「授業」で社会を生きる力を育む(2)(福岡高校・跡見弘美先生)

福岡高校(福岡・県立)
跡部 弘美 先生 【生物】

あとべひろみ●1959年熊本県生まれ。悩み多い思春期に熊本県立第一高校理数科に入学、生物部に入ったことが転機となり合宿や他校との交流、文化祭の企画など積極的に提案をするようになった。自分が動き出したら人生が面白くなる、世の中が変わる、という実感をもったのはこの頃。九州大学理学部生物学科に進み、修士課程修了後、大学の助手を経て結婚後、高校教諭に。初任の城南高校時代に3人の子どもを出産、仕事と子育てで10年間多忙な日々を送る。2校目の早良高校には9年間勤務。仮説実験授業との出会い、九州高等学校理科教育研究会編の副教材『研究ノート』制作への参画によりネットワークが広がり、授業研究、教具開発に力を注ぐ。また、今も顧問を務める生物部では研究活動に力を入れた。再びの城南高校(6年間)では生物オリンピックへの参加を推進。修猷館高校(5年間)では、教科「情報」で思考法や問題解決について試行錯誤しながら取り組み、2015年度より現任校へ。生徒が主体的に参加する授業を試行し続けてきたが、昨年度よりアクティブラーニングを取り入れ、手ごたえを掴む。研究会等に積極的に参加し、自らもオンラインの勉強会を立ち上げて、全国の教員と学び合いながら日々授業を磨いている。

自分で動き出したら世の中が変わる、人生が面白くなる。
授業をその原体験にしたい

 どういう授業をすればいいのか、試行錯誤し続けてきました。理科の先生方はみんなそうだと思いますが、ワクワクする授業をしたい、「なぜ?」と疑問をもって、自分の頭で考えようとする生徒を育てたいと思ってきました。

 初任の頃はわかりやすくて楽しい授業を志向して、自分がまとめたことをいかにうまく伝えるか必死で考えました。2校目からは括弧抜きプリントを使ってまとめさせる授業をしましたが、解説に時間がかかる。それではと喋る時間を短くし、問題を解く時間を長くとると積極的に取り組まない生徒が出てくる。結局は当事者意識が大事だと思い、前任校ではわからないことを個人的に質問させて進めるスタイルにしました。

 生徒が本当に消化できているのかずっと不安でしたが、昨年度、校内研修でAL(アクティブラーニング)に出会ってから手ごたえを掴めるようになりました。まず問題演習に、ジグソー法を取り入れました。すると生徒が自分の頭で考え、自分の言葉で語り始めました。「こんな生徒を育てたかった!」って感激しました。思考力に挑む生物オリンピックや研究発表を目指す生物部の活動、人生を主体的に歩むための進路学習、教科「情報」で苦しんだクリティカルシンキングなど、これまでやってきたことがすべてALの授業でつながった気がしました。生物の授業で生きる力が育てられると実感しました。

 今年は話し合いの時間をとるために、これ以上ないぐらい授業を練ってプリント教材を作り、復習したい生徒が視聴できるように授業動画も作成しました。教えない授業にも挑戦しています。プリントも記述式、定期考査も論述型の問題が多くなりました。考査の答案や実験レポートを評価するためにルーブリックにも取り組み始めました。生徒は当事者意識をもち、以前より理解は深くなったと思います。定年前にALに出会うことができて良かった(笑)。自分で動き出したら世の中が変わる、人生が面白くなる。生徒と一緒にそれを実感する毎日です。

(取材・文/江森真矢子 撮影/上野奉文)