地域を知りながら自分自身を知る。地元自治体・企業・大学と連携した地域探究に注力/愛知県立美和高等学校

文部科学省は、2021年に中央教育審議会答申において提言された高等学校の普通教育を主とする学科の弾力化(普通科改革)や教科横断的な学習の推進による資質・能力の育成を実現するため、「新時代に対応した高等学校改革推進事業」として、下記3つの取り組みを実施している。
- 新たな学科として学際領域学科や地域社会学科を設置する学校の取り組みの推進(普通科改革支援事業)
- 遠隔・オンライン教育等を活用した教育方法やカリキュラム開発のモデル事業(創造的教育方法実践プログラム)
- 教科横断的な学びの実現に必要な地域・大学等との連携・調整を担うコーディネーターを支援するプラットフォームの構築(高校コーディネーター全国プラットフォーム構築事業)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shinkou/shinko/1366335_00003.htm
こうした動きに呼応する事例として、普通科改革支援事業の採択校である愛知県立美和高等学校を紹介する。取り組みの詳細について、菱田佳祐教頭と中田加代子教諭、鈴木竜平教諭に伺った。
- 愛知県あま市にある創立43年の県立高校。全日制普通科(定員:1学年160名)、同地域探究科(同40名)からなる。
- 2023年度より普通科改革支援事業の採択を受け、2025年度に地域社会学科「地域探究科」を開設した。
- 普通科目に加え週6時間、探究学習の時間を設け、あま市や近隣自治体・企業・大学と連携し、地域を素材にした探究を通じて地域理解と自己理解を深めていく。

地域に根ざした学校づくりの積み重ねから生まれた新学科
愛知県立美和高等学校(愛知県あま市)は、2023年度より普通科改革支援事業の採択を受け、2025年度に普通科の定員40名分を移管し地域社会に関する学科「地域探究科」を開設した。普通科目に加えて探究学習に取り組む時間を週6時間設け、地域や連携大学と協働しながら地域の課題の探究に取り組む学科だ。
新学科の設置背景の一つには、志願者数の減少という同校の数年来の課題があったという。「本校があるあま市や近隣地域の人口減、また、隣市である名古屋市の高校に進学する生徒の増加等に伴い、2018年ごろから生徒募集に苦しむ状況となりました。『地域に根ざした学校になっていかなければならないのではないか』という危機感からまず始めたのが、地域活動です」と菱田氏は当時を振り返る。2020年ごろに地域活動に取り組む部活動「地域活動部」を、2021年には校内に地域連携センター「美和高マインド」を設置し、市や地元企業による地域イベント等への協力要請を受けて希望する生徒が運営に携わる等の連携を進めていった。
そのなかで地域から聞こえてきたのが「運営だけでなく、内容や集客の企画にも高校生の声を取り入れたい」という声だったという。「土日に課外活動としてできることには限界があるため、探究学習の一環として授業に組み込むことで、活動をより深めていけるのではないかと考えました」と中田氏は説明する。さらに、同校の生徒の特徴として、大学卒業後にあま市を含めた地元・尾西地区に戻って就職する生徒が多く、「地元について知ったうえで大学に進学し、地元に戻り就職するという流れが教育のなかで必要ではないか」との意見を多くの地域住民から受けていたそうだ。こうした声も踏まえて、地域探究科の設置に至ったという。
地域と自分を知り、地域の課題解決に当たり、個人のテーマを探究する3ステップ
同学科が育成する人材像として据えたのは、「物事を肯定する力と地域社会の役に立てた経験からなる自己有用感を育て、不安定な時代を生き抜く力を備えた未来をつくる人材」だ。「物事を肯定する力」と「自己有用感」に着目した背景を中田氏は次のように説明する。
「本校の生徒達は偏差値でいうと50前後の平均的な層に当たり、『どうせできないし』という発言や、隣市である名古屋市と比べて『あま市なんて田舎だし』との発言が出てくるなど、自信のなさが見え隠れするところがあります。この点をふまえて、あま市の良いところを知りながら、同時に生徒が自分では気づけていなかった長所を見つけ、自分にも地域にも自信を持って生きていく生徒になってほしいという希望を込めてこの目標を設定しました」
この目標のもと、育む力を「課題発見力」「情報活用力」「問題解決力」「実践力」「対話力」「思いやり」「豊かな人間性」の7つとし、3年間のカリキュラムを設計。具体的には、1年次は「地域行政」「歴史」「観光」等7つの異なるテーマの探究学習パッケージを通じて地域の魅力を探究する、2年次は連携機関・大学と協働しイベントの企画・運営を行う、3年次は1・2年次の学びを通じて興味を持ったテーマを個人で探究するという形で3年間を構成した(図)。その狙いを中田氏は次のように説明する。
「本校の生徒達にいきなり探究を求めてもなかなか難しく、また、自分自身や周りの良いところを見つけることが苦手な生徒が多いことから、まずは教員が用意したテーマのなかで自分にできることと地域の魅力を認識しようということで、1年次は『美を知る』と名づけて7つのテーマを用意しました。そうして自分や地域について知ったら、次は少しずつ探究を広げていこうという狙いから、2年次は『和をつくる』として、引き続き教員が用意した課題のなかでではありますが、課題解決のためのイベント企画等に取り組みます。そして、これらの積み重ねをもとに、3年次は『未来を拓く』として自分で課題を設定し探究するという3段階で構成しました」
なお、1・2年次の各パッケージのテーマは、あま市役所、あま市商工会、3つの連携大学等、地域連携センター「美和高マインド」の全参画組織と連携するべく教員がテーマと内容を検討し、コーディネーターと共に協力を得ていったという。また、成果のアウトプット方法をプレゼンテーション、ポスター、動画、コンテストの応募書類等、パッケージごとに異なる方法とすることで、生徒が自身の得意・不得意を認識し、3年次の自己課題探究の発表の際に自分らしく表現できる方法を選択できるようにするという工夫もしている。
外部への発信・評価により、生徒の自己有用感が向上
1期生を迎えてまもなく1年が経つが、「生徒達は普通科目の授業では得られない力をつけることができ、今ではすごく自信を持って生活してくれています」と鈴木氏は手応えを話す。特に、「伝える」「他者とコミュニケーションをとる」という点での成長が著しいとのことで、その様子を鈴木氏は「当初は原稿をまる読みして発表していたのが、今では前を向いて聞き手を意識して話せるようになっています。また、PowerPointでの資料づくりも上手になっています」と説明する。中田氏も「地域の方へのインタビュー等において、1時間、沈黙の時間を作らずに聞きたいことを聞き出したり、コミュニケーションをとったりすることができるようになった生徒が多いと感じています」と続ける。
同学科が目標とする「物事を肯定する力」「自己有用感」の高まりにもつながっている感触があるとのことで、その要因を、中田氏は個人的な感覚と前置きしながら「外部の方々に褒めていただく経験が生きているのではないか」と分析する。
「探究の各パッケージの最初に必ず、地域の方にお話しいただいて地域の課題を認識するというプロセスを設け、パッケージの最後に行う成果発表会にも来ていただくのですが、皆さん、生徒達を見る目が温かく、前向きな言葉を掛けてくださるんです。そうして見知らぬ大人に褒められた経験や、人前で話して拍手された経験が自信につながっているように思います」と中田氏。鈴木氏も「時には厳しい助言も頂きますが、褒めていただく際には資料や発表のなかで本人達が頑張ったところを具体的に褒めてくださるので、さらにこだわりを持って取り組めるようになっていることを感じます」と続ける。

