(美術)学校で「美術」を学ぶ最後の1年間で、社会における「文化芸術」の意義と視点に迫る

膳所高校(滋賀・県立)
山崎 仁嗣(ひとし) 先生

教員歴23年。2006年に膳所高校着任。出会った学芸員が偶然高校の先輩だったり、恩師が絵画指導をした福祉施設の作品を集めた美術館と連携したり、縁のつながりで連携授業を推進。

山崎先生と取材に協力してくれた生徒さん(写真左から、津田啓生君、長船慈子さん、山崎先生、馬場咲良さん、南 沙希さん、田中倫さん)

鑑賞や創作を通して、自分や他者の考えを言語化して考える力をつけたい

<どんな授業なのか>

美術に「連携授業」と「言語活動」を多様に導入

「高校教育における芸術科目の位置づけとは?」。現在、膳所高校の美術科を担当する山崎仁嗣先生は、前任の中高一貫校時代に、そんな疑問をもつようになった。美術は中学では全員が履修し、高校では選択科目となる。その際に、書道、音楽の他の芸術科目に比べて、美術は得意であるか、消去法的に選択する傾向があった。

「『不得意だけど美術は好き』という生徒が選択したくなる、美術の学び方はないものかと。特に当校のような進学校では、将来的に美術を専門とする生徒は極めて少数派です。『人生で美術を学ぶ最後の1年』に、『絵が上手だから面白い』で終わるのではなく、美術で学んだことが社会に出たときにつながりを感じられる授業をつくれないかと考えました」

 授業設計を構想するにあたって、学習指導要領を読み直してみた。

「『伝統文化に関する教育や、言語活動、体験活動の充実』が改善事項として記されています。また協働する学び方も求められています。これらを授業に取り込めれば、美術でも社会で必要な力を育めるはずだと思ったのです」

 同じころ、全国高等学校美術工芸教育研究大会が滋賀県で開催された。そこで美術教育をサポートするNPOや美術館の学芸員など、外部の人々との出会いがあった。

「外の世界の人とのつながりは小旅行のような楽しさがあります。誰かと出会うと何かが起こる。その発見を生徒たちにも体験してほしいと思いました。私個人でやるよりも外部の人に補ってもらえば、生徒に早くたくさんの世界のことを知らせることができます」

 単なる外部講師を呼んでの連携授業ではなく、生徒たちが感じたこと、考えたことをその都度言語化させるためにワークシートを取り入れたり、小論文を書かせる授業を構成した。その例が、アール・ブリュット(以下AB)を考える授業(図1)や、茶道を通して日本文化を学ぶ授業(図2)だ。

 ABは、正規の芸術教育を受けていない人による、自由で無垢な「生きの芸術」のことで、障がい者芸術と認識される場合もある。多角的な見方ができることから、生徒の思考力を深められる題材と考え、様々な専門家の講話や鑑賞を通して、学年の最後に小論文として自分の意見をまとめる授業とした。

 茶道の授業では、茶器作り、和菓子のデザインをふまえ、自分たちの作ったものを使って御茶会を行い、一連の流れのなかで日本の伝統文化を学んでいる。茶器作りでは、生徒同士が仲間の作品に銘の付け合いもする。

<生徒はどう変わったか>

複眼的な思考と、いつか社会で役立つ兆しを得た生徒たち

 外部の多数の専門家の話を聴いたり、仲間の意見に触れることで、自分の見方や考え方が断片的・一面的であったことに生徒たちが気付いていることが、ワークシートや小論文から読み取れる。なかには、自分自身の視野の広がりだけでなく、自分と異なる意見の人の気持ちも理解できるようになったという生徒もいた。

 現在3学年で、1・2年時にこれらの授業を受けた生徒たちの感想を下段に記した。いずれの生徒も小論文に苦労したり、絵を描かない美術の授業への驚きを語っていたものの、「将来何かの役に立つのではないかと思った瞬間が何度かあった」と答えていた。山崎先生も生徒たちについてこう語る。

「高校で学んだことが何に役立っているかを実感するタイミングは生徒それぞれです。彼らが社会に出るのはまだ先で、高校は社会とつながる力のタネを蒔いている段階だと思います」

<今後行いたい授業>

外部から得た知見の成果を、学校の内外、地域にも伝えたい

 外部との連携授業の成果を学校の内外に伝えたいと山崎先生は考えている。「地域のそれぞれの分野で活躍されている方々を、『美術』という窓口から学校へ集めることができたので、今度はその成果を発信したいと思っています。そのことで、『高校』や『生徒たち』は『広い社会』と、『美術』は『暮らし』とつながるきっかけにもなると思います」

(取材・文/長島佳子)