(数学)間違えてもいい「頭を濃密に使う」授業で深く考え続ける力や、創造する力を育む

浜松北高校(静岡・県立)
大村 勝久 先生

教員歴27年。深い思考をする授業の研究に力を入れつつ、入試対策の問題作成にも燃える。どの問題とどの問題の組み合わせがベストか延々と悩むこともよくあるという。

「なんでそうなるのか」深く考え続け、追求し、社会に学びを還元していける人に。

<どんな授業なのか>

知識習得から課題解決までとにかく頭を使う授業を

 県内有数の進学校、浜松北高校に勤務する大村勝久先生は、昨年度受けもった3年生に、東大ほか大学入試対策の授業や補習をみっちり行ってきた。

 その一方で、生徒が自分たちで考え、学び合うような授業も意図的に差し挟んできた。例えば、一人の生徒がタブレット端末を操作して入試問題を自分なりに解説し、ほかの生徒も二人に1台用意されたタブレットでその情報を共有し、さらに話し合う、といった授業だ。

 今年度、1年生を受けもった大村先生は、この2つの流れをさらに加速させた。「授業の密度をいかに濃くするか」を徹底的に考え、限られた時間でも生徒が「とにかく頭を使って」教科書の内容や問題演習に向き合えるようにし、知識の習得をしやすくすることを目指した。

 そのうえで、単元学習の時短によって生み出した時間を使い、生徒が「習っていない課題を解く」「自分で新しいものを作る」ことに挑戦する機会も増やしたのだ。それも、個人で考えたり、ペアやグループで話し合ったりと、様々なスタイルで。生徒が、正弦定理と三角形の性質を応用すれば解ける問題をやってみる。その問題の解き方を足がかりに、いつでも成り立つ新たな定理を自分で作ってみる(正弦定理から下方定理を導き出せる)。正弦定理やチェバの定理を使って解く問題を生徒が自作し、隣同士で解きあってみる。

 こうした授業に取り組んでいる理由は二つあり、大村先生はその意図も生徒に日頃から伝えている。

 一つは、「みんなが受験するときには、たぶん、知識を問うものと、思考力を問うもの、両方の問題が出るよ」と考えているからだ。大変だが、どちらの学習もおろそかにはできない。

 とはいえ、受験のためだけに数学を学んでほしいのではない。

 もう一つの理由は、「大学に受かるだけじゃダメなんだと。受かったあとも、社会に出てからも、活躍できる人になろう」という思いがあるからだ。

「暗記した知識で問題を解くだけでは、大学で学問の研究はできません。警戒される東海地震への対策など、社会課題の解決もできません。そこで求められるのは『なんでそうなるのか』を深く考え続けて追究していくことです。生徒には、進学後、自主ゼミのように、自分たちで学び合う学問研究をしてほしいのです。そしてそこでつかんだ知見やそこで創造したことを、社会に還元してもらえたら、と思っています」

<生徒はどう変わったか>

授業中に意見も述べれば自分たちで考えも深めていく

 浜松北高校の生徒は、勉強はきちんとやるが、以前は授業中に自ら発言することはまずなかった。でも、教科書で学んだことを応用して深く考える授業を進めていくと、「どう思う?」と投げかければ、生徒が手をあげたり、考えを口にしたりするようになった。

「生徒には『間違えてもいい、できなくてもいい。みんながどれだけ頭を使うか、そこが狙いなんだ』と言っているんです。数年前と比べると、生徒がすごくアクティブになりました」

 正弦定理を使ってsin75°を求める問題に挑んだときのことだ。わかった生徒が手をあげて発表すると、それを聞いたある女子生徒は、うしろの席の男子生徒に「sin15°も求められるかな?」と投げかけた。彼女は中学生のときは数学に苦手意識をもっていたという。

「中学では定理を覚えこんで、ひたすら問題を解くだけだったので。今は、なんでそうなるのか、そういう過程からやるので楽しいです。sin15°も自分だけでは求められないかもしれないけれど、みんなと学び合いながらやると、私では思いつきもしないことを、まわりが言ってくれたりするので」

 学んだことを基に生徒が自分たちで問いを見つけて、さらに学びを深める。大村先生が願っている、自主ゼミのような空気が芽生えつつある。

<今後行いたい授業>

教師として挑戦を続け生徒と一緒に授業を創る

 この先、大村先生としては今以上に「教師と生徒にマッチした授業」「生徒と創る授業」を目指したいという。

 例えば、場合の数と確率の単元では、日常生活の生データを分析するような授業をできないか検討している。というのも「自分も挑戦して面白いと思えるような授業でないと、生徒たちに数学を学ぶ楽しさを伝えきれない」と思っているからだ。

 ただし、挑戦するだけで満足はせず、生徒からのフィードバックも必ずもらう。そもそも今の1年生の半数は、中学校では講義形式の授業を中心に受けていて、生徒同士の学び合いに慣れていなかった。だから大村先生は、隣同士で話し合うことやグループワークを少しずつ導入してみて、そのつど振り返りシートや授業後の雑談で、生徒から今回の授業の「良い点」「今後の課題」「より深めるには」について意見を求め、授業を一緒に創ってきたのだ。

「どういう授業がいいと思う?とこちらが真剣に問うと、生徒も真剣に返してくれるんですよ。『グループワークをまたやりたい、説明したり説明されたりすると理解しやすい』『一人で考える時間もないと、話し合っても中身がない』などと。学び合いですね。この子たちに私も教わっています」

(取材・文/松井大助)