理工系総合大学としてのプレゼンス向上につながる、研究費の制度設計に注力

2025/12/10


東京都市大学 三島理夏氏

「その一歩が、大学を変える。」

日々の業務のなかにある工夫や挑戦。同じフィールドで奮闘する職員達のリアルなストーリーから、あなたの“次の一手”が見えてくるかもしれません。
「Next up」は、大学の未来を担う私達自身の知恵と経験をつなぎ、広げるための企画です。

氏名:三島理夏(みしま りな)氏
大学名:東京都市大学
所属部署:学術研究推進部 研究推進課
大学では生命科学系の学科を専攻。卒業後2016年に新卒で東京都市大学に入職し、キャリア支援センターに配属、主に就職サポートや海外インターンシップなどを担当。2018年に1年間、文部科学省に出向し産学連携に関する業務を担当する。2019年より現職。企業などとの共同・受託研究の契約業務、知的財産に関する手続きなどを担当する。



【サクセスエピソード】
企業と大学の共同・受託研究費を見直し受入額が増加

写真1

 上司とともに臨んだ「研究担当教員充当経費」の導入が挙げられます。

 企業との共同・受託研究を行う際、これまでは研究に係る機器備品、論文投稿費用などを直接経費として計上し、経費の総額を企業から受け入れていました。ただ、理工系の場合は、研究のための大型機器購入代などを費用計上できますが、人文・社会科学系の場合は機械設備などを購入する機会がほとんどなく、共同・受託研究の受入金額が小さくなりがちでした。

 とはいえ、人文・社会科学系であっても共同・受託研究に割かねばならない時間は理工系同様に長く、先生方の負担も大きいのが現状であり、コンサルティングファーム出身の先生に「どのように研究に係る費用を計上すればいいか」と相談を受けたことを機に、研究費の計上方法見直しに取り組むことに。以前参加した研修で講師をされていた先生が、アワーレート方式(人が1時間作業するのにかかる「総費用=アワーレート」を算出する手法)で研究費を積算するという事例を話していたことを思い出し、具体的な規程などを共有していただきました。そして結果的に、これまで計上できなかった教員の知見への対価(コンサル料のように頭で考えて結果を出す部分)を直接経費として計上し、充当経費として受け入れられるよう制度設計し直すことができました。

 アワーレートの決め方や、受け入れた充当経費を次年度の研究費として計上する方法などを、関係各所と細かくすり合わせながら作業を進めるのは大変ではありました。他大学の事例を探し、根拠となる資料を提示しながら根気強く学内での合意形成を進め、無事に制度設計に落とし込めたときはうれしかったですね。

 現在では、人文・社会科学系の研究でも一定の研究費を計上することができ、受入額も増加しています。これを機に産学連携での研究活動が活発化し、本学のプレゼンス向上にもつながると期待しています。




 

【私の仕事術】
人との「出会い」と「つながり」を大事にする

 前述の取り組みのように、人脈からもたらされる情報が業務に活きることが多いため、普段から人との出会いやつながりを大事にしています。子どもがまだ小さいため、最近は参加回数が減っていますが、研修など学外の集まりがあれば積極的に参加し、様々なコミュニティーに顔を出すよう心がけています。

 2018年に1年間、文部科学省に出向したときに、中国政府による日本の若手科学技術関係者招へいプログラムに参加した経験がありますが、その際に関わった各行政担当者や大学担当者との人脈も大切にしています。知り合いになった特許庁の方に、学内で行っている特許セミナーの講師をお願いし、好評を得たこともあります。何かあったときに相談できるよう、こちらからも積極的に情報共有するなど、つながりを途切れさせないよう気を配っています。




 

【今後の展望】
長期的視野で基礎研究に臨める体制を作りたい

 まずは、草の根運動的に取り組んでいる「産学連携の実施状況」や「それに伴う外部からの資金受入額」などの分析を、さらに発展させたいと考えています。現在、本学を含めた理系6大学と比較しながら、どの学科・どの先生が本学の研究活動及び資金受入を牽引しているのかを示せるような内部向けの報告書を作成していますが、情報共有を求められる機会が徐々に増えてきたため、さらに分析を深めて発信内容を充実させたいですね。これにより、学内での研究への理解が深まり、大学を挙げて研究を推し進める機運が高まればうれしいですね。そしてゆくゆくは、大学の一丁目一番地である「研究」系部署の職員をさらに充実させ、専門性をより高めることで、より力強い「研究」のサポート体制を構築できることを期待しています。

 中長期的には、やや抽象的な表現ではありますが、大学職員として「100年後を見据えた制度設計」にも携わりたいと思っています。

 例えばですが、私が所属する学術研究推進部の視点で言えば、基礎研究に投資できるような体制を構築したいとの思いがあります。一般的に、喫緊の課題解決につながる研究をどうしても優先する傾向にありますが、日本の競争力につながる「次の芽」を育てるには、基礎研究への投資は必要不可欠です。あくまで一案ですが、例えば間接経費の一部を使って長期視点での研究に割り振るような制度が作れないか、などと考えています。このような、大学だからこそ可能な、長期的な視点での投資を支える仕組み作りに貢献したいですね。

 大学職員として、苦しさを感じたとき、壁にぶつかったときには、「変えられないものを受け入れる冷静さを、変えられるものを変える勇気を、そして両者を見分ける知恵を授けたまえ」という、アメリカの神学者・ニーバーの「祈りの言葉」を思い出し、奮起するようにしています。全国の大学職員の皆さんも、各現場で改革に取り組んでいることと思いますが、時に「自分にできることなど何もないのではないか」と思ったり、他大学を羨ましく感じたりすることもあるかもしれません。しかし、ニーバーの言葉にあるように、たとえ小さなことであっても「変えられるもの」を変えることで、それが後に大きな影響を及ぼすことがあるはずです。今の自分にできることは何かを考え、周囲の人に相談したり提案したりしながら、「まずは小さなことから変えてみる」を大切にしてほしいですね。

写真2



(文/伊藤理子)