キャリアガイダンスセミナー2017 レポート

生徒にどんな資質・能力を育む
~これからの教育のカタチを考える~



これからの社会を生きて働いていく生徒たちのために、どんな資質・能力を育んでいけばよいのか。
小誌の特集で特に反響の高かった2つの特集「これからの社会でなぜ多様性が求められるのか? 」(Vol.417
「リーダーシップ教育で変わる生徒の未来」(Vol.413)を軸に、今、高校で求められている「学び」を
テーマとしたセミナーを実施いたしました。そのハイライトをお伝えします。
レポート:藤崎雅子/撮影:西山俊哉

【開催日時】2017年11月5日(日) 12:20~17:30
【開催場所】メルパルク京都


(プログラム1)
■基調講演
「インクルーシブ社会で『ともに』生きる力を養う教育」
講演者:塩瀬隆之氏(京都大学総合博物館 准教授)

 最初に登壇したのは、障がいのある人などとともに「ものづくり」をするインクルーシブデザインの専門家であり、
その手法を企業の製品開発や人事研修、小中学校のキャリア教育にも応用している塩瀬隆之氏。
インクルーシブ社会で生きる力を養うために必要な視点について、
グローバル教育の本質や働く環境の変化など多彩な話題と絡めながら語っていただきました。
随所に参加者同士の対話や共同作業が挟み込まれ、終始和やかなムードで進行。
最後には、学校教育が果たすべき役割の重要性と、現場の先生方を勇気づけるメッセージが伝えられました。


  

「仮に『ウルトラグローバルハイスクール』事業が始まるとしたら、どんなカリキュラムを提案しますか?
 ただし、英語は使わない、外国に行ったり交流したりしない、という条件つきで」。
塩瀬先生の話は、参加者へのこんな問いけからスタート。グローバルに向き合うことは、どういうことか。
大切なことは何かの本質的な問い掛けに参加者の思考もフル回転。

  

誰かの「ために」を掲げて何かをすることは、対等なコミュニケーションといえるか?
――シマウマの写真を見ていない人にその縞模様を説明するワークを実施。
シマウマをつぶさに観察し説明することを通じて、普段は気にも留めない部分に目を向け、
自然と視野を広げられていた参加者たち。「ともに」学ぶことの楽しさや難しさを体験。

  

「キッザニア」と「ミニシティ」という2つの仮想「子どもの街」を紹介。
大人が用意した仕事をこなすのではなく、子どもたちが失敗もしながら自分たちで考え創造していく「ミニシティ」。
そこで必要となる力は、学校教育で育んでいくべきなのだろうか。どう育んでいけばよいのだろうか。

  

これからの「はたらく」と「まなぶ」とは?
ロボットの仕事の現場への進出、社会に出てからの学び直しが極めて少ない日本の現状、変わりつつある企業の雇用形態…
さまざまな社会変化のなか、学校で子どもたちに何を備えさせておくべきだろうか。

  

社会を構成するのは「人」。数字をいじって変えられるものではない。
だからこそ、学校の先生にしかできないイノベーションの起こし方があるのではないか――
そんな塩瀬先生からの呼びかけで基調講演が締めくくられた。


(プログラム2)
■基調講演&ワークショップ
「これからの時代に求められる『リーダーシップ教育』とは?」
講演者:舘野泰一氏(立教大学経営学部 助教)

 近年、「リーダーシップ」について、役職に関係なくすべての人が状況に応じて発揮すべきスキルであると
捉える動きがあります。その新しい捉え方によるリーダーシップ教育プログラムを立教大学経営学部にて
実践する舘野泰一氏に、リーダーシップとは何か、なぜ今リーダーシップが求められているか、
どうやって育成するのかについて教えていただきました。
参加者の先生方が実際にリーダーシップを発揮してディスカッションをしてみるというワークショップも実施。
リーダーシップの重要性や育み方を体験的に学べるプログラムでした。


 