昔のあま市の写真と現在の様子の比較をもとに
地域の近代・現代の歴史をたどる1年次の「歴史探究」での一コマ。
地域住民を取材し、写真に写る場所の今と昔の違いについて説明を受けた。
次年度以降に向けては、今年度の反省を踏まえて新1年生のカリキュラムを調整するとともに、新2年生に対しては、計画しているカリキュラムを円滑に進めていけるよう準備を進めているとのことだ。「生徒達には、3年次の自己課題探究に向けてこれからの1年間で探究していきたい分野やテーマと、それを自分らしく表現できる方法を見つけてほしいですし、私達は連携大学の先生方に卒論指導の方法等について助言を頂きながら生徒達に伴走する体制を整えていきます」と中田氏。鈴木氏は2年後の進路実現を見据え「生徒達がつけた力を生かせる入試や進路を僕自身が勉強し、伝えていけるようにしていきたい」と意気込む。
生徒募集の面でも、地域探究科の1期生は定員を充足し、「まだ成功といえる段階までは行っていませんが、ようやく走り出すことができています」と菱田氏は話す。その要因を「保護者世代や教育関係者に限らず、地域の多様な世代の方々が本校に目を向けてくださるようになったことが大きい」と分析する。「地域から期待されている役割を学校が認識できていなければ、生徒募集は厳しいと感じます。本校はそれを何とか捉えることができつつあるからこそ、今があるのではないかと思っています」と菱田氏。「最終的に学力の伸長にもつなげられるよう取り組みを進めていければ」とこれからを見据えている。
文/浅田夕香(2026/2/25)



