「学生の心に火をつける」 起業よりプロセスを重視する教育プログラム/崇城大学

【DATA】崇城大学
学部:工、芸術、情報、生物生命、薬(5学部3研究科)
学生数:3583人

崇城大学 
大学副学長 中山泰宗氏、総合教育センター教授 川副智行氏


学生の個性を認め自己肯定感高める

 崇城大学では、アントレプレナーシップ教育(以下、アントレ教育)を起業に限定せず新しいことに挑戦するマインドと捉え、全学共通教育にアントレ教育プログラムを導入している。

 「本学のアントレ教育の根底にある理念は、前学長で現理事長である中山峰男の強い信念から生まれたもの」と話すのは、副学長の中山泰宗氏だ。2008年の「高校生の生活と意識に関する調査報告書」において、日本は「自分はダメな人間だと思うことがある」といったネガティブな項目が国際調査と比較して高く、子ども達の自己肯定感の低さに当時から大きな課題意識を感じていた。

 崇城大学はキーワードに「学生の心に火をつける」を掲げている。「学生一人ひとりが自分のやりたいことを持っていることが最大の個性であり、子ども達にはその個性を認め、自分自身が素晴らしい人間だと認めながら人生を切り拓き、幸せになってほしいという思いがキーワードに繋がっている」と中山氏。アントレ教育はその結果出てきた一つの取り組みだという。

 2013年の第一期中長期計画に「起業家精神の育成」を掲げ、翌2014年から全学横断の起業家育成プログラムが始まった。選択科目のアントレ4科目を設置し、活動拠点やベンチャーキャピタル等を整備。「崇城大学ビジネスプランコンテスト」(以下、ビジコン)もこの時に始まった。

崇城大学アントレプレナーシップ教育プログラム

 2020年に(株)資生堂出身の実務教員である川副智行氏が着任したことで、アントレ教育が次のステージへと進む。プログラムの目標を、起業家育成から教育プロセス重視に転換し、1~2年生対象の全学共通教育「崇城大学アントレプレナーシップ教育プログラム」を開講した(図表1)


図表1 崇城大学アントレプレナーシップ教育プログラムの科目一覧


 プログラムを学長直轄のプロジェクトに位置づけ、総合教育センターに所属する川副氏以下2名を専任教員に配置。教員5名のアドバイザリーボード委員から意見をもらいながら、全学的な方針をまとめ、戦略会議の承認を得る形で運営している。

 プログラムの内容は、企業の中で活躍できる人材をイメージし、段階的にゴールラインを達成する形で設計した。1年次は「チャレンジと知識」としてマインドセットと知識の習得、2年次は「創造性とプランニング」でアイデア出しの訓練を行う。

 「アントレ教育は起業目的で学生生活の後半に設計されることが多いが、本学では1・2年次のベーシックスキルに設計し、3・4年次の専門科目で専門性を身につけ、シーズがあれば起業も支援する」(川副氏)。

 さらに2023年の第3期中長期計画において、アントレプレナーシップをVUCAの時代を生き抜くために必須の能力と位置づけ、薬学部以外の全学部で入門科目を必修化した(薬学部は選択必修)。「アントレプレナーシップ入門」は約850名、選択必修科目は約200名が受講している。

正課と課外教育を接続する「エコシステム」

 同時に川副氏は、正課プログラムから接続するエコシステムの再設計に取り組んだ(図表2)。「SOJOアントレプレナーシップLab」(以下、アントレLab)は実践・挑戦の場、「ビジコン」はチャレンジ・成長の場として、成果の出口に該当する。


図表2 崇城大学のエコシステム


 アントレLabには、1~3年生を中心に約70名の学生が参加している。課外教育として1年間のプログラムを用意し、専任教員が指導を行う。例えば生成AIの使い方等、覚えておくと役に立つ実践的な技術の習得や、アイデア出し、プランニング、実践とフェーズに分けてプログラムを進めている。

 2025年にはビジコンに高校生部門を新設。主に提携校と、川副氏が探究活動支援を行うSSHが参加している。「頭が凝り固まる前に、創造性を育むアントレ教育を受けることが重要。学力だけで大学を選ぶのではなく、自分自身が成長できるかという捉え方で本学を見てもらいたい」と川副氏。中山氏も「SSHの探究心は相当高まっているので、将来的に単位化できれば高大接続の意味合いも強くなる」と期待する。

チャレンジ精神で就職・起業の道を切り開く

 アントレ教育の成果について中山氏は、大手企業への就職や、就職先で活躍する学生が増えていると話す。「地場産業の経営者からは、コロナ時に本学の新卒生が社内DX化を主体的に進めてくれたと聞いている。ほかにもアントレLabでスマートフォンを車載カメラに代用するアプリを考えた学生が大手自動車メーカーに採用された事例もある」。

 川副氏は「フリーランスを志向する学生や、就職3年目に起業した人も出てきて、自分で道を切り拓くチャレンジ精神が強くなっている」と評価する。

 一方で課題もあり、起業からプロセス重視にプログラムを変えたことで、人がどれだけ育ったかの成果が見えづらいのが悩みだ。例えばアントレ指数等、何かしらの指標が必要だと感じ、プロセスを評価するオープンバッジ等を検討している。

子どものころから理工系教育支援

 中山氏は、今後も「学生の心に火をつける」をぶれない軸として、高大連携や子ども達にもアントレ教育を含むSTEAM教育支援をしていきたいと話す。

 「TSMC進出がホットな話題だが、九州の理工系人材は圧倒的に不足している。算数や理科が苦手だからと範囲を狭めるのではなく、面白い、やってみたいというポジティブな理由で将来を選んで欲しい」と言う。

 これまでも小中学生が実験の楽しさを学ぶ「崇城大学テクノファンタジー」や「熊本市少年少女発明クラブ」に取り組んできた。今後もこうした活動を通じて、子ども達の将来と社会を接続する教育を行っていきたいと意欲を示した。


(文/能地泰代)





【印刷用記事】
「学生の心に火をつける」 起業よりプロセスを重視する教育プログラム/崇城大学