イントレプレナーシップを重視し 学生・教職員が「主体的に動けるマインドセット」/岡山大学
【DATA】岡山大学
学生数:約1万3525人(学部1万246人、大学院3279人)
学部:10学部1プログラム(文、教育、法、経済、理、医、歯、薬、
工、農、グローバル・ディスカバリー・プログラム)

イントレプレナーシップのマインド育てる
岡山大学では、大学全体として研究成果を社会実装しようという大きな方向性のなかで、地元企業や自治体と連携して多彩なアントレ教育を推進している。他でもない学長の那須保友氏自身が、自らの遺伝子研究をがん治療に役立てようと創薬ベンチャーを立ち上げた経歴を持ち、那須氏の強い求心力が源泉となっている。
今から8年前、地元起業家の呼びかけでアントレプレナーシップ講座を作ることになり、那須氏を座長に2年間かけて討議した。この時のコンセプトが今も生きているといい、起業が目的化してしまう若者が多いなか、自分が今いる組織の中で課題を見つけて解決できる、イントレプレナーシップのマインドを育てることが大事だと考えた。2019年より全学対象の寄附講座「SiEED」プログラムを開講。史上最年少で経団連に入会した(株)ABABAの創業者、久保駿貴氏もこの講座の出身だ。
その後、マインドセットを全学的に展開したいと考え、「スタートアップ・ベンチャー創出本部」を設置。トップダウンによる全学展開と、ワンストップサービスの相談窓口を作るのが狙いだ。メンバーは、本部長で准教授(特任)の志水武史氏、事務職員、研究シーズの社会実装を担当するコーディネーターの約10人で構成されている。
「マインドセット」と「実践的スキル」の二本立て
「SiEED」は寄附講座だったが、今度は正課の全学共通科目(選択)として「アントレプレナーシッププログラム」をスタートした(図表1)。①マインドセットを目的とする「アントレプレナーシップⅠ/ Ⅱ」と、②実践的スキルを習得する「アントレプレナーのための経営戦略概論(基本編)(応用編)」の二本立てで、①は150人、②は50~100人が受講する。

②の講義を受け持つ志水氏は、「与えられた課題を解くのではなく、自ら課題を発掘して解決策を考えることで、主体的に動けるようにマインドセットを行う。さらに課題解決や価値創出の際、具体的にどう動けば良いかの実践的スキルも修得する」と説明する。
プログラムはグループワークをメインに、異なる学部の学生同士が課題解決策を議論しながら進む。「そんな考え方があるのか」と分野横断の学びの場にもなっていて、毎回提出するレポートは、回を追うごとに理解が深まっているという。
那須氏は「この主体的に動けるマインドセットが一番大事」と強調する。自分事として考え、やりたいことを見つけ、人に正確に伝えて実現するという成功体験をつけようと大学全体で動いているので、学生はとても元気だという。
社会実装に近いプログラムを正課外で実施
岡山県にはスタートアップを支援する様々なプラットフォームが存在し、正課授業で興味を持った学生は、キャンパスの外に出て、社会と交わりながら実践力を磨いている。
そこで学内の課外活動もテコ入れし、2019年に「岡山リビングラボ」をスタートした。大手企業を招き、当該企業の技術シーズや課題をテーマに、学生、研究者、自治体職員、地元企業人が混ざってソリューションアイデアを考えるワークショップを行っている。
「入口ではマインドセット、出口では社会実装に近いプログラムを正課外で行っている」(志水氏)
2021年に正規の課外活動クラブとして結成した「DS部」では、教員が伴走しながらデータサイエンスに関する企業課題の解決を行ってきた。同部は学部や教職員、さらには大学の枠を超えて部員を受け入れ、当初20人だった部員は今では200人に達している。
また、学生主導の取り組みである「岡山大学企業部」も、起業家精神の醸成やビジネススキルの向上を目的として活動している。さらに内閣府「地域中核大学イノベーション創出環境強化事業」(2024年度)で整備した「おかやまテックガレージ」では、3Dプリンタ等を活用し、学生が自由な発想でプロダクトを半年間で作り上げるプログラムを実施している。
教職員や高校生もマインドセット
「アントレプレナーシップとは、失敗を恐れずにチャレンジし、失敗も糧に、それを良しとする風土を作ること。2025年4月から新学習指導要領で育った学生が入ってきたので、学生のマインドセットは進んでいく。むしろ教職員にこそマインドセットが必要」と那須氏は指摘する。
現在、文科省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」(実施主体:日本学術振興会)に採択され、教職員の意識改革等に取り組んでいる。あわせて2年前の学長就任時から「不易流行」の改革を推進すべく、各部署を回り年30回の講話を行ってきた。最近では研究者のマインドセットも浸透してきて、GAPファンドに手を上げてみようという教員も増えている。
また、高校と連携したアントレコミュニティ「オレンジ」の設立や、岡山県教育委員会と協働で高校生の夢実現を支援する「おかやま夢育イニシアチブ」にもコミットしている。学力テストや偏差値では測れない自己肯定感を高め、その延長線上にアントレプレナーシップがあればいいという考えだ。
「岡山大学に行ったら面白い」と選ばれる大学に
2つの競争的資金のKPI達成を目指す一方で、教育効果のKPIによる数値化は難しく、永遠の課題だと那須氏は話す。ただアントレ教育を続けてきたことで競争的資金をどんどん獲得できていることが、積み重ねの成果として出ていると評価する。
2025年8月には、岡山エリアのスタートアップ創出を加速する「岡山イノベーションコンソーシアム」の発足イベントを岡山市と共催した。同コンソーシアムは内閣府の第2期「スタートアップ・エコシステム拠点都市」に選定された「瀬戸内スタートアップコンソーシアム」の中核的役割を担うことになっている。
今後も学生と教職員全員が楽しみながら毎日を暮らせるキャンパスを目指していくと那須氏。一人でも多くマインドセットができた暁には、偏差値ではなく「岡山大学に行ったら面白い」と選ばれる大学になりたいと熱意を見せた。
(文/能地泰代)
