生徒全員がチームで株式会社を設立。1年間の経営を通じてビジネスマインドを育成する/大阪府立淀商業高等学校

【DATA】大阪府立淀商業高等学校
生徒数:509名(2025年5月1日現在)
学科:商業科、福祉ボランティア科

大阪府立淀商業高等学校 商業科長 秋月麻衣 氏


 大阪府立淀商業高等学校商業科(大阪市西淀川区)では、生徒が会社を設立し経営に取り組む独自の学校設定科目「アントレプレナーチャレンジ」を2015年度より設けている。その狙いと詳細について、商業科長の秋月麻衣氏に伺った。

机上の学びを実践的に試す機会として

 「アントレプレナーチャレンジ」は2・3年生を対象にした科目で、12月に実施する地域に開いた大規模販売実習「淀翔モール」に向けてチームごとに会社を設立し、市場調査から事業企画、商品の仕入れ、販売、決算、株主総会での報告までを1年間かけて行う(表)。「実践の場で自らの課題に気づくため、また、何のために勉強しているのかということを生徒自身が理解するためにも、実践型の教育が必要」という課題感から設けられた科目だ。その背景を秋月氏は次のように話す。

 「商業高校では、専門科目として流通や情報、会計等について学びます。ただ、例えば販売実習は教員が商品を仕入れて生徒が販売するという売り子体験のような形で、生徒が主体的に取り組みづらい、また、簿記の授業で検定試験の問題は解けるようになっても、実際のモノの値段のつけ方や決算の仕方は理解できていない等、机上の学びが実践につながっていないという課題がありました」。


表 「アントレプレナーチャレンジ」1年間のカリキュラム


生徒がバイヤーとなり商品を仕入れ、販売

 同校商業科の生徒は、1・2年次に4大経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報に関する基礎を学び、それらを土台に2年次から並行して週2時間、アントレプレナーチャレンジに取り組む。クラスごとにくじ引きで2~3チームを編成し、チームごとに会社を設立。社長、総務課、仕入課、経理課、販売課、企画課に分掌して淀翔モールでの商品販売に向けて会社経営を行っていく。毎週の授業では、クラス横断で課ごとに分かれてその課の業務に必要な知識を学ぶ時間を1時間、そこでの宿題をチームに持ち帰りメンバーとの検討を通じて実務に取り組む時間を1時間とっている。また、チームワークのトレーニングや挑戦・変化する企業の分析、エフェクチュエーション・デザイン思考について学ぶ授業等も行う。

 淀翔モールへの出店に当たっては、各社1万円程度の利益を出すことを全体の目標としつつ、社ごとに利益目標を定め、損益分岐点の計算等も行い仕入価格や販売価格・数量等を決めていく。淀翔モール終了後には、目標の達成度合いやその要因等を分析し、決算・株主総会での報告をもって1年間の活動を終え、解散する。

 3年次も、新たなチーム編成で再度、会社経営に取り組むが、2年次との違いは、仕入先を新規開拓することだ。「2年生は先輩達が蓄積してきた取引先一覧から仕入先を選びますが、3年生は自分達で仕入先を探して仕入交渉を行います。最終的に良い取引ができた場合、取引先一覧に加えて後輩に引き継ぎます」と秋月氏。加えて希望者は、同日に実施する「メタバース淀翔モール」の店舗設計やメタバース内での接客にも取り組む。


写真 アントレプレナーチャレンジ 仕入の様子
仕入先とのやりとりを通じて、対話や文書で取引先と円滑に応対するスキルを習得する。


写真 アントレプレナーチャレンジ 淀翔モールへの出店の様子
淀翔モール本番では、仕入れた商品の販売を通じて接客マナー等を磨く。


育成を目指す3つの力

 育成を目指すのは、「PERSPECTIVE( 見通す力)」「PRESENTATION(発表する力)」「PARTNERSHIP(協調性)」の3つだ。「何が必要でどんな準備をしていかなければならないのか、どうすればお客さんに喜んでもらえるのか等を予測し見通す力、自分の意見をしっかりと相手に伝えてコミュニケーションをとる力、それぞれの個性や強みを生かしてチームでプロジェクトを成し遂げていく力です。今後、働いていくうえで核となる力としてこの3つを据えています」と秋月氏は説明する。

 そのために教員は、生徒が主体的に動き、挑戦できるよう伴走することに重きを置いて同科目の実施に当たっているという。「教員は本当に必要なことだけを指示し、進め方や進度は生徒達に任せています。教員から見ると心配になる価格や販売数を設定しようとすることもありますが、『ほんまにこの数でいくんやな?』『いきます』等のやりとりをしたら、生徒達は覚悟を決めて必死になって集客施策に取り組んでいます」と秋月氏。失敗も学びのうちというスタンスだ。赤字の年もありつつ、ここ数年は売上・来場者数ともに増加傾向で、2024年度は売上約200万円、来場者数も2000人近くに上ったという。

培われる積極性や挑戦心、学びへの意欲

 同科目を通じて、生徒達には大きく3つの変化が見られると秋月氏は話す。「まず、人とのコミュニケーションをしっかりととれるようになったと話す生徒は多いです。あとは、働くことを前向きに捉える生徒も増えますね。そして、積極的に学ぼうとする生徒も増えます。仕入れや決算等、アルバイト先では担当しない業務を経験してビジネスの難しさや面白さ、自分自身の課題等を実感し、新たな気持ちで日々の勉強に向き合う様子が見られます。学ぶ目的が見えてくるのだと思います」(秋月氏)。「人と出会うのは面白い、外の世界に出ていくことも悪くないという感覚や、挑戦することへの抵抗のなさ等が育まれている」と続ける。

 これらの姿勢は就職先や進学先からも評価され、近年は大手企業への就職実績が増加傾向にあり、また、総合型選抜での大学合格者も出てきているという。「例えば就職面接では、前向きに挑戦する姿勢や大人との会話への慣れを評価いただくことがあります。中には『大卒よりも伸び代がある。4年経てばかなりの戦力になるんじゃないか』と言ってくださったケースもあります」と秋月氏は話す。

 今後は、淀翔モールのさらなる拡大を目指して新たな取り組みに挑戦していくとともに、「培われた積極性をより多くの生徒が発揮できるよう、今はまだ一部の生徒のみが挑戦している外部の成果発表会やビジネスコンテスト等への参加をより多くの生徒に働きかけていきたい」と話す。同校の今後の取り組みから目が離せない。


(文/浅田夕香)





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