地域課題をテーマにデザインと看護の連携教育で人材育成/札幌市立大学

札幌市立大学キャンパス


中島秀之 理事長・学長

 大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングといった座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働と、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。

 この連載では、この「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目しながら、学長及び改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく。各大学が活動の方向性を模索する中、様々な取り組み事例を積極的に紹介していきたい。

 今回は、デザイン学部と看護学部の2学部からなり、その連携を目指す札幌市立大学で、中島秀之学長にお話を伺った。

デザインと看護の連携・協働

 2006年開学の札幌市立大学は、分野の大きく異なる2学部からなる。札幌市中心部の桑園キャンパスには、札幌市立高等看護学院を前身とする看護学部がある。そこから車で約30分ほどの郊外にある芸術の森キャンパスには、札幌市立高等専門学校を前身とするデザイン学部がある。

 デザインと看護の連携・協働というユニークな取り組みは、決して簡単なものではない。2018年4月に就任した中島秀之学長は「私は3代目学長ですが、初代学長も前学長も、2つの学部の融合にたいへん苦労されてきた歴史があります」と言う。

3年次まで一貫した「D×N連携科目」

 デザイン(Design)と看護(Nursing)が連携し、「人間重視」を根幹とする札幌市立大学独自の学びは、「D ×N(ディー・バイ・エヌ)」と名づけられている。

 D×N連携科目は、1年次前期の必修科目「スタートアップ演習」で始まる。大学という「学びの場」とキャンパスの所在する「地域」について知るプロジェクト活動に、異なる分野を目指す両学部の学生が共に取り組むことで、お互いの発想に触れ、広い視野を持つことができる科目だ。3年次後期の必修科目である「学部連携演習」でも両学部合同で、課題解決の方法を知る演習を行う。自身の学部で専門教育を学んだうえで相互の専門に触れ、専門性を拡大し異分野の理解を深めることが意図されている。

 これらは開学当初からの教育課程だが、2017年度には、2年次前期で必修科目として地域の課題を見いだす「学部連携基礎論」が開講された。D×N連携科目が1年次から3年次まで円滑につながり、卒業時までに「連携の成果を実社会に生かす力」を身につける。

 「スタートアップ演習」を含む共通教育科目は、1年次から2年次前期まではデザイン学部及び大学本部のある芸術の森キャンパスで行われる。キャンパスが分散している不便さや困難もあるが、「一番難しいのは、方法論の違い」と中島学長は言う。教員の方法論も違うし、学生達の学び方も違う。「放っておいてひとりでに融合するということはない。機会を捉えてはくっつけるしかありません」。

 1年次から3年次までD×N連携科目を配し、しかも入学早々の「スタートアップ演習」から2学部の学生が共に学ぶのも「機会を捉えてはくっつける」の例で、学生だけでなく、教員の融合も狙っている。連携する各科目は必ず両学部の教員が共同で担当するからだ。

 教員同士の融合の機会としては、学内研究交流会もある。会場は2つのキャンパスを2年ごとに交互に使う。オープニングトークとして代表教員4名による研究発表のほかほぼ全教員によるポスターセッションを行う。

 「色々な意味でやり方が違う部分があり、こちらではこんなことをしているという情報交換が行われている。案外いいのかなと思うのは、一色で固まっている大学より、2つ異物がある方が、アウフヘーベンというか、向上するものが出てくる可能性が高いのではと思っています」(中島学長)。

D×NをITでつなぐ

 D×Nの融合については、地域に資する研究の推進とその成果を社会に還元するため、「地域連携研究センター」を設け、学内での研究に基づき、製品化の見込みがあるものについては、特許事務に加え、知財アドバイザーによるコンサルテーション、企業とのマッチング及び見本市への出展を行う等サポートする仕組みを構築しており、医療機器の製品化といった成果も生みだしている。

 「車椅子クッションの新しいデザイン、使用済み注射針の廃棄容器のデザイン等、いくつかの成果はあります。でも、そういう個々のものをデザインするより、看護の仕組みをデザインしてほしい。デザインというのは、形のデザインだけでなくて仕組みのデザインも含んでいます。ですから例えば、看護の新しい仕組みのデザインは、まさに目指すところなのですが、なかなかそうはなってない」。

 そこで中島学長が計画しているのが、DとNをつなぐブリッジとしてITを導入することだ。「看護の中にいる人達が日頃感じている問題を伝えて、デザイン学部と一緒に解決法を見いだす。今までのD×Nはここでとどまっている感がありましたが、ITやAIが使えるようになると、実際にそれを作る、実装することができます。念願だったD×Nが、ITが入ることでやっと完成するかなと思っているところです」。

 ITの活用は、初代学長の時代から存在したコンセプトという。それが情報工学・人工知能(AI)の研究者である中島学長の就任によって、実現へと動き出そうとしている。「看護とデザインがあることをいつまでも『重荷』にせず、そろそろ『あるからできる』方にジャンプしたい。『他ではこんな発想、ないよね』と言えれば最高です」(中島学長)。

