キャリアガイダンス創刊50周年特別セミナー レポート

「探究」にどう取り組み、
生徒の資質・能力をどう育むか?

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いよいよこの4月から先行実施となった「総合的な探究の時間」に、教育現場ではどう臨んでいけば良いのか。
小誌の特集で特に反響の高かった2つの特集「なぜ今、『探究』なのか? 」(Vol.424)「『探究』で育む資質・能力とその評価」(Vol.425)でもご登場いただいた先生方他を登壇者に招き、学校全体で「探究」にどう取り組むかをテーマとしたセミナーを実施いたしました。
そのハイライトをお伝えします。

レポート:長島佳子/撮影:西山俊哉

【開催日時】2019年3月31日(日) 12:20~17:30
【開催場所】メルパルク京都


(プログラム1)
■基調講演
「カリキュラム・マネジメントの中核としての総合的な探究の時間にどう取り組むか」
 講演者:田村 学 先生(國學院大學 人間開発学部初等教育学科 教授)


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 基調講演に登場したのは、文部科学省の教科調査官や視学官を歴任し、2017年度より國學院大學で教鞭をとる田村 学教授。
「総合的な探究の時間」で、生徒にどんな資質・能力を身につけようとしているのか、学習指導要領の改訂の読み解き方や、そこで語られる「主体的・対話的で深い学び」の意味、高校の教育課程におけるカリキュラム・マネジメントの方法など、密度の濃いお話を頂きました。

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●「総合的な学習の時間」の振り返り

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 1998年に小学校から順次始まった「総合的な学習の時間」(以下、総学)で生徒(児童)たちがどう変わったかについて、さまざまな角度から紹介。田村先生がインタビューした小学生の声や高校の課題研究発表で実際に生徒たちが語ったこと、OECDのPISA(学習到達度調査)で、総学導入以降の生徒たちの学習到達度がV字回復していたこと、文部科学省の全国学力・学習状況調査のデータで「自分で課題を立てて情報を集め整理して、調べたことを発表するなどの学習活動に取り組んでいるか」が上昇傾向にあることなど、総学によって生徒たちの学びに変化が見られたことが共有されました。


●学習指導要領の改訂についての読み解き

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 新学習指導要領の改訂の方向性には、「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」の3つの視点があり、「何ができるようになるか」という資質・能力の育成が最重要と捉えるべきと田村先生。学習指導要領で語られている「総合的な学習(探究)の時間」で目標とする資質・能力について確認したうえで、それらを「どのように学ぶか」という学び方が、「対話的・主体的で深い学び」であることを再確認しました。
「対話的・主体的で深い学び」としていくために必要なこととして、「アクティブ・ラーニングの視点による授業改善(授業イノベーション)と、カリキュラム・マネジメントの充実(カリキュラムのデザイン)の両輪」が挙げられました。


●「対話的・主体的で深い学び」とは?

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 学習指導要領の改訂が発表されてから、幾度も語られる「対話的・主体的で深い学び」。「『対話的』『主体的』『深い』の中で一番大事なのは? 一番わかりにくいのは?」という田村先生の問いかけに、会場のほとんどの参加者が、いずれも「深い」に挙手。
 大切なのにわかりにくい「深い学び」とはどんな状態のことなのか。育成したい資質・能力の3本柱である「学びに向かう力・人間性等」「知識・技能等」「思考力・判断力・表現力等」のそれぞれについて、田村先生が学校現場でインタビューしたさまざまな生徒たちの声や学びの事例を基に解説していきました。
 事例の生徒たちはいずれも、仲間との対話や先生からの問いかけによって、当初自分が考えていたことよりも、熟考して理解したり、新たな考えを広げたりしており、田村先生は、深い学びのキーワードとして「つなぐ、つながる、つなげる」を挙げました。
 知がつながっていくことで、知識が構造化されて活用・発揮されていくような学びには、「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ→新たな課題の設定」という探究のプロセスを踏むことが適しているとわかりました。


