うのか?」と考えることで、自分の思考を深めるサイクルを繰り返し、問いを深めていくおもしろさに気付いていく。すると新しい文章に出会ったときに、深く読み進めるようになっている。また、他者との違いの比較で、自分と向き合い自分の思考パターンにも気付く。文章を通した他者との対話を繰り返すうちに、生徒たちは自分の思考パターンが揺らいだり変化したりすることもある。文章を読み込み、表現し合う活動が、生徒自身のものの見方・考え方を鍛えていくことにもつながっているように思える。

<生徒はどう変わったか>

文章を読む意義を知り読解を楽しむ生徒たち

 生徒たちに授業の感想を聞いてみた。「読書は嫌いだけど、この授業は意見を考えて、自分の言葉で伝える力がついておもしろい」(海洋科学科・男子生徒)「普通の授業で先生の反応をもらえるのは発表した人だけ。渡邉先生は毎日ノートで一人ひとりに意見を言ったり添削してくれるのがいい。読解力も表現力もついて、1学期だけで模試の点がすごく上がった」(国際探究科・女子生徒)「登場人物や作者の心情を深く考えるから、小説だけでなく、評論や新書など、どんな文章でも読むのがおもしろくなった。登場人物や作者と自分の違いを見比べることで、自分のことや、『世の中こうなってるんだ』とわかるようになってきた」(国際探究科・男子生徒)

 過去に先生の授業を一年間通して受けた生徒が書いた小論文を見ても、読解力の深さや、小説を読む作業を通して、生徒が自分自身とも向き合うようになっていることがわかる。

<今後行いたい授業>

生徒が自発的にやりたいと思ったことをする授業

 圧倒的な教材研究力、独特に見える授業スタイルでも、渡邉先生自身は、自分の授業はシンプルだと語っている。

「生徒たちは自分のためになると思えば、自然と一生懸命やります。それだけです。教員としては、授業中に生徒が寝たり、つまらなそうな顔をしたら切なくなります。そうならないように心がけているつもりですが、今後は生徒が『これやりたい!』と、自分で問いを見つけて、問いを解決していくために主体的に学んでいけるようになったら理想ですね」

(取材・文/長島佳子)