【奨学金制度に関する学長調査2012追加分析】募集戦略に独自の給付型奨学金を活用――(1) ミッションに合う学生をターゲティング

※「奨学金制度に関する学長調査」報告
リクルート『カレッジマネジメント』と文部科学省科学研究費「教育費負担と学生に対する経済的支援のあり方に関する実証研究」の共同プロジェクトは、大学の学費(授業料等)や奨学金の動向を明らかにするために、「奨学金制度に関する学長調査」を行いました。
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■ミッションに合う学生をターゲティング

≪独自の給付型奨学金の導入の目的≫

 長引く不況で、高校生や保護者の学費・奨学金に関する関心が高まる中、大学で独自の給付型奨学金を導入する動きが出ている。
 そこで、本誌177号特集では、全国の497大学からアンケート調査にご協力を頂き、独自の給付型奨学金の現状把握を試みた。さらにその結果から、学費・奨学金をいかに経営戦略に位置づけるかについて考察した。
 ここでは、私立大学(回答数369校)が、特に募集戦略に独自奨学金を活用する方法と、各大学が抱える課題について整理してみたい。

 まず、大学や学部独自の給付型奨学金が「ある」と回答した私立大学は319校と87.4%に達していた。「今後設置の予定」は2.5%、「ない」も約1割存在する。
 では、どういう目的で独自の給付型奨学金を導入しているのか、私立大学に注目すると(図表1)、トップは「成績上位者を支援するため」(78.2%)と学力重視であるものの、「教育理念に合う学生を支援するため」(45.6%)、「スポーツ・芸術分野等で優れた資質をもつ学生を支援するため」(38.4%)の項目が高い。特に「地方出身の学生を支援するため」と答えたのは私立大学だけだ。また「国公立大学志望者を支援するため」が1.8%存在し、国立大学を志望する学力の高い学生を獲得しようとしている。そして、約3割存在する「その他」だが、「留学生の支援」「留学希望者支援」「近隣他校との差別化」「社会人入学者支援」「リーダー育成」など様々だ。

図表1
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図表1

 次に、こうした導入目的の中でも、よりターゲットが明確な下記の2点について、地域別、規模別の動向を分析してみる。

≪教育理念に合う学生を支援≫

 建学の理念やミッションを持つ私学にとって、教育理念に合う学生の獲得に奨学金を活用するのは本筋である。この回答の内訳を地域別にみると、「関東」が約5割(50.4%)と最も高い(図表2)。次いで、「九州・沖縄」、「中国・四国」もそれぞれ42.4%、40.7%と高く、この3エリアは教育理念に合う学生を獲得しようという意識を強く持っているようだ。一方、最も少ないのが「中部・北陸」で、3分の1に満たなかった。
 規模別には、1つめに言えることは、1000人以上と規模が大きくなるにつれ、「教育理念に合う学生を支援するため」と回答した割合が高くなる。大規模大学になるほど、教育理念に合う学生への支援に熱心だということだ。2つめには、「300人未満」の小規模大学でもその意識が非常に高いということだ。「10000人以上」に次いで2番めに多くなっている。推測だが、小規模の単科大学ほど、教育方針に合った学生を獲得し、どう育て、世に送り出そうとしているのかが明確なのだろうと想像される。

図表2
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図表2

≪地方出身の学生を支援≫

 次に、私立大学にしか見られなかった地方出身者支援についてはどうか。地域別に見ると(図表3)、最も高いのは「関西」(24.4%)だった。関西の大学は、地方出身者の支援に力を入れていることがわかる。次いで、「北海道・東北」、「九州・沖縄」がそれぞれ18.4%、18.2%と僅差で続いている。北海道や東北は面積も広く、遠隔地の出身者の支援を行っているのかもしれない。一方、九州や沖縄では、例えば「離島や遠方からの出身者を支援したい」という自由回答も見られた。東京を含む関東は15.2%と、思いのほか高くない。
 規模別には、最も多いのが「10000人以上」(31.0%)だった。つまり私立大学の10000人以上の大規模大学の約3分の1が、地方出身者支援に、独自の給付型奨学金を導入しているということだ。次いで、「3000〜4999人」(26.4%)、「5000〜9999人」(21.6%)の規模の大学も回答率が高い。私立大学の回答数のうち、36.0%と最も多くを占める「1000〜2999人」は、さほど積極的ではないようである。
 「国公立大学志望者を支援するため」については、私立大学の回答数が少ないため、地域・規模別の内訳は省略する。

図表3
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図表3

(2) 入学前の高校生に分かりやすく広報するを続けて読む

カレッジマネジメント編集室 能地泰代 (2012/12/18)

 

【募集戦略に独自の給付型奨学金を活用】
(1) ミッションに合う学生をターゲティング

(2) 入学前の高校生に分かりやすく広報する

(3) 独自の給付型奨学金の事例

(4) 今後の独自の給付型奨学金

(5) 大学が抱える奨学金の課題

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プレスリリース「奨学金制度に関する学長調査」