●授業のイノベーション

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 次に、前述の「対話的・主体的で深い学び」としていくために必要な両輪についての具体的な解説に入りました。まず最初は、「アクティブ・ラーニングの視点による授業改善(授業イノベーション)」について。
 アクティブ・ラーニングの本質は、グループワークや動き回ることではなく、自分のもっている知識を仲間などにアウトプットしながら考えを深めていくことであり、その学習効果について生徒の事例や全国学力・学習状況調査のデータから解説。
 生徒たちが考えを深める際に、既にさまざまなところで作成されている「思考ツール」や「探究マップ」などを使うことが有効であることが紹介されました。
 総合的な探究の時間における学習の姿は、探究のプロセスを踏むことが適していると前述していますが、こうしたツールやリソースを利用しながら、探究の通過点を具体化し、到達点を明確化することで、高度で自律的な探究になると田村先生は語りました。
※「思考ツール」の一例は小誌Vol.425でもご紹介しています。


●カリキュラムのデザイン

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 「対話的・主体的で深い学び」としていくために必要なもう一つの車輪が「カリキュラム・マネジメントの充実(カリキュラムのデザイン)」。田村先生はカリキュラム・マネジメントは、一部の担当者やミドルリーダーだけでなく、教科の先生全員に携わってほしいと語りました。それは、総合的な探究の時間が「横断的・総合的な学習を行う」場であり、教科等間の活用・発揮が欠かせないためです。
 カリキュラムのデザインには①グランドデザインを描く、②単元配列表を描く、③単元を描く、の3階層があり、それぞれのポイントについて解説。①では、各学校の教育目標を改めて見つめ直し、育成を目指す生徒の姿を資質・能力の3本柱と照らし合わせて具体化することの重要性を語りました。②の単元配列表は、教科の横断的な学びである総合的な探究の時間を中心とすると便利であること、すべての単元を盛り込むと実現が難しくなるため、①で具体化した育成目標のいずれか(短期目標)にフォーカスして、作成すると良いことが提示され、田村先生の講演は終わりました。
 90分の講演とは思えない盛りだくさんの内容に、参加者の先生方は集中して耳を傾けていました。
 

(プログラム2)
■実践レポート①
「『課題研究』で学びを深め、ポートフォリオで学びをつなぐ」
 講演者:早川保彰 先生(山梨県立甲府南高校 教頭)

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 SSH指定校として4期目の活動に入っている甲府南高校。2004年度のSSH第1期から探究に取り組み、生徒たちの研究内容を受験などでも使える形に残そうと、SSH第2期(2007年度)からポートフォリオを導入しています。生徒たちの学びの成果を見える化し、生涯の学びにつなげていこうとする取り組みについて、SSH第1期から携わっている教頭の早川保彰先生にお話しいただきました。

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 文系・理系問わず全校で探究に取り組んでいる同校の、4期15年にわたるSSH の取り組みの実績についての映像視聴から始まりました。生徒たちの日常の授業の様子、海外研修や全国レベルでの科学系コンテストでの受賞など、生徒たちの成長の様子がうかがえました。


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 4期目のSSHは「フロンティア探究」という科目に位置づけられ、1学年から3学年まで学年ごとに課題研究を行っています。研究担当者の教員構成は学年によって異なりますが、どの学年でも必ずHRT(担任)が1単位は受け持つことで、キャリア教育へのアプローチもできるようにしています。


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 3期目のSSHから、課題研究で生徒が何を目指せば良いかを意識でき、自己評価や相互評価の振り返りができるよう、ルーブリックを導入。年に2回の振り返りで、目標到達度を数値化しています。


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 SSH第1期から課題研究で生徒の研究内容を形に残していますが、受験などで「SSHで何をしたか」を語れるよう、第2期からポートフォリオを導入。第4期の現在は「SSH PORTFOLIO」の他に、課題研究以外の日常的な特別活動や課外活動の記録もできる「Frontier Discovery」というポートフォリオも導入し、探究学習を深めています。


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 2017年に、山梨大学、山梨県教育委員会、県内の11高校が参加する「山梨高大接続研究会」がスタート。ポートフォリオを単なる受験のためのツールとするのではなく、大学や社会でやりたいことに結びつける「キャリア・パスポート」に発展させるべく検討中だと早川先生は語りました。