「リーダーシップ」に対し、
「一部の人のみが発揮するもの」「カリスマが必要なもの」「引っ張る等、前に出る行動が中心なもの」
と偏った見方をしていないだろうか。複雑化する現代社会においてチームで成果を上げていくためには、
全員が自分なりのリーダーシップを発揮していくことが必要で、それは学習可能なものであるという。

 

グループワークを行うにあたって、自分はどんなリーダーシップを発揮していきたいか。
最初に参加者それぞれが「たくさん意見を出します」「相手の話をしっかり聞きます」などの「リーダーシップ目標」
を考え、それを他のメンバーと共有したうえで、「生徒が高校を卒業して5年後、どのような人になっていてほしいか」
をテーマにしたディスカッションへ。

 

本セミナーの最後に登壇するために参加していた高校生たちも、「自分たちは5年後どのような人になっていたいか」
をテーマに同様のワークショップに取り組んだ。ある3人は、思い描く将来像はそれぞれで異なったが、
「自分が『楽しい』と思えることをしていたいという点は共通していた」と発表。

  

高校現場では、これからのリーダーシップをどのように育んでいくか。
そのヒントとして、部活動や委員会活動だけでなく授業の中で育む工夫の余地、体験的な学びを連続的に行う意義、
次どうするかという未来の視点をもった振り返りの重要性などが語られた。


(プログラム3)
■実践レポート①
「高校におけるリーダーシップ教育の活用について」
講演者:木村裕美先生(東京都立駒場高校 主任教諭)

 大学で取り組まれている「リーダーシップ教育」ですが、そのエッセンスは高校の授業にも取り入れられています。
都立高校にて自らの授業でリーダーシップ教育を実践している家庭科教員の木村先生に、授業に取り入れた理由から、
具体的な授業デザイン・評価の方法、それによる生徒の変容などを教えていただきました。


「生徒が主体的に行動する力を身につけるには、どうしたらいいのだろうか」…そう考えていた時、
木村先生が出合ったのが、「行動」にアプローチできるリーダーシップ教育だったという。
「クラスのメンバーとともに協働する練習を授業中で繰り返し行っていくことで、主体的に行動するために
必要な力をつけていけるのではないかと考えた」と、授業への導入の経緯が語られた。

木村先生はリーダーシップ教育による生徒の変容の評価にも取り組んでいる。
その例として、生徒が授業前・中・後の学習履歴を記録して自分自身で評価を行う「OPPA」(一枚ポートフォリオ評価)と、
生徒自身が1年間の変容をイラストを交えて表現する「KP法」(紙芝居プレゼンテーション法)の活用が紹介された。

リーダーシップ教育を授業に取り入れるようになって、
最も生徒が変化したことは「クラスメイトと一緒に考えるようになったこと」。
調理実習などでわからないことがあっても生徒同士で解決し、先生はあくまでサポート役に徹しているという。
生徒の主体性向上の背景には、教師としてのあり方の変化があることが浮かび上がった。


(プログラム4)
■実践レポート②
「翔べ 日高から世界へ ~これからの社会を生き抜くために~」
講演者:池田尚弘先生(和歌山県立日高高校 校長)


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 和歌山県中部ののどかな地域にある日高高校は、地域の幅広い生徒が学ぶ「ごく普通の高校」だといいます。
それが、あるイベント企画をきっかけとして、国内外の多様な高校生とともに世界的な課題の解決に向けた
取り組みを行う、グローバル教育先進校へと発展してきました。そんな同校の挑戦のプロセスと、
そのなかで積極性が高まっていった生徒の様子について池田校長が紹介。
もとから恵まれた環境になくとも、先生方や生徒の力で、よい方向に転換できるのではないかという、
大きな可能性を感じさせてくれる事例発表でした。


グローバル教育に力を入れるようになったきっかけは、2014年度、創立100周年記念事業として
16ヵ国・地域および東北の高校から高校生を招いた「アジア高校生フォーラム」を発案し、
生徒主体で開催したこと。教員も生徒も、世界に視野を広げることができたという。