 そして中島学長は、2004年度から2015年度まで学長を務めた公立はこだて未来大学での事例を挙げた。「病院の患者さん向けのシステムで2005年度にグッドデザイン賞をもらっています。実際にどういうシステムがいいかというデザインをし、プログラムを作って患者さんに使ってもらうという実装をした。同じようなことが札幌市立大学でもできると思います」。

 一般的にデザインというと造形的なものをイメージしがちだが、もう少し本質的な「仕組み」づくりが、ここで学び・研究する「デザイン」だ。


図表 D×N連携科目の流れ


公立はこだて未来大学との連携、コンピュテーショナル・シンキング

 IT強化の一環として、7月には、公立はこだて未来大学との学術交流協定に調印した。公立はこだて未来大学はシステム情報科学部のみの単科大学だが、特色の一つに「社会をデザインする大学」を謳う。

 「実は2校の連携は、ずっと模索してきました。距離がありますが、遠隔講義のシステムをうまく使って、両方で教育を受けられる形を作っていきたいと思っています」(中島学長)。

 公立はこだて未来大学との連携で中島学長がもう一つ目論むのが、コンピュテーショナル・シンキング(計算論的思考)という教育科目を作ることだ。「当面、ここの大学にはそういう教育をする人材がいないが、公立はこだて未来大学にやってもらえばできるかもしれません」。

 「今後の世の中、どの分野の人もITのリテラシーを持たないと、困ります」と中島学長は言い、こう続ける。「リテラシーとは、使うという意味だけではなくて、情報を処理するとはどういうことかの感覚。コンピュテーショナル・シンキングも、プログラムの読み書き技術ではなく、プログラムを書けるような基礎的考え方のことです」。

 よく言われる「論理的思考」が思い浮かぶが、コンピュテーショナル・シンキングはそれとは異なる。

 今まで論理的思考の重要性は言われてきたが、具体的な手順を考える力も、世の中で役立つ場面は多いのではないかと中島学長は言う。「例えば、ホテルの朝食でブッフェ形式に並びますよね。あれは壮大な無駄だと思います。コンピュータの世界でいうと、シーケンシャルアクセスです。ランダムアクセスの方が効率的なのは当然で、前の人が取ろうとしているものが自分はいらないというときは追い越せばいい。あるいはそもそも並ばなくていい。こんなふうに、日常生活に役に立つ場面もたくさんあると思う」。

 コンピュテーショナル・シンキングを教える科目は、日本ではまだない。授業開発とともに、書籍にまとめる等して普及させていきたいという。

アジャイル型教育を構想する

 札幌市立大学の今後の展望として、長期的には「アジャイル型教育」の方向に行きたい考えがあるという。「『学ぶと働くをつなぐ』ということに関しては、今完全にウォーターフォールですね。教育が終わったら実務に就くだけの単調な流れです。それをアジャイル型にして、短期間に何度でも大学と社会との間を行き来するのがいいと思います」(中島学長)。

 社会人の学び直し「リカレント教育」は近年、よく話題になるが、中島学長の「アジャイル型教育」は、「もっとループが早いし、何度も回る」イメージだ。

 アジャイルとは、システム開発の用語で、ウォーターフォールとよく対比される。ウォーターフォールは、計画から最終工程まで順を追って進み、並行作業や後戻りはしない。アジャイル開発は、開発対象を短期間で完成可能な小さな単位に分け、その単位ごとに計画→設計→作成を行い、 完成したら次の単位の「計画」に戻り、同時に開発全体も見直す。修正の手間が最小限で済み、状況の変化に対応しやすいメリットがある。

 ウォーターフォール型の教育は、大学で身につけた知識が社会で「一生持つ」ことを前提としているが、AIやITの発達に伴い、その前提は崩れると中島学長は言う。

 「10年で専門知識が古くなるとすると、10年に1回は大学に戻ってくるという状況を作りたい。そう思っていたら、似たようなケースが看護分野にはあるのです。看護師さんが看護部長とかになる前に大学に戻って学ぶシステムが。お手本にしたいと思っています」。

 札幌市立大学は認定看護管理者教育機関(サードレベル)(公益社団法人日本看護協会)の指定教育機関になっている。実務経験が通算 5年以上等いくつかの条件を満たした看護師が受講でき、2018年度は18名が受講している。

 「アジャイルの延長線上で、大学に入学とか卒業という概念はなくしていいとも考えられます。働きながら、『この知識が必要になったから、ちょっと大学で勉強してくるわ』みたいに、取りたい講義だけ取っていく。それで10年くらいすると博士号が取れたとか」。

 これは夢物語ですが、と言いつつ、そのくらいの遠い未来を構想することが教育には必要だという思いも、中島学長にはある。


(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)



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