Case “生徒の可能性を拓く”高校実践事例②京都すばる高校(京都・府立)

【地域共働】
地域課題をまずは〝じぶんごと化〞、そして〝みんなごと化〞して解決に取り組める人を育成

京都すばる高校(京都・府立)

【目指す生徒像】素直でまじめな入学者を地域課題解決の当事者に

 京都すばる高校は商業と情報に関する学科を設置する専門高校だ。本稿では、2019年に従来の商業3学科を改編してスタートした、起業家精神で地域社会をデザインする人材を育成する「起業創造科」と、企画力で京都と世界をつなぐ人材を育成する入学する生徒について、同学科の教員は「素直」「まじめ」といった特徴を拳げる。入学時、生徒の自己認識を聞いたアンケートの結果では、「傾聴力」が突出して高く、「主体性」や「発信力」などは低めだ(図2)。そんな生徒の傾向を踏まえて、新学科では、従来から力を入れてきた地域協働を発展させ、商業の現場や多様な大人に関わる機会の一層の充実を図っている。
「目指すのは、当事者意識・探究力・論理的思考力・協働力を備え、ビジネスの視点から京都の課題を発見、解決していくことのできる人材の育成。知識詰込み型の学習から脱し、商業の知識・スキルをベースに実社会とつながり地域課題に生徒主体で取り組む学びを推進していきたいと考えています」(地域協働推進室長・北川博士先生)

後方右から地域協働推進室長の北川博士先生、起業創造科長の河野翔太先生、企画科長の小川建治先生、地域協働学習実施支援員の三木俊和さん

【実施内容】当事者意識をもつみんなが周囲を巻き込み課題解決

 地域協働の中心的なプログラムは、専門科目や学校設定科目で展開する「みんなごと化プロジェクト」(図1)。地域課題を「じぶんごと」と捉え、「みんなごと」として取り組み、実際に社会を変化させるところまでを目指す。  まず、1学年では「じぶんごと化」を掲げて、学科ごとのテーマに取り組む。 19年度、起業創造科では、個人商店を訪問して「京都伏見の商いリサーチ」などを実施した。同科長・河野翔太先生は「商業の知識やスキルが活用されている現場を知り、教室の学びと社会のつながりを実感することでじぶんごと化につなげたい」と話す。また、企画科では、近隣に日本とアフリカの遺児のための教育施設が開設予定であることを受けて、地域住民にアフリカを紹介する企画の提案に取り組んだ。同科長・小川建治先生は、「自分とは縁遠いテーマだからこそ、生徒は自分の視野の狭さ、当事者意識の必要性に気づくきっかけになった」と振り返る。

2学年では「みんなごと化」を掲げ、グループで課題解決に取り組む。内容は、起業創造科では地域や企業の課題、企画科は開発途上国の社会課題を解決するビジネスプラン作成など。
「本校の考える『みんなごと化』とは、単に集団でやることではなく、当事者意識をもつ一人ひとりが自分の強みを活かして貢献し合うこと。一人ひとりの『じぶんごと化』でできることは小さくても、『みんなごと化』すれば地域を変えられるぐらい大きな力になるはず。生徒たちは、メンバーの意見の違いや温度差の壁に何度もぶつかり、試行錯誤しながら、着実に成長しています」(北川先生)

そして3学年では、自分たちで考えた課題解決策の〝実践〞を目指し「課題研究」に取り組む。昨年度は、伏見稲荷大社の観光客によるゴミ問題に対し端切れ布を使ってごみ袋を制作し配布する活動や、オーバーツーリズムによる諸問題の解決策を行政・地域に提案するなど︑地域を巻き込み活動したグループも。こうした動きが今後さらに深まり、広がることが期待されている。「地域の方や教員のサポートによってできることも多いですが、生徒にとっては『自分たちでやった』と思えることが大事。『先生は何もしてくれなかった』と勘違いするぐらいがいい。その方がこの先がんばっていく力になるはずです」(副校長・貴島良介先生)

