社会への価値提供に必要な知識の習得とプロダクト開発を通じて起業家精神を育成/佼成学園高等学校
【DATA】佼成学園高等学校
生徒数:778名(2025年11月1日現在)
学科:普通科(グローバルコース、難関国公立コース、総合進学コース)

佼成学園高等学校(東京都杉並区)では、普通科グローバルコースの教育の柱の一つにアントレプレナーシップ教育を据え、起業家精神を育成する探究プログラム「Project: LEAP」を1・2年生を対象に実施している。その狙いや教育効果等について、グローバルコース プログラムディレクターの北野尚之氏に伺った。
学生の個性を認め自己肯定感高める
グローバルコースは、「世界基準でものごとをとらえ、世界平和の実現のために貢献できる真のグローバルリーダー」の育成を目的に2021 年度に新設されたコースだ。国内外のどこにでも飛び出していける生徒を育成するべく、起業家精神だけでなく実践的な英語力の育成も教育の柱に据え、卒業までにIELTSのスコア6.5の取得を目標に英語教育にも注力している。
同コースの設置に当たり起業家精神の育成を教育の柱に据えた背景を、北野氏は「生徒達がキャリアについてしっかりと考える機会を設けたかった」と話す。
「当時、高3でも大学進学の目的が明確でないまま受験勉強に注力する生徒が多くいることを課題に感じていました。そんなときに他校のアントレプレナーシップ教育プログラムの視察で自身のキャリアをしっかりと考える時間になっていること、そして、一人ひとりがエネルギーを持ってそのキャリアに向かおうとしている様子を見て、本校の生徒がビジネスに関心を持っていることにもなじむと感じ、教育の中心に据えることにしました」。
習得した知識をもとにプロダクト開発を実践
そうして同校が教育企業・タクトピア(株)とタッグを組み、開発したのが「Project: LEAP」である。プログラムのモットーとして掲げるのは、「自分を知り、社会を知り、他者との協働を知って卒業する」だ。その背景を北野氏は「生徒達を見ていて長年感じていたのが、自己理解が十分でないことと、他者との協働経験の浅さ、そして、自身のやりたいことや興味・関心と社会との接点を見いだしたうえで巣立っていく生徒が極めて少ないことでした。だからこそ、この3つを実現できるプログラムにすることを重視しました」と話す。
プログラムは、総合的な探究の時間に実施する連続講座「アントレ講座」と海外研修(ベトナム、アメリカ)で構成される。「アントレ講座」は、まず、1年次に基礎編として、講義やワークを通じて製品・サービス(以下、プロダクト)の開発の基礎を学ぶ時間を1時間、学んだ知識をもとにプロトタイプ制作に取り組む時間を1 時間、合計2 時間の連続した時間をとり、起業家精神の基礎を養っていく。講義テーマは別表を参照されたい。

プロトタイプ制作は、1年間を3つの期間に分け、毎期間、チームとテーマを変えて行うが、そのうちの1回が夏休みのベトナム研修だ。現地に滞在する3日間で市場調査と課題の設定を行い、解決のためのアイデアをまとめて現地の起業家に英語でプレゼンする。
続く2年次は、実践編として週1時間、新たなチーム・テーマで1年をかけて1つのプロダクトをユーザーに価値提供できる形にまで仕上げる。2学期の頭までにプロダクトを完成させ、2学期には「出稽古」として各種ビジネスコンテストに参加しながらプロダクトやプレゼンをブラッシュアップ。2月に起業家を招いて最終発表を行ったうえでプレゼン内容を英語化し、3月に集大成としてアメリカ・ボストン研修にて現地の起業家へのピッチに臨む。
プロダクトの開発テーマは、プログラムのモットー等もふまえて身の回りの課題を出発点に本気になって取り組めるものを見つけるよう促しているという。「1年生はプロトタイプ作成までなのでかなり自由な発想でアイデアが出てきますが、2年生になると、社会への価値提供を見据えて新規性や収益性も考慮したアイデアに収束していきます」と北野氏。例えば近年では、発達性ディスレクシアの児童のための漢字学習支援アプリを開発したチームや、病気や高齢により手の動きに困難を伴う人に向けて「なぞればメイクができる」製品を開発したチーム等があるという。

ベトナム研修では、現地の大学生とともに街に出て市場調査を行う。

ボストン研修でのピッチトレーニングの様子。助言をもらったうえで最終ピッチに臨む。
キャリア観が明確化し、行動力も伸長
2年間のプログラムを経て生徒達に起こる変化として、北野氏は大きく3つ挙げる。「まず、生徒一人ひとりのキャリア観が明確になります。成し遂げたいことがはっきりして『そのために足りないものを大学で埋めていきたい』と大学進学の目的も明確化します。加えて、チームでの協働を通じて、自分の強み・弱みや、協働する際の立ち回り方、強みの発揮の仕方等も認識できています」と話す。そして、「最も伸びを感じるのは行動力」と続ける。
「校外にインタビューワークにも出ますから、電話やメールで数十件単位の新規アポイントを依頼することも問題なくできますし、飛び込みのインタビューにも全く抵抗がなくなります。飛び込んでみれば何かにはつながるだろうという実感を持ち、行動してみてその先にあるものを見てみようと動くことができる。これらの点で行動から学ぶという姿勢を身につけていると思います」。
プログラムを通じた経験から海外での活躍を志向する生徒も自ずと増え、2024年春に卒業した1期生は、35名中7名が海外大学に進学している。
「グローバルでもローカルでも、どこででも起業家精神を発揮してほしい」と話す北野氏。今後の課題として、多様な経験を補う機会づくりを挙げる。「生徒達に解決したい身近な課題を問うと、最初に出てくるものが『勉強』『睡眠』『フードロス』等誰かの課題に偏っていて、原体験としての多様な経験が足りないことを課題に感じています。そこを補うために、2026年度から、併設する中学校のカリキュラムに本校の最寄りの商店街と協働しての町探究を導入する計画です。大人との接点もできますし、商店街の課題に応じた取り組みを考える経験もでき、起業家精神の素地が養われることを期待しています」と話す。同コースの生徒達の更なる飛躍に期待が高まる。
(文/浅田夕香)
