(情報)ICTの活用で「学習の充実化」を図り、 「協働」の必要性や喜びも体感する

羽衣学園高校(大阪・私立)
米田 謙三 先生

教員歴25年。英語と社会科の教員免許を取得して大学卒業後、高校教員に。情報科の設置とともに情報の教員免許も取得し、今は英語と情報を担当。ボランティア部顧問。外部との連携では、顔を合わせて信頼関係を築くことを大事にしているという。

情報の扱い方を学んだその次なんです。誰をどう喜ばせたいか、そこにもっていきたい。

<どんな授業なのか>

ICTを活用した多様な学び方や協働を体感

スマホの利用について考える授業。より安心・安全に使えるようにアプリにどんな警告表示がされているか、実例をもとに確認した。

 ICT(情報通信技術)は、学校現場にはまだ導入半ばな感がある。しかし「今の高校生にはICTはもうあって当然のものです」と米田謙三先生は言う。「彼らは生まれたときからインターネットも携帯電話もあった『デジタルネイティブ』。ICTは文房具と同じで、生活の一部になっているんですよ」

 だから情報の授業は、ハードウェアやソフトウェア、ネットの知識を教えるだけのものではない、と思っている。

「ICTを活用して情報をどう取り込み、どう判断するか。情報をどのように発信するか。『情報をいかに賢く使いこなすか』を学んでほしいと思っています。情報は扱い方によって良くも悪くもなる。自分次第であることを理解し、賢く使えるようになってほしいのです」

 情報を賢く使うとは、具体的にはどういうことだろう。米田先生の念頭にあるのは、ICTを活用した生徒一人ひとりの「学習の充実化」だ。ICT機器やデジタル教材の活用、ネットの遠隔教育など、様々な学び方を授業に取り入れることで、多様な生徒がより自分に合った学習をできるようになることを目指している(図1参照)。

 もう一つ大事にしているのは、情報の扱い方を学ぶことと合わせて「他者とどうつながるか」も考えることだ。そのために、大学生や社会人、海外の人などと組んだ「協働学習」を、学期ごとに2〜3回は行っているという(図2参照)。

 例えば、ネットの可能性と危険性を生徒が学びながら、情報系企業の社会人と一緒に、スマホを安心・安全に利用するためのサービス(警告表示など)を考える授業。プログラミングでロボットを動かす基礎を学びながら、社会人と一緒に、そのロボットの動作によって人の役に立つサービス(健康管理や道案内など)を考える授業。大学生と一緒にネットマナーを学びながら、海外にいる青年海外協力隊の人とネット上で情報交換し、地球規模の課題に自分たちは何ができるかを考える授業。

 協同学習ではなく、文字通り「協働学習」。一緒に学ぶことそのものを目的とするのではなく、誰かと一緒に学び合ったことをもとに、他者に対してどんな働きかけをできるか考えるのだ。

「ICTや情報の扱い方を学んだ、その次なんですよね。みんなで情報社会の問題の解決を考えてみる。地球や地域で暮らす一員として何ができるか考えてみる。学んだことをもとに、生徒が誰にどのように喜んでもらいたいかを思い描く、そこにもっていきたいんです。人間は一人では生きていけませんし、他者や社会とつながることで本当の意味で『自立』していくと思うからです」

<生徒はどう変わったか>

自分のためにも社会のためにも情報を活用

 米田先生は、他の先生と協力して学校全体のICT環境整備も進めてきたので、生徒は他教科の授業でも、ICT機器やデジタル教材を使いこなすようになった。ある生徒にいたっては、学校主催の交流プログラムで台湾の高校生と仲良くなると、SNSでつながり、ネットの無料ビデオ通話を駆使して日本語と中国語を教え合うまでに! 卒業後、その生徒は台湾に留学した。

 ある生徒は、青年海外協力隊とネットでやり取りするなかで、今まで興味のなかった世界に目が向くようになり、各地域に日本や自分ができることを考えるようになった。

 また別の生徒は、ネットの安心・安全利用について授業で考え、他校の生徒や社会人とも意見交換する「高校生ICT Conference」にも参加。立場の違う人と話し合うほど「視野が広がる」ことを実感し、こんなコメントを寄せた。

「高校生の私たちが意見を出し合い、学び合うことが、これからのネット社会を作るうえで大切なことだと思った」

<今後行いたい授業>

高校生が教える側で、教師が教わる側もありえる!?

 学んだことをもとに生徒たちが社会にアクションを起こす機会も出てきた。スマホの利用について授業でプレゼンした生徒たちが、小学校で子どもたちに授業もする、といったように。

 高校生が保護者や教員に対して情報モラルの授業をする、といったことも始めていて、米田先生としてはこうした生徒の活動を継続していきたいそうだ。

 また、生徒が海外とのやり取りを通して日本の良さを再発見し、その強みを生かした課題解決や創造を考える、という授業も深めていきたいとう。

「世界中の人と出会い、SNSなどでずっとつながっていくこともできる時代。今後の社会では、多様な人と意見を出し合い、妥協点を見出すことがますます求められます。とはいえ、日本には日本でおもてなしや謙遜といった良い文化があります。そうした日本の良さも生かして、情報発信や周囲との協働をできるようになってほしいのです」

(取材・文/松井大助)