Case “生徒の可能性を拓く”高校実践事例④高松第一高校(香川・市立)

【授業】
間違いを恐れず学び合う授業を組織的に推進し生徒の〝本気〞を引き出し伸ばす

高松第一高校(香川・市立)

【目指す生徒像】〝与えられて動く〞から〝自ら考え行動する〞へ

高松第一高校は普通科と音楽科を設置する県内有数の進学校だ。国際社会や地域で活躍する人材の育成を目標とする同校の教員は、生徒が潜在的にもつ大きな可能性を拓く必要性を感じているという。

「本校の生徒は何事もうまく行えますが、もっと自分から動き、積極的に〝失敗〞してほしい。そして、へこたれず にもう一回チャレンジしてほしいですね」(SSH研究開発主任・佐藤哲也先生)

「社会に出たら、与えられたことをやるだけでは不十分。自分で考えて行動する力を身につけてほしいと思います」(進路指導主事・湊博之先生)

左端が進路指導主事の湊 博之先生、右端がSSH研究開発主任の佐藤哲也先生

同校は2010年、自ら考え判断し行動できる人材の育成を掲げてスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定校となり、理科を中心にアクティブラーニング(AL)型の授業に取り組み始めた。生徒の変容に手応えを感じ、 年のSSH2期目から全教科に対象を拡大。同3期目(図1)の現在も、各教科で身につけたい力を設定し授業改善を進めている。

「ある教科は苦手で積極的に動けない生徒が、別の得意教科では活躍できることも。それで『自分にもできる』と思えれば、ほかの場面でもチャレンジできるようになる。その機会を多くの授業につくり、幅広い個性の生徒が一歩を踏み出す後押しをしたいと思います」(湊先生)

【実施内容】多様な仕掛けで本気の学びへいざなう

同校が目指す授業とは、「生徒同士が学び合う場」となることだ。その第一歩として、「間違えてもええんやで」という雰囲気づくりを大切にしている。「まずは自分の考えを、なるべく筋道立てて発言してみる。正解かどうかは問わない。それからほかの人の意見を聞いて腑に落ちたり、新しい考え方に気づいたり…そんな生徒同士の学びの相乗効果をねらっています」(佐藤先生)

湊先生は、簡単なペアワークから徐々にグループの人数を増やすという。「おとなしい生徒も発言のチャンスを得やすいよう、初期はグループで自由な議論に入る前に一人ずつ順にひと言発言する時間を設けています。回数を重ねるうちに、そのような時間は不要になっていくものです」(湊先生)

こうした発言しやすい環境を土台として、各教員がパフォーマンス課題や発問を工夫した授業を行い、生徒の「面白い」と思うことから本気を引き出そうとしている。例えば今年度の国語科では、「羅生門」の単元で「下人は有罪か」の模擬裁判を通じて登場人物の心情の変化を捉えながら小説の面白さを味わい、評論文の読み解きにはジグソー法を活用し理解を深めた。また、短歌の作品世界の演劇化にも挑戦。グループで意見を出し合って脚本を作成し、作者の心情や背景を堂々と表現した。

(左)演劇を取り入れた現代文の授業。グループで作成した脚本を自ら演じ、短歌の世界を表現。
(右)理科の実験の様子。入学時は記録を取ることに一生懸命だった生徒たちが、役割分担して積極的に動くように。

「学びが与えられるものから自分ごとになると本気が出てくる。しかし、これをやれば一律に生徒が変わるという手法はありません。多様な手法を取り入れることで、今日は何をやるんだろうという気持ちで授業に臨み、どこかで『面白い』と響いて本気で学びを求める 力になればと考えています」(湊先生)

また、理科では問いの設定を重視。あえて誤概念が生じやすいポイントを問いにし、深い思考のきっかけを作る。「できる子が間違った予想をすると、みんな引きずられて間違えて、実験してみると違う結果になる。生徒から『あれ?なぜこうなるの?』といった声が上がると『よし!』と思いますね」(佐藤先生)

