地域課題と大学・社会での学びにつながる課題の探究を通じて新たな価値を創造できる生徒を育成する/北海道岩見沢東高等学校

文部科学省は、2021年に中央教育審議会答申において提言された高等学校の普通教育を主とする学科の弾力化(普通科改革)や教科横断的な学習の推進による資質・能力の育成を実現するため、「新時代に対応した高等学校改革推進事業」として、下記3つの取り組みを実施している。
- 新たな学科として学際領域学科や地域社会学科を設置する学校の取り組みの推進(普通科改革支援事業)
- 遠隔・オンライン教育等を活用した教育方法やカリキュラム開発のモデル事業(創造的教育方法実践プログラム)
- 教科横断的な学びの実現に必要な地域・大学等との連携・調整を担うコーディネーターを支援するプラットフォームの構築(高校コーディネーター全国プラットフォーム構築事業)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shinkou/shinko/1366335_00003.htm
こうした動きに呼応する事例として、普通科改革支援事業の採択校である北海道岩見沢東高等学校を紹介する。取り組みの詳細について、渡辺淳一校長に伺った。
- 北海道岩見沢市にある道立高校。2025年に岩見沢東高等学校と岩見沢西高等学校が統合し、誕生。全日制文理探究科(定員:1学年80名)、同普通科(同160名)と、定時制普通科からなる。
- 2023年度より普通科改革支援事業の採択を受け、2校の統合と併せて普通科新学科の設置を準備。2025年の統合新設校開校と同時に学際領域学科「文理探究科」を設置した。
- 地域が求める高校として、普通科・文理探究科共通で探究的な学びの充実を図るとともに、文理探究科では、データサイエンス、グローバルな視野を育成する学び、論文執筆等、難関大学進学を視野に入れた取り組みを学校設定科目「探究基礎」「探究応用」にて行っている。

伝統校2校の再編統合に併せて学際領域学科「文理探究科」を設置
北海道岩見沢東高等学校(北海道岩見沢市)は、2025年4月に岩見沢東高等学校(全日制・定時制)と岩見沢西高等学校(全日制)の統合により新設された。「北海道初の全日制・定時制併置校における普通科進学校同士の再編統合に、普通科改革支援事業を載せて魅力化・特色化を図るという大きなプロジェクト」(渡辺氏)により誕生した高校である。
札幌市から40km圏内にある岩見沢市において創立100年を超える伝統校同士が統合することとなった背景には、少子化と札幌圏の高校への中学生の流出に伴う岩見沢市内の高校への進学者数減という課題があったという。2校の再編統合の要望を岩見沢市から受けた北海道教育委員会は、両校を再編統合し、普通科改革支援事業を活用して学際領域学科を有する新設校を開校する方針を決定。約2年間の準備期間を経て、全日制課程は普通科と新学科「文理探究科」の2学科体制で開校した。
両校の生徒の意見を取り入れながら校章やスクール・カラー、スクール・スローガン、校歌等を決めていくとともに、全日制2学科の教育課程の検討において同校が決めたのは、教育課程は2学科共通とし、そこに文理探究科は学校設置科目「探究基礎」(1年次1単位)、「探究応用」(2年次2単位)を追加して大学での学びを先取りするという方針である。背景には、統合に際して収集した市民の声があったという。
「統合新設校に対する要望について岩見沢市民にアンケートを実施したところ、大きく『難関大学進学』『部活動の活性化』『探究学習の推進』の3つが挙がりました。かつての東高のように難関大学合格者を多く輩出してほしい、部活動が盛んになってほしい、市内の各中学校が『総合的な学習の時間』で取り組んでいる地域探究に高校でもしっかりと取り組んでほしいということです。となると、教育課程は学科ごとに変えずに単位制のもと選択科目群を設けることで多様な進路希望に対応できると考えました。そのうえで、文理探究科は難関大学進学を視野に入れた学科として、大学での学びの先取り、具体的には、質の高い探究、グローバルな視野を育成する学び、論文執筆等に取り組むべく、学校設定科目を3年間で3単位設けることとしました」(渡辺氏)
地域を知り、地域の課題、自身の進路に探究を広げていく
文理探究科の取り組みについて紹介するにあたり、まず、同校の探究学習について説明したい。同校では、2020年度より旧岩見沢東高が取り組んできた探究学習プログラムを発展させ、普通科・文理探究科共通で「総合的な探究の時間」を各学年1単位ずつ設け、地域から日本・世界の諸課題へと段階的に学びを発展させていくプログラムを組んでいる(下図)。
図 「総合的な探究の時間」3年間のプログラムの流れと内容
まず、1年次は「地域を知る(GANTO BASIS)」をテーマに地域の施設見学や体験学習に取り組む。次に、2年次には「地域に飛び出す(GANTO PROGRESS)」をテーマに、岩見沢市の課題解決に資する探究活動をグループごとに地元企業と協働して行う。2024年度はグループごとに立てた課題・テーマを地元企業等に提示し、企業から協働したいグループを指名してもらう形式を取り、例えば、街の活性化を目指した商店街の活用プランの立案等、都市計画の観点から課題を設定した複数のグループが地元の不動産店から指名を受け、1年間、助言を受けながら探究活動を行ったという。
