高校教育現場はこう変わる 次期学習指導要領が目指す方向性2/文部科学省初等中等教育局(キャリアガイダンス2016.5 vol412)

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アクティブ・ラーニングは
不断の授業改善の視点

これらの資質・能力を育むためには、子供たちが「何を学ぶか」だけではなく、「どのように学ぶか」ということも重要です。
 左記のような「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)」の三つの視点に立って、学び全体を改善していくことが求められます。


ⅰ 習得・活用・探究という学習プロセスの中で、問題発見・解決を念頭に置いた深い学びの過程が実現できているかどうか。
ⅱ 他者との協働や外界との相互作用を通じて、自らの考えを広げ深める、対話的な学びの過程が実現できているかどうか。
ⅲ 子供たちが見通しを持って粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる、主体的な学びの過程が実現できているかどうか。


 アクティブ・ラーニングの視点は、「この型を取り入れなければアクティブ・ラーニングではない」「この方法を実施しておけば見直しの必要はない」というような「型」に着目するのではなく、習得・活用・探究の学習過程全体を見通した不断の授業改善の視点であることに留意する必要があります。

観点別学習状況評価の普及と
多面的な評価の導入を

教員が指導の改善を図るとともに、子供たち自身が自らの学びを振り返って次の学びに向かうことができるようにするためには、学習評価の在り方が極めて重要です。
 評価の観点については、学校教育法が規定する三要素との関係を更に明確化し、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に沿って整理し、学習指導要領に定める目標に準拠した観点別学習状況の評価を行っていくことが求められています。
 特に、高等学校においては、知識量のみを問うペーパーテストの結果等に偏重した評価が行われているのではないかという懸念も示されており、指導要録の様式の改善などを通じて評価の観点を明確にし、三要素のバランスのとれた観点別学習状況の評価をさらに普及していくことや、パフォーマンス評価を取り入れ多面的な評価を行っていくことなどが必要です。
 また、一人一人の多様性に応じて、ポートフォリオなどを通じて、生徒自身が資質・能力の伸びを把握していくことなども考えられます。

教科横断の視点で
カリキュラム・マネジメントを

今回の改訂が目指す理念を実現するためには、各学校が編成する教育課程を核に、どのように教育活動や組織運営などの学校の全体的な在り方を改善していくのか、すなわち「カリキュラム・マネジメント」の確立が重要な鍵となります。
 「カリキュラム・マネジメント」については、これまで、主に教育課程の在り方を不断に見直すという側面から重視されてきましたが、「社会に開かれた教育課程」の実現を通じて子供たちに必要な資質・能力を育成するという新しい学習指導要領等の理念を踏まえると、これからの「カリキュラム・マネジメント」については、以下の三つの側面から捉えることが必要と考えられます。


ⅰ 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
ⅱ 教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
ⅲ 教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。


 「アクティブ・ラーニング」と「カリキュラム・マネジメント」は、授業改善や組織運営の改善など、学校の全体的な改善を行うための鍵となる二つの重要な概念であり、相互の連動を図り機能させることが大切です。

新科目設置も含め
各教科で抜本的な見直し議論

高等学校教育については、初等中等教育最後の教育機関として、その具体的な教育課程の在り方等については、左記に示すように「共通性の確保」と「多様化への対応」の観点を軸として検討されています。
 社会で生きていくために必要となる力を共通して身に付ける「共通性の確保」の観点からは、全ての生徒が共通に身に付けるべき資質・能力を明確化し、それらを育む必履修教科・科目等の改
善を図るとともに、教科・科目等間の関係性を可視化していくことが必要であるとされています。
 特に、国語科、地理歴史科、公民科、外国語科、情報科における必履修科目の在り方についは、各教科における現状の課題を踏まえ、抜本的な見直しを行う方向で議論が進められています。例えば、地理歴史科においては、「世界史」の必修を見直し、我が国の伝統と向かい合いながら、自国のこととグローバルなことが影響し合ったりつながったりする歴史の諸相を近現代を中心に学ぶ科目「歴史総合(仮称)」や、持続可能な社会づくりに必要な地理的な見方や考え方を育む科目「地理総合(仮称)」、公民科においては、主体的な社会参画に必要な力を人間としての在り方生き方の考察と関わらせながら実践的に育む科目「公共(仮称)」の設置などが検討されています。
 また、一人一人の生徒の進路に応じた多様な可能性を伸ばす「多様化への対応」の観点からは、学び直しや特別な支援が必要な生徒への指導や、優れた才能や個性を有する生徒への指導や支援など、様々な幅広い学習ニーズがあることへの対応が検討されています。
 特に、理数教育については、数学と理科の知識や技能を総合的に活用して主体的な探究活動を行う選択科目「数理探究(仮称)」の新設などが検討されています。

高大接続改革と
一体的に進行

平成26年12月の中教審答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」を踏まえ、上記のような教育内容の見直しと、アクティブ・ラーニングの視点からの学習・指導方法の不断の改善や、義務教育段階の学習内容を含めた高校生に求められる基礎学力の確実な習得とそれによる高校生の学習意欲の喚起を図るための「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の導入、個別入学者選抜や「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の導入を通じた大学入学者選抜の改善とを、一体として進めていきます。

今年度目途に告示34年度より年次進行へ

現在、「論点整理」で示された次期改訂の方向性を踏まえて、各学校段階等別部会、教科等別ワーキンググループにおける審議が進行中です。
 平成28年度内を目処に答申を受け、新学習指導要領等の告示を行う予定です。高等学校については、平成34年度以降、年次進行による実施が見込まれています。
 文部科学省では、ホームページ上で、本稿でご紹介した中央教育審議会教育課程企画特別部会の「論点整理」の本文や関係資料に加え、これらを解説した動画を掲載しています(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/)。
 各高等学校の先生方におかれましては、こうした資料をぜひご活用いただき、「論点整理」等で示された次期学習指導要領改訂の方向性を見据えつつ、教科の枠を超えて様々な議論を交わし、日々の授業改善等に組織的に取り組んでいただければと思います。