参考【キャリアガイダンス本誌の事例レポート】
ポートフォリオで生徒の学びをつなぎ、高校・大学を通して生徒の成長と進路選択を支援


(プログラム3)
■実践レポート②
「探究をコアにした横断的なカリキュラムで主体性向上を目指す」
 講演者:佐藤友洋 先生(北海道立浦河高校 キャリア・ガイダンス部長)

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 2012年に商業高校との再編統合により普通科から総合学科高校に生まれ変わった浦河高校。2016年に国立教育政策研究所「教育課程研究指定校」の研究指定を受け、カリキュラム・マネジメントの視点での学校改革に取り組み始めました。その中核にあるのが探究です。学校改革の中心を担うキャリア・ガイダンス部の部長である佐藤友洋先生が、過去2年間で取り組んできたことについて熱く語ってくださいました。

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 総合学科として5系列を有し、生徒の進路は国公立大学から就職までと多様な生徒が学ぶ浦河高校。素直で純朴な一方で、生徒たちに主体性が欠けていることが課題だったと佐藤先生。国立教育政策研究所の研究指定を受けたことを機に、学校改革が始まりました。
 「探究のプロセスにおける協同的な学習によって、思考力・判断力・表現力等の育成を重視した学習・指導方法及び評価方法の工夫改善についての研究」をテーマとし、主体的に行動できる生徒の育成を目指すこととしました。


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 カリキュラム・マネジメントの視点に基づく各教科・科目横断的なカリキュラムの展開を設定。「校訓をベースに新たな学校教育目標を設定し」「目指す生徒像を明確化し」「身につけたい資質・能力を明示して、コアルーブリックで評価」することとしました。
 カリキュラム策定は、まずそれまで、教科、総合的な学習の時間(以下、総学)、特別活動などでバラバラだった生徒育成を、目指す生徒像に向けて一本化し、教科、総学については単元配列表に落とし込みました。単元配列表を作成したことで、「いつ、誰が、どんなコンテンツで」授業を行うかを共有でき、各教科で得られる資質・能力も共有できるようになったと言います。
 また、生徒、教員、地域によるアンケートを実施し、生徒の主体性等の変容を把握。さらに育成を目指す生徒像を9つの能力に落とし込んだコアルーブリックを作成し、生徒自身が自己評価できるようにしています。このルーブリックによって、生徒は自分が目指すべき到達点を知ることができ、先生たちも今何をやるべきか指導に役立つと好評とのこと。


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 次に、各学年の探究活動の実際についての紹介がありました。1年次は産業社会と人間で個人活動、2年次は総学でインターンシップとグループでの課題研究、3年次はグループでの課題研究に取り組みます。課題研究では2年次は世界をテーマに、3年次は地域をテーマとすることで、世界を知ってから地域に戻らせ、「世界に誇れる北海道人」の育成を意識しています。
 昨年、就職を希望する3年生のグループが取り組んだ課題研究が、和歌山県主催のデータ利活用シンポジウム「第2回データ利活用コンペティション」で『大賞』を受賞したそうです。進学ための探究でなく、生きていくための学びだと佐藤先生は熱く語ります。
課題研究にあたって浦河高校が意識していることは、社会的価値のあるテーマであること、調べ学習で終わらず必ずアクションに移すこと、外部評価を受けること。そして、組織的に取り組むことの必要性を佐藤先生は語りました。「生徒が変わる瞬間を見れば、先生たちは探究の必要性を理解します。探究をやると先生も変わります」と締めくくりました。

参考【キャリアガイダンス本誌の事例レポート】
探究をコアにした横断的なカリキュラムで主体性向上を目指す


(プログラム4)
■講演&ワークショップ
「探究の問いをどう“自分ごと化”していくか?」〜「大船渡学」に学ぶ探究の問い磨き
 講演者:梨子田 喬 先生(岩手県立大船渡高校)※写真右
     菊池広人 先生(東北学院大学 地域共生推進機構 特任准教授)※写真左

