学びのみちしるべ【第17回】/保育学

大学での学びの中身と、その学問が社会でどう役立つのかを大学の先生が解説。
進路選択のみちしるべとなるよう、高校での学びがその学問にどうつながるのかもお聞きしました。

お茶の水女子大学 アカデミック・プロダクション 宮里暁美特任教授


 この学問の内容、面白さは? 

人間とは何か、子どもとは何かを
子どもと接しながら考える。とても実践に近い研究

 保育学とはまず「人間とは何か」「子どもとは何か」「人はどうやって人になっていくのか」といった根源的なことを学ぶ学問です。その基盤への理解が深まったところで幼児教育施設の役割や、そこで子どもたちと過ごすうえでどんな環境、どんな援助が必要かも学びます。一人ひとりの子どもが社会や周囲の大人との関わりのなかでどう育っていくのかを追求していくことで、社会全体を理解することにもなります。
 私は幼稚園で長く働いてきました。そこでの経験を生かし、現在、次の3つを研究テーマにしています。ひとつは認定こども園です。こども園とは幼稚園と保育園を合体させた施設。2016年4月、文京区とお茶の水女子大学が協力して設立したこども園の園長になり、昨年まで勤めていましたが今はアドバイザーとして関わっています。よりよい保育の形を実現するうえで大きな可能性を秘めていると考え、こども園での取組をさまざまな形で発信し続けています。2つめは、幼児の「やりたい!」が発揮される環境のあり方についての研究です。子どもには自ら育とうとする心があります。0~2歳児の場合、その子が動こうとしたり、何かをやろうとする気持ちをとらえながら、いろいろなことをより感じられる環境づくりが大切。また、3~5歳児は興味の追求ができ、かつ自然環境が必要になってきます。そうしたことを踏まえ保育者としてどのような援助をすればいいのかを考え、実践しています。3つめは「創る」が身近にある生活が子どもにもたらす影響についてです。保育園、幼稚園、こども園という園内で多様な大人に出会う機会があれば、子どもたちは今以上に大きなものを得られるのではないか。特にモノの作り手が園内にいることでその先で踏み出していく“社会”というものを身近に感じる第一歩になるのではないかと考え、今熱心に取り組んでいるところです。
 保育学はとても実践に近いのが私には魅力的です。子どもに寄り添いながら、小さな変化や行動の意味を感じ取り、保育者としてできることを考え続けることが保育学の一番の面白さです。


 社会でどのように役立つ? 

保育の仕事だけでなく、保育学で身につけた
子どもへの眼差しはどんな仕事にも必要

 もちろん幼稚園教諭、保育士など保育者としての仕事に直結します。子どものための仕事に就きたい人にとって必要な学問です。ただ、個人的には保育学を学んだ人が多種多様な分野で活躍してほしいと思います。子どもに対する眼差し、寛容度が備わるからです。そういう大人が増えることで社会もより豊かになります。決して子育て中の親を優遇しようといったことではありません。あくまで「子どもって好奇心の塊だよね」とか、「自由に選べるものがあるとイキイキする。逆に制限されるとストレスが溜まりやすく混乱する」といった子どもの特性がわかっていると、例えば、企業で子ども向けのサービスを考えたり、地域でまちづくりを行ううえでも今までにないアイデアを生み出すことができると思います。


 高校の科目とのつながりは? 

何かに夢中になったという経験が
子どもを理解し、保育を考えることに役立つ

 学業はもちろん大切ですが、音楽、絵を描くこと、ダンスなど何でもいいので夢中になるものを見つけてそのことにしっかり取り組んでほしいですね。何かに夢中になる感覚は子どもを理解したり、保育を考えたりするのに非常に近いものがあるからです。私見ですが、好きなことがある人は保育者として伸びていく気がしています。また、保育士、幼稚園教諭など保育者の仕事はさまざまな人間関係のなかで進めていくものなので、人と協力し合う力も大事です。


 オススメBOOK 

RANGE

『遊びが学びに欠かせないわけー自立した学び手を育てる』
(ピーター・グレイ著 築地書館)

よく遊ぶ人は思考が柔軟でより豊かな学びへと到達できることを教えてくれる。


(取材・文/いのうえりえ)



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学びのみちしるべ【第17回】保育学

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