そして3年次は、個人探究として各自の進路に直結する課題に関する調査・研究に取り組む(GANTO PRIDE)。例えば、これまで「なぜ九九の7の段は難しいと感じるのか」「音楽で地域を活性化するには」「フットボールの世界でレフェリングの全自動化は実現するか」等のユニークなテーマがあったという。こうして個人探究にも取り組む意図を、渡辺氏は「進学校として、大学での学びにつながる課題に個人で責任を持って取り組む経験をしてもらいたいため」と説明する。
文理探究科では、新しい価値の発見・創造にも挑戦
これらに加え、文理探究科では「探究基礎」「探究応用」等で探究学習の質を高めるための取り組みを行っている。
まず、1年次の「探究基礎」では、グローバルな視野を育成するべく4日間、全員が台湾に探究研修旅行に赴く。事前に現地が抱えていると思われる課題を考え、解決に向けた仮説を立てたうえで現地に渡り、観察やインタビュー等を行って解決策を考えるという取り組みだ。そして、「探究応用」では、音楽配信サイト「Spotify」の実データをもとに好きなアーティストの曲の傾向を分析し、次のヒット曲のコンセプトを導き出して発表する等のデータサイエンスや、隣接する北海道教育大学岩見沢校と連携してのイベント企画等を通じて新しい価値の発見・創造に挑戦する。加えて3年次には、「総合的な探究の時間」で実施した個人探究において、調査・研究とそのまとめだけでなく、論文執筆まで行う。
大学の先取りとしてこれらの取り組みを行う理由を渡辺氏は次のように説明する。「大学生になってから海外に旅行や留学に行くとなると、時間や費用の面での大変さが出てきます。であれば、高校生のうちに早く経験したほうが良いのではないかと考えました。また、近年の大学生は入学時点で口頭での発表は上手だけれど文章作成力が今ひとつであることを大学の先生方へのヒアリングから把握したことから、高校生のうちに書く力をつけるために論文執筆を取り入れました」。
普通科・文理探究科の探究学習において同校が重視しているのは、探究のプロセスの習得と外部との関わりだ。「どのようにして問いと仮説を立て、仮説を裏付けるための情報(データ)の収集と整理・分析をどのように進めるのか。そのプロセスや観点を2年次のグループ探究と3年次の個人探究を通じてきちっと教えることが大学や社会に進んだあと有効であるという考えで生徒達の指導にあたっています」と渡辺氏は説明する。
また、外部との関わりについては、渡辺氏が同校に着任した2023年以降、普通科改革支援事業を活用しながら市の関係機関や地元の大学、専門学校、企業等と一つずつつながりを作り、地元の約50の事業者を含むコンソーシアムを組成するとともに、学校コーディネーターも採用して外部機関との連携を円滑化し、生徒達の学びの機会を増やしていった。
それは、探究学習における協働だけでなく、「情報」科目における地元の情報系専門学校によるVRの体験授業、医学部医学科志望者を対象とした北海道大学病院救急部体験実習、教育学部志望者を対象とした市内の小中学校での2日間の教職インターンシップ等多岐にわたる。「数年前に本校の生徒達についてあるアセスメントを行った際、礼儀正しく、人に対して悪いことを悪いと思える規範意識が高い一方、人に対して自分を表現することが苦手であるという数値が出ていました。外部の方々と関わり、発表する機会等を通じてこの苦手な部分を支援するとともに、基礎的な知識・技能の定着や体験的な学び等ができれば、希望する進路も実現すると考えたのです」と渡辺氏は振り返る。
探究学習における生徒の自己評価が向上
統合新設校の開校からまだ1年目だが、「新設校の入学者を待たずに在籍生徒の実績を伸ばすことに尽力してきた」と話す渡辺氏。その成果は、生徒の自己評価や進路に表れてきているという。
「例えば、探究学習の『発表資料の内容』『資料の活用・分析』の項目において、3段階評価で最も低い評価をつけた生徒が2023年度から2024年度で減少し、上位や真ん中の評価をつけた生徒が増えました」と渡辺氏。「フィールドワークに出たり、地元企業と一緒に探究を進めて発表するといった機会を増やすことで、人と話したり考えて表現したりする力がつき、積極性が増してきたということだと思います」と続ける。
また、進路においても、2025年春には11年ぶりに東大現役合格者を、また、14年ぶりに医学部医学科への複数の現役合格者を輩出した。「教員が授業第一と指導しながら、朝学習やオンライン教材などの活用によって基礎的な知識・技能の定着を図れたことと、探究学習によって学習意欲が向上した結果です。また、これらの合格者の中には部活動でリーダーシップを発揮していた生徒も多く、部活動に注力しながら難関大学に進学できることも明らかになりました。保護者や地域の方々が望んでいる、文武両道を実現したい生徒が集う学校という役割を本校が担うことができると思いました」と渡辺氏は評価する。
今後の課題として、「1年ごとに学びを積み重ねて十分な探究ができる生徒も出てきた一方、一層の頑張りを期待したい生徒達も一定数いて、その生徒達をどのように伸ばしていくかが来年度以降の課題の一つ」と話す渡辺氏。普通科改革支援事業の指定終了に伴う学校コーディネーターの雇用費用の確保や探究学習の継続に向けたより多くの教員の理解醸成等の取り組みと併せて、探究的な学びがより充実・深化したものとなるよう、一歩ずつ歩みを進めている。
文/浅田夕香(2026/2/10)
