(英語)学びの土壌づくりを重視した独自の「オーガニックラーニング」を提唱

近畿大学附属高校(大阪・私立)
江藤 由布(ゆう) 先生

教員歴20年。2015年、全世界の教育者が集うApple Distinguished Educatorに選ばれSingaporeInstituteに参加。これをきっかけに自身の教育方法を「オーガニックラーニング」としてまとめる。教育系セミナーやワークショップなどを開催する一般社団法人オーガニックラーニング代表理事。二児の母。

自分で人生の手綱を握って進む、「人生の経営者」を育てたい。

<どんな授業なのか>

個の強調と協調を学ぶプロジェクト活動を多く実施

 近畿大学附属高校で英語特化コースの担任と英語を担当する江藤由布先生の目標は、「人生の経営者を育てる」ことだ。

「起業家を育てたいという意味ではありません。生徒たちが大人になるころ、社会は今よりさらに変化しているでしょう。パラレルキャリアは当たり前。人と同じことをしていては将来食べていけない。そんな社会において、就職してただ受け身に生きるのではなく、自分で人生の手綱を握って生きていく人になってほしいという意味です」(江藤先生・以下同)

 そのために江藤先生が提唱しているのが「オーガニックラーニング」だ(図1)。江藤先生は自身の授業実践のスタンスを、オーガニック農法になぞらえてそう呼ぶ。オーガニック農法は、自然農法のように種を撒いて放置するのではなく、土づくりから行う。また、一般農法のように化学薬品を多用し管理するだけではなく、植物本来の生育力を高める。江藤先生はそうした放置や管理ではない方法で、生徒の自律的な学習力の育成に取り組んでいる。

「化学肥料を使うと植物は効率よく育ちますが、見えない根の部分は短く弱い。でも、オーガニック農法で育てると、水分や養分を求めて根がどんどん育って味もよくなると聞きました。私が授業で目指すものもこれと同じです。生徒の学びたいという意欲や、学びそのものを楽しむ心に働きかけることに力を入れています」

 具体的な授業実践も独特だ。教材には一般的な教科書のほか、大学の授業でよく使われるオックスフォード大学出版局のリーディング教材『Q Skills forSuccess』も活用。同校が学校ぐるみで推進しているICT教育にも積極的で、様々なアプリを取り入れている。学びの土壌づくりを重視した英語独自の「オーガニックラーニング」を提唱

 5年前から、すべて英語で、生教材を使い、アクティブラーニングや反転授業を取り入れた授業を全面的に実施(図2「LEAFモデル」)。生徒がチームで解説動画を作成することで文法について学び合うなど、チームで取り組むプロジェクト活動も多い。

「生徒は放課後や休日でも何かしら英語の活動をしている。まさにゾーン(集中状態)に入っているような状態ですね」

 そのなかで生徒からあがった言葉が「強調性協調性」。一人ひとりの個の強調と全体の協調の両方の大切さに自ら気付いた。また、プロジェクト活動では、チームで意見がまとまらなかったり、手順を誤ったりと、うまくいかないことも多い。江藤先生はその経験こそ価値があるという。

「クラスの合言葉は『失敗のない人生、それ失敗』。失敗からたくさんのことを学んでほしい。だから、失敗のお膳立てをするのが自分の役割だと思っています」

<生徒はどう変わったか>

英語力が確実に身に付き自律的な学習・行動力も育つ

 かつての江藤先生の授業は、今とは大きく異なる。「初期はドラマ『女王の教室』さながらの強権的な態度だった」と江藤先生。当時はひたすら問題集を解かせる「質より量」の授業を行っていた。また、生徒同士ペアを作り、できる生徒が教えるスタイルを導入したことも。これにより英語の成績は飛躍的に向上したが、「生徒の間に上下関係を作ることなので脆さも感じていた」という。

 その後、「7つの習慣」の考え方やICTを取り入れ、現在のようなフラットで自由度の高い「オーガニックラーニング」に至った。今、生徒の学びに向かう姿勢は、これまで以上に前向きだ。生徒は授業に対する意見やアイデアを積極的に出す。大規模オープンオンライン講座「コーセラ」を使って自習し、学んだ内容を英語で紹介し合う授業は、生徒側から「やってみたい」という声があがって実現した。

 その一方で、生徒が動き回っているだけにも見える授業で英語の学力がちゃんと付くのかと心配されることも。しかし、「4技能のバランスがよく、TOEIC®テストなどの外部試験も伸びている」と江藤先生は手応えを感じている。大学生になっても戻ってきて新入生の授業をサポートする卒業生がいることからも、こうした授業が彼らにとってかけがえのない経験だったことがわかる。

「マインドが育ってくれれば生徒が自主的に動いてくれるので、私がかけるパワーはかなり少なくなりました。小学生のころからずっと肌に合わないと感じてきた管理教育の殻を、今やっと破りつつある気がしています」

<今後行いたい授業>

マインドブロックを外すため枠組みを越えて活動

 この夏、江藤先生らが主催して、今後の教育を考えるイベント「ラーニングスプラッシュ2016」を開催。高校教員や大学教員、コンサルタント、映画監督など多様な参加者が集まり、教育をテーマにプレゼンテーションやワークショップを行った。同校生徒も授業の一環として準備に関わり、当日の運営の一部も担当。学校や教科の立場を越えたプロジェクトとなった。江藤先生は今後も、このような既成の枠組みにとらわれない活動に取り組んでいくという。

「未来は自分が思い描くようにしかならないので、この程度でよいと思ったらそうなってしまいます。成長を妨げているマインドブロックさえ外すことができれば、人の可能性は無限大です。生徒にも、さらには教育に関わる仲間に対しても、大きな枠組みで成長するためのお手伝いをしていきたいですね」

(取材・文/藤崎雅子)