学びのみちしるべ【第19回】/医療統計学

医師だけではたどりつけない真実に
医療統計学が関わることでグッと近づくことができる

東京理科大学 工学部情報工学科 寒水孝司 教授


 この学問の内容、面白さは? 

医師だけではたどりつけない真実に
医療統計学が関わることでグッと近づくことができる

 新しい治療法や薬の開発には医学・薬学だけでなく、多種多様な専門領域が関わっています。なかでも重要な役割を担っているのが医療統計学。新しい治療法や薬の研究をはじめ、病気の診断に際してもいろいろな課題が発生します。そうした課題をデータで科学的に解決する方法論を見出し、その方法論を使って医師たちと共に課題を解決していく学問です。生物統計学、医学統計学、臨床統計学、医薬統計学、バイオ統計学なども同じ分野です。
 では、どのように医療統計学が医学・医療の分野に関わっているか。例えば、体の内側の組織や細胞を観察する病理検査や手術をしないと、本当に発症しているかどうかがわからない病気がいくつもあります。特にがんを発症した患者さんの場合、がんの摘出手術に成功しても、その周囲にあるリンパ節に転移している可能性もあります。でも、実際に体にメスを入れて開いてみないと転移の有無は正確に確認できないわけです。そういう状況下で活用されるのが医療統計学です。バイオマーカーといって患者さんの血圧や心拍数、血液検査、尿検査などさまざまなデータを使えば、その病気に本当にかかっているのか、進行状態はどうなのかをある程度予測できます。それによって患者さんにとって負担のかかる検査をしなくても済むことがあります。
 最近、私が医療統計家として医師と共に取り組んでいるのは、過敏性腸症候群という病気に対して、心理学的アプローチによって病状が改善するかどうかを調べる研究です。過敏性腸症候群とは原因の特定が難しく、検査でも異常がないのになぜか腹痛や下痢・便秘を繰り返す病気です。まず、この病気の重症度を測るためにはどんな項目が必要かを考え、さらに何人ぐらいのデータが必要か、集めたデータをどのように解析すれば改善できたことがわかるかなどを検討しています。
 医師たちの知識や技術だけではたどりつけない真実があります。でも、医師の考えていることを具体的なデータに落とし込むことで、知りたい真実に近づける。そこが面白さです。


 社会でどのように役立つ? 

医療の発展に必要不可欠な医療統計学。
医療に参入の一般企業からの募集も!

 医療統計学は医療の発展には必要不可欠です。にもかかわらず、大学病院や高度専門医療センターで、医学研究に従事する医療統計家が不足気味で、2016年から東京大学大学院と京都大学大学院がそれぞれ医療統計家の育成支援事業を進めています。ちなみに私の研究室の大学院生は製薬会社に開発職として就職することが多いです。学部生もメーカー、情報通信業など病院と連携して医療関連の事業を展開している会社へ就職することが多いです。私の大学時代の恩師が「どんなに時代が変化しても、その時に必要とされる能力を身につけておけ」と強く言っていました。まさに医療統計学は、時代と共に進化し、発展していく“能力”になります。


 高校の科目とのつながりは? 

統計学を理解するには数学は必須。
損得ではなく気持ちの赴くことにチャレンジしてほしい

 統計学は数学を使って作られている学問なので、数学が得意なら医療統計学への理解も早いと思います。ただ、私は、将来のためにこれをやるとか、損得勘定でやることを選ぶというのは少し違うと思っています。もっと純粋に、自分の気持ちに従って、面白そうだなと思ったらやってみる。それぐらいのスタンスで良いと思います。そうやって気になることに出会うたびに全力で挑戦していけば、結果的に自分に合ったものにつながっていくかもしれません。


 オススメBOOK 

RANGE

 『宇宙怪人しまりす 医療統計を学ぶ』
 (佐藤俊哉著 岩波書店)

  医療統計学の入門書。宇宙怪人しまりすと先生の会話でわかりやすく伝えてくれる。



(取材・文/いのうえりえ)





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