2019年度「課題研究」の様子。
(左)観光地のごみ問題解決のため手製ごみ袋を配布。(右)オーバーツ ーリズムの課題解決に向けて地域の会議で議論。

同プロジェクトの特長は、フィールドワークだけでなく、教室でも多彩な大人とつながる授業が豊富にあり、生徒が日常的に社会の実態や多様な価値観・生き方に触れていることだ。今年度は、留学経験者との交流、学生ベンチャーのメンバーとのワークショップ、税理士による税に関する講義とグループワーク、青年海外協力隊参加者のオンライン講演会などが行われた。
「教員以外の大人にたくさん出会わせることこそ、教員の仕事。多様な価値観をもつ人の話を聞き、そして交流できる場を作りたい」(小川先生)

学校に外部人材をつなぎ、自身も定期的に授業に参加している地域協働学習実施支援員の三木俊和さんも、生徒に社会を伝える一人。「教科書に書かれていることにいかにリアルな肉付けができるかが大事」と、事実と本音を伝えることを心掛けているという。

素直だからこそ、生き生きと活動する大人の話から受ける刺激は大きく、そこでスイッチが入る生徒は多い。留学経験者との交流後は「留学したい」という生徒が何人も出た。
「その意欲をうまく持続させて伸ばすのも教員の役目。興味をもった生徒には間を置かず関連資料や活動募集情報を渡すなど、次の一歩を踏み出す機会を提示するようにしています(」小川先生)

【生徒の変容】傾聴力に加え、主体性・発信力が向上

さまざまな刺激のなかで、目標を見つけて活動的になる生徒は多い。年生の後藤結衣さんは中学までは秘書の仕事に憧れていたが、今は地域の伝統工芸を盛り上げるための起業が目標に。それには財務や経営についてもっと学ぶ必要を感じ、進路希望を就職から大学進学に切り替え勉強中だ(コラム参照)。また、インプット型の授業では目立たない生徒が地域課題解決のリーダーとして活躍するケースもある。「埋もれがちだった生徒にもスポットが 当たり、意外な一面を発掘できる授業を目指したい」と教員は口を揃える。

生徒の変容はデータにも表れた。新学科1期生のアンケート結果では、1年間で「主体性「」実行力「」発信力」などの項目が大きく増加(図2)。傾聴力をもって入学した生徒たちが、自ら動き始めているようだ。教員は手応えを感じながらも、「もっと伸びる」と生徒の可能性の大きさにさらなる期待を寄せている。
「授業を飛び出して尖った活動をしてほしい。生徒がやりたいということを、我々教員は全力でサポートしていきたいと思います」(北川先生)


生徒インタビュー

中学の時は消極的なタイプでしたが、この学校で自ら活動し考えを周囲に訴えかけていくことを繰り返すうち、苦手だったこともできるように。また、「起業は誰か偉い人がするもの」というイメージが変わり、「地元のために自分にできることをしたい」と自らの起業を考えるようになりました。一歩踏み出して活動するのは、こんなに楽しくてわくわくするものだと、みんなにも知ってほしい。私が率先して活動しきらきらしたオーラを出すことで、その楽しさが周りに伝わったらいいなと思っています。(起業創造科2年生・後藤結衣さん)

僕は自分の考えを伝えるのが苦手でした。でも、1年生のプロジェクトで「人に任せてばかりじゃいけない。自分の言葉で伝えないと」と感じたことが、自分を変えるきっかけに。全員の得意分野を合わせれば、できることが広がります。僕は国語が得意なので、資料の文章をまとめたりする面で貢献しようと努力しています。将来の目標は鉄道の仕事に就くことですが、鉄道は全員が力を合わせて動かすもの。目標のために大切なことを、今、学んでいると思います。(企画科2年生・柿田 諒さん)

学校データ:1985年創立/起業創造科(1・2学年のみ)・企画科・会計科(3学年のみ)・ビジネス探求科(3学年のみ)・情報科学科/生徒数860人(男子430人・女子430人)/令和元年度「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」(プロフェッショナル型)指定校。

取材・文/藤崎雅子