「アジア高校生フォーラム」での出会いがもとで、地方課題の解決に中高生が取り組む
「OECD地方創生イノベーションスクール2030」に参加することに。
近隣の高校と5校で「和歌山クラスター」を組織し、同校が事務局となって活動。
ドイツやトルコの高校生とも協働しながら、課題解決のための取り組みを行ってきた。
昨年度からは「地方を創生するグローバルリーダーの育成」を掲げてSGH指定も獲得し、
さらに活動の幅を広げていることが報告された。

生徒は、町おこしの活動があれば自主的に参加し、話を聞きたい人がいれば自ら講師依頼のメールを送り、
地域の魅力を伝えるための活動資金をクラウドファンディングで募集する…。
与えられた学習だけでなく、生徒が自ら動く活動に力を入れてきた同校では、生徒の積極性が大きく増しているという。

(プログラム5)
■実践レポート③
「まだ見ぬ同世代と未知の離島で異文化交流」
講演者:育英西中学校・高校(奈良・私立)/関西大倉中学校・高校(大阪・私立)
    京都工学院高校(京都・市立)/倉敷青陵高校(岡山・県立)
    咲くやこの花中学校・高校(大阪・市立)/高田商業高校(奈良・市立)
    西大和学園中学校・高校(奈良・私立)/百合学院中学校・高校(兵庫・私立)
    上記学校の先生と生徒たち、NPOタテイトのみなさん


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 2017年8月、8つ学校の中高生が集まって「難しい課題に取り組むために必要なことは何か」を考える
合宿型ワークショップ「犬島サマーキャンプ2017」が開催されました。
これは、多様な学校の先生方とNPO法人タテイトとが連携して企画し、中高生31人、教員8人、社会人10人、
総勢49人の参加によって実現した、学校横断プロジェクトです。
その実現への道のりと成果について、主催したみなさんに報告していただきました。
また、キャンプに参加した中高生たちもこの場に再集結し、キャンプで学んだことや気づき・発見について発表。
生徒たちにとっては、キャンプから約3ヶ月が経過したところで、改めて自ら学びを振り返る機会にもなりました。

  

普通科・総合学科・専門学科、共学校・女子校…と多様性に富んだ学校の生徒たちを掛け合わせることで、
大きな学びの場にできるのではないか――そんな期待から「犬島サマーキャンプ」の構想がもちあがったのは、
2016年10月、多様な学校の先生が集まるワークショップのなかでのこと。
異なる学校が足並みを揃える難しさにくじけそうになりながらも、力を合わせてどうにか開催にこぎつけたという。

  

本当にうまくいくのかと不安のなかで始まったキャンプだが、ふたを開けてみれば、学校や年齢の異なる生徒たちは
初対面でも対等な関係を築き、難しい課題にも、先生やNPOの大人たち、島民と一緒になっていきいきと活動。
生徒、先生、NPOそれぞれが学びの手ごたえをつかむことができたことが報告された。

  

生徒たちも自ら「なぜこのキャンプに参加しようと思ったのか?」「学校の学びとはどう違う?どうつながっている?」
「違う学校の仲間と過ごして何を感じたか?」「自分の中に変化はあった?」などについて発表。
ある生徒は、「軽い気持ちで参加したが、実際の社会問題は思ったより複雑で難しくて、全然、答えが出てこなくてモヤモヤした。
でも、そのモヤモヤが、答えの見えない課題に立ち向かうために必要なものなんだと学ぶことができた」と語った。

企画・参加した先生方にとっての最大の学びは、無理だと思っていることも、みんなとつながれば意外とできるとわかったことだという。
「これからも、いろいろな学校の先生、生徒、NPO法人、地域の方々など、多様なみなさんとつながって、
今までやりたかったけれどできなかった、そういう取り組みを続けていきたいと考えています。ともに明日への一歩を踏み出しましょう」。
そう咲くやこの花高校の田中愛子先生が会場の先生方に呼びかけ、すべてのプログラムは幕を閉じた。


■情報交換会
登壇者も交えて、先生同士のつながりの場
  

  

セミナーの熱気はそのまま「情報交換会」へ。
登壇者および参加された先生方同士が講演の感想や意見を交換したり、これからの教育について熱く語り合いました。