こうした授業改善のために、AL型授業の研究者による教員研修や、自主勉強会の毎月開催などをしてきたが、数年前からはチームで授業力向上にあたっている。全教員が3〜4人に分かれ、若手の柔軟性とベテランの知識・経験を融合させながら、教材開発やパフォーマンス課題の検討などを行っているのだ。「一人より複数で考えたほうがさまざまなアイデアが出てくる。たくさんの気づきをもらっています」(湊先生)

多様な視点、多様な手法の導入に全校的に取り組む同校では、今年度、総合的な探究の時間のリニューアルにも着手。「SSHで理科の探究活動を行ってきましたが、理科だけではなくさまざまな教科の探究を通して、一つの物事を異なる教科の視点を活かし多彩なアプローチができる人になってほしい」(佐藤先生)と、各教科が設定する探究テーマに取り組む「未来への学び」を立ち上げた(図2)。生徒は文・理別の4テーマに取り組み、最後に最も興味をもった1テーマをさらに深める。例えば地歴公民科では「SDGsに関連した提案」、生物科では「ダンゴムシは学習するか」、体育科では「新しいパラスポーツ種類の開発」といったテーマを設定している。

「その効果をさらに高めるため、来年度は一部の時間で文・理を横断したテーマに取り組めるプログラムを検討しています」(佐藤先生)

【生徒の変容】根拠をもって活発に議論。チャレンジする生徒が増加

 全教科のAL型授業を推進して6年目。授業中の生徒の様子は年々変化してきたと佐藤先生は振り返る。「教員が教え込まなくても生徒同士で考え意見交換するなかで結論を導き出すことが増えた。生徒ってこんな力があるんだと知ることができた」。グループディスカッションでは数年前に比べて発言を恐れない生徒が増え、「最近では自分たちで討論の状態を分析して場をリードする生徒もあり、深い議論ができるようになった」と湊先生。生徒の変化は部活動にも表れ、指定された練習メニューをこなすだけでなく、生徒同士で話し合って活性化を図る例も増えている。また、探究活動の成果を発表する全国大会にこれまで興味を示さなかった生徒たちが、今年度はチャレンジしたいと何組も手を上げた。

今後は各教科で生徒が一層深く学び合う授業を推進していくとともに、教科横断型の授業にも挑戦する計画だ。さらに学校行事の見直しも検討している。「教員の『学ばせたい』ではなく、生徒の『学びたい』から生徒自らが作るプログラムのほうが、生徒の本気が引き出せるのではないか。そんな生徒主体の活動を授業内外で充実させていきたい」(佐藤先生)


生徒インタビュー

中学までは内気で、自分の考えを人に伝えることが苦手でした。でも、高校では周りの子がどんどん意見を言い、人の意見も受け入れてくれるので、「人と違う考えでも言っていいんだ」と私も発言できるようになりました。もっとさまざまなことに挑戦して、大学では留学するのが目標です。(1年生・利國としくに桜文さやさん)

考える時間やグループワークが多い授業は、大変だけどすごく楽しい。苦手な数学の授業もがんばれるようになりました。課外では、先日クラスの有志とオンラインの模擬裁判選手権に参加し、他校生から多くの刺激をもらいました。今後も学校外の活動を積極的に行い、自分の世界を広げていきたいと思います。(1年生・沖山実菜帆みなほさん)

課題研究などで発表機会が多く、どうすれば人に伝わるかをよく考えるように。それはバレー部の活動にも活き、自分から改善点の提案やプレー中の声出しを心掛けたことで、部の明るさに役立ったと思います。将来はアプリ開発の仕 事をしたく、チームでの開発に高校での経験が役に立ちそうです。(3年生・松井遥暉はるきさん)

課題研究では「昆布の旨味を出す乾燥方法」をテーマに、みんなで意見を出し合って効率よく実験を進めることができました。そのなかで、以前は周りの意見に流されやすかった私も変化 し、お互いの意見を主張し合うことを楽しむようになりました。(3年生・藤井陽奈子ひなこさん)

学校データ:1928年創立/普通科・音楽科/生徒数908人(男子342人・女子566人)/令和2年度指定スーパーサイエンスハイスクール(3期目)。

取材・文/藤崎雅子