学ぶと働くをつなぐ[50]地域における短大の価値を再認識して、 入学定員を充足/佐賀女子短期大学


背水の陣で臨んだ学生募集
今村正治氏が学長に就任したのは2022年4月。学校法人立命館の職員として推進した改革の手腕を期待されていたものの「こうすればうまくいくなんて全然分からない。けれどもとにかくジタバタしなきゃダメだ」というところから始めたと語る。
喫緊の課題は入口施策。7割前後に低迷する定員充足率の改善だった。学長として募集に関与した入学者数は定員190名に対して1年目の23年4月156名、2年目142名。「ショックでしたね」と今村学長は振り返る。この結果を受けた様々な議論の末、25年4月の定員を170名に変更した。「ものすごい決断でした。20名分、収入が減るわけですから」(今村学長)。背水の陣で臨んだ25年4月の入学生は181名。実に数十年ぶりに定員を満たした。
奏功したポイントは4つあったと今村学長は言う。1つ目は、養成課程をはじめ日本人学生の募集を向上させる地道な施策。昨年度は、今村学長自ら、200校ほどの高校に1人で訪問したという。2つ目は、24年度から地域みらい学科で、25年度には全学で、校名を変えないまま、男子学生の受け入れを始めたこと。3つ目は留学生の拡大。介護福祉分野に加えて、地元で人材ニーズが高まる観光分野の留学生確保に乗り出した。4つ目のポイントは「留学のサジョタン」だ。韓国語文化コースを中心に年間40名ほどが交換留学、共同学位、短期研修などで留学する、短大には珍しい留学の強さをアピールしてきた。26年度からはフィールド・ユニット制を導入し、全てのフィールド(学科内の「コース」に相当)の学生が「韓国留学」や「海外研修(韓国・タイ・台湾)」のユニット(「科目群」に相当)を履修できるようになる。韓国の4年制大学への編入学にもいっそう注力する。

2年間をハードに過ごすキャリア支援
今村学長は、短大では「入口」で既に、学生のキャリアが始まっていると見ている。「4大に行く生徒は『どこの4大に行くか』と考えますが、本学のような短大では、『就職するか、大学・短大に進学するか、はたまた専門学校に行くか』という悩みになります。だから、この短大に行くか行かないかは、人生を左右する大きな問題になる」。
高校生に対しては、オープンキャンパスで「短大か4大かという選択肢ではなくて、まず2年間どう過ごすかということだ」と常に語りかけていると言う。「自分がこれからの人生、生きていくうえで、大きな基盤を本当に作りたいのであれば、4年制大学で2年生まで緩やかに過ごすより、短期大学で相当ハードな生活を2年経験しておけば、3年目から人生の視野が開けてくるよと」(今村学長)。
職種ごとの就職支援としては、保育士、介護福祉士に加え、小学校教諭と養護教諭にも力を入れていくという。「短大の2年間で小学校の先生になれて、『タイパ・コスパ』がいい。小学校教諭・養護教諭の免許がとれる短大は、佐賀では本学だけですし、近県でも長崎、熊本にはなく、これを強みの1つにしていきたい」(今村学長)。長崎県・福岡県・東京都に加えて、来年度からは、佐賀県・熊本県から教員採用試験の一次試験が免除される推薦枠を得ており、「小学校教諭への最短ルート」と打ち出している。養護教諭は、採用試験の競争倍率が10倍を超える自治体が珍しくない中で、合格者を輩出し始めている。また、司書をめざす学生も年々増加している。
地元貢献
キャリアに関してもう1つ意識しているのが地元貢献だ。「就職実績では、教育職・福祉職、民間企業も含めて70%は佐賀県内に就職している。つまり、地元で働いてほしいという会社は、数多い」(今村学長)。
地元から望まれている一方で、「地域の中で教育界と産業界の間が途切れていることが問題」と今村学長は指摘する。例えば、高校現場には偏差値主義の考え方が根強くあり、それが高校生の県外流出を後押ししてきた。「地元の大学に行って地元に貢献する生き方の価値を、先生が生徒たちに選択肢として提示してほしい。私たちも、地方の短大が潰れたら、誰が福祉の仕事をしてくれる? 誰が保育士になってくれる? 困るのはあなた達ですよ、と社会に訴えていきたい」。
佐賀県では、高等教育政策と産業政策を連携させる観点で地域の将来構想に関わろうという組織「UC5+」が、23年11月に動き始めた。「UC5」は佐賀女子短大を含む県内5つの大学・短大、「+(プラス)」は知事を意味する。知事自らがメンバーとなっている組織なのでスピード感があると今村学長は言い、県内進学や県内就職を増やして地方創生の担い手を育成する施策に期待する。
また25年3月には、西九州大学短期大学部、県内の保育園・幼稚園等団体との連携協定を結んだ。大学と保育業界とが手を組むことで、地域の保育・幼児教育を維持し、地元で学んで地元で働く循環を作り、卒業生の活躍の場を広げる狙いだ。
地元短大として競合する西九州大学を含む協定を、「令和の薩長同盟」と言う今村学長は、「自分達だけではできないことがあるから、県にも働きかけるし、大学同士手を組む」と言う。「これも、ジタバタする1つの形だと思っています」。
「地域・女子・短大」という3つの可能性
学生募集の改善以外の改革の成果として、今村学長は「短大への理解」を挙げる。「『短期大学といえば保育士・幼稚園』というイメージが強いが、進路は多様だ、ということを少しずつ高校や社会に分かってもらっているかな、と」。
就任当初は「地方・女子・短大は三重苦」と公言していた今村学長。「これは今春、学内で謝りました。上から目線でごめんなさい、間違っていました、と。地域の、女子の、短大。これは3つの可能性だと今は思っています。地域に必要とされているということを、僕自身が学びました」。
(文/松村直樹 リアセックキャリア総合研究所)