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 「大船渡を学ばない大船渡学」として、地域をフィールドに生徒の学びたいことを学ぶ探究を行っている大船渡高校。2017年にマイプロジェクトアワード(NPOカタリバ主催)において文部科学大臣賞(大賞)を受賞した生徒が出るなど、着実に効果を上げています。問いの設定と問い磨きを徹底的に行い、真に主体的な学びを目指す大船渡学のエッセンスを参加者に体感してもらいながら、今日のセミナー全体で学んだことを自分ごと化してもらう、ワークショップ形式の講演を実施しました。

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 最初に菊池広人先生より、「これまでの学びを『ジブンゴト化』し、『具体的な活用イメージ』を付加して、持ち帰る。次の一歩に向けた想像を膨らませる」という、このセッションの到達点について解説。  今日1日のセミナーで得たことを、自校に戻ったときにどう活用させて探究を進めるかを、参加者の皆さんに考えてもらうことが目的です。そのために、梨子田 喬先生による「大船渡学」の概要やポイントの解説を盛り込みながら、菊池先生がワークショップを進行する形式となりました。  「高校生は生徒? 学生? 高校生たち自身の答えは?」などのシンプルな数問の設問を考えるウォーミングアップの後、ワークショップがスタートしました。

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 参加者全員にA3サイズの紙が配られ、その中心に「探究」という言葉を書きます。次に、今日のセミナーでの気づきを単語で20個周りに書き入れ、単語同士のつながりを線で結んでいきます。書き終わったら、3〜5人のグループで、隣の人が書いた単語の中で、気になったものについて話すワークを実施。  書かれた単語、語られた内容は実にさまざま。例えば「教員」という言葉について「探究は協働であり、教員はファシリテーター役だけれど、生徒と一緒に考える主体でもある」と語る参加者もいれば、「管理職」という言葉について「探究を始めるにはミドルリーダーとして校内で動かさなければならない対象が多いが、管理職を動かすために、カリキュラム・マネジメントを自ら立てて、根拠をもって管理職を説得したい」と語る先生もいるなど、活発な意見交換が行われました。

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 次に、用紙の裏の左半分に、今日の学びを基に自分から出た探究についての「問い」を各者12個書いた後に、グループ内で特に大切だと思う問いを2つ選んでもらいました。2つのうち1つの問いについては、グループ内で解決策や気づきなどについて話し合い、もう1つは予め用意された質問用サイトにスマホから投稿。  投稿された問いの中で多かったものに対して、大船渡学ではどうしているか、梨子田先生からお話がありました。  多かった問いは「探究のテーマ(問い)の立て方と磨き方」。これについて梨子田先生は、問いはあくまで生徒自身からやりたいことを引き出すこと、問いを磨くためには教員との対話が必要で、そのために教員からの声かけ例のルーブリックを作成していることが語られました。  また、「生徒の主体性を育む際の教員の役割は?」という問いに対し、教員は教えたがるマインドセットを変える必要があること、生徒と教員は対等な関係で議論する姿勢を育てること、探究に対する生徒の感想は多様であるため、働きかけにもパターンが複数あることなどが解説されました。  さらに「探究に評価は必要か?」という問いに対し、梨子田先生は、評価は生徒の主体性を高めるためのものでなければならず、自己評価や相互評価など多面的な評価が必要で、成果物の完成度を評価するのではなく、振り返りの質を評価すべきと語りました。

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 参加者の問いに対するやりとりの後、振り返りを行いました。用紙の残りのスペースに、「セミナー前後での自分の変化(探究に対する見方・考え方の変化)」「これから変えたいこと」を書いてグループで共有。  最後に菊池先生から、「自分らしい探究」を高校時代に見つけることがその後の人生の財産になること、梨子田先生から、「対話的・主体的で深い学び」の中で、梨子田先生たちは「主体的」が最も大事だと考えていること、主体性が身につけば生徒たちは自走して学び始めると語り、すべてのセミナーが終了しました。

参考【キャリアガイダンス本誌の事例レポート】
探究の問いをどう“自分ごと化”していくか?


■情報交換会
登壇者も交えて、先生同士のつながりの場

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セミナーの熱気はそのまま「情報交換会」へ。
登壇者の周りには長い列ができ、参加者の先生方の関心の高さがうかがえました。
先生方同士、講演の感想や意見を交換したり、これからの教育について熱く語